類はすこぶる機嫌が悪かった。
そんな類の顔を、恐る恐る覗き込むつくし。
一向に機嫌のよくならない彼に、溜息が出る。
事の発端は今朝つくしの元に届けられた1着のドレスだった・・・・・。
送り主は『道明寺司』。
もうそれだけでも類の機嫌を悪くするには十分なのだが・・・・・。
「別に、プロム用とは書いてないし・・・・・。単なるプレゼント、じゃない?」 つくしがそう言っても、類はまるで聞く耳持たず。 類たち3年生の卒業式まであと1週間。 つくしをパートナーに誘った類は、つくしのためにドレスも当然用意していたのだ。 そこへ、絶妙なタイミングで司から届いたのは、淡いブルーのシフォンのドレス。 シンプルだが、大きく胸と背中の開いたそれはかなり大人っぽく、さすがに着るのを躊躇してしまうようなデザインだった。 「単なるプレゼントを、何でこの時期に?誕生日でもないのに。プロム用に決まってるよ」 むっとしたままそう言い放つ類。
N.Y.で司と別れ、迎えに来てくれた類とそのまま付き合うようになったつくし。 それから司もかなり忙しかったようでずっと音沙汰なかったのだが・・・・・
「でも、道明寺からもらったドレスなんて着ないよ、あたし」 つくしの言葉に、漸く類がつくしのほうを見る。 「・・・・・ほんとに?」 「当たり前でしょ?花沢類と付き合ってるのに・・・・・。道明寺がどういうつもりでこんなもの送ってきたのか知らないけど、あたしは、もう道明寺とは何の関係もないんだから」 真っ直ぐに類を見つめながらそう言うつくしに、類はほっとしたように少し微笑み、その髪に手を伸ばした。
そして、ゆっくり2人の顔が近づき、唇が触れ合おうとしたその瞬間・・・・・
ブルブルブル、と2人の間で何かが振動し、つくしが慌てて飛びのいた。 「ひゃあ、何?」 「・・・・・携帯、牧野の」 「あ・・・・・」 つくしが首からかけていた携帯のバイブの振動だった。 学校にいる間は、マナーモードにしていたのをそのままにしていたのだった。 「ご、ごめん」 そう言って、つくしは慌てて携帯を開いた。 そしてその画面を見た瞬間、つくしの表情がさっと変わる。 「どうした?」 「・・・・・道明寺だ・・・・・」 つくしの言葉に、類の顔色も変わる。 「ドレスのこと・・・・・じゃない?」 つくしは躊躇しながらも、携帯のボタンを押した。 「・・・・・はい」 『牧野か、俺だ』 聞こえてきたのは、確かに司の声だった。 『ドレス、届いたか』 「うん。どういうつもり?」 『・・・・・プロム用だ。着て来いよ』 「なんで・・・・・」 『俺が、プロムに行くからだ。お前が、パートナーだ』 「何言ってるの?もうあんたとあたしは終わったんだよ?あたしはもう―――」 『俺の中ではまだ終わっちゃいない。俺はまだ―――お前が好きだ』 「やめて・・・・・」 つくしの声が震える。 見ていた類が、堪らずつくしの手から携帯を奪う。 「司?俺」 『類か・・・・・。卒業式には間に合わないが、プロムには行く予定だ』 「どうして今更?今まで音沙汰なかったくせに・・・・・急に帰ってきて、牧野を返せって?」 『・・・・・帰るんじゃない。プロムに出るだけだ。そして―――牧野を連れて、N.Y.に連れてくる』 司の言葉に、類が表情が固くなる。 「そんなこと、させない」 『悪いが、俺の気持ちは変わらない。牧野に―――ドレスを着て待ってろと言っておけ。必ず、俺が取り戻す』 そう言って、一方的に切れた電話。 類は溜め息をつき、携帯を閉じるとつくしに返した。 「道明寺、なんて・・・・・?」 「・・・・・牧野を、N.Y.へ連れて行くって」 「は?」 つくしは目を丸くした。 「何よ、それ。そんなこと、できるわけない」 つくしの言葉に類は頷き、堅い表情のまま、言った。 「させないよ、絶対に」 そして、つくしを抱き寄せた。 「牧野は、誰にも渡さない」 「・・・・・誰のとこにも、行かないよ。あたしは、ここにいる・・・・・・」 そっと体を離し、見詰め合う。 司と別れてから、つくしがすぐに立ち直れたわけじゃない。 今のつくしがあるのは、類の存在があってこそ。 つくしはそう思っていた。 今の自分に必要なのは、司ではなく、類だと・・・・・。
そっと、口付けを交わす。 何度も繰り返し、お互いの存在を確かめるように・・・・・。
「愛してる・・・・・」 類の甘い囁きが、心地良く耳に響いた・・・・・。
このときの2人には、この後に訪れる出来事など想像することもできなかった・・・・・。 類はすこぶる機嫌が悪かった。
そんな類の顔を、恐る恐る覗き込むつくし。
一向に機嫌のよくならない彼に、溜息が出る。
事の発端は今朝つくしの元に届けられた1着のドレスだった・・・・・。
送り主は『道明寺司』。
もうそれだけでも類の機嫌を悪くするには十分なのだが・・・・・。
「別に、プロム用とは書いてないし・・・・・。単なるプレゼント、じゃない?」 つくしがそう言っても、類はまるで聞く耳持たず。 類たち3年生の卒業式まであと1週間。 つくしをパートナーに誘った類は、つくしのためにドレスも当然用意していたのだ。 そこへ、絶妙なタイミングで司から届いたのは、淡いブルーのシフォンのドレス。 シンプルだが、大きく胸と背中の開いたそれはかなり大人っぽく、さすがに着るのを躊躇してしまうようなデザインだった。 「単なるプレゼントを、何でこの時期に?誕生日でもないのに。プロム用に決まってるよ」 むっとしたままそう言い放つ類。
N.Y.で司と別れ、迎えに来てくれた類とそのまま付き合うようになったつくし。 それから司もかなり忙しかったようでずっと音沙汰なかったのだが・・・・・
「でも、道明寺からもらったドレスなんて着ないよ、あたし」 つくしの言葉に、漸く類がつくしのほうを見る。 「・・・・・ほんとに?」 「当たり前でしょ?花沢類と付き合ってるのに・・・・・。道明寺がどういうつもりでこんなもの送ってきたのか知らないけど、あたしは、もう道明寺とは何の関係もないんだから」 真っ直ぐに類を見つめながらそう言うつくしに、類はほっとしたように少し微笑み、その髪に手を伸ばした。
そして、ゆっくり2人の顔が近づき、唇が触れ合おうとしたその瞬間・・・・・
ブルブルブル、と2人の間で何かが振動し、つくしが慌てて飛びのいた。 「ひゃあ、何?」 「・・・・・携帯、牧野の」 「あ・・・・・」 つくしが首からかけていた携帯のバイブの振動だった。 学校にいる間は、マナーモードにしていたのをそのままにしていたのだった。 「ご、ごめん」 そう言って、つくしは慌てて携帯を開いた。 そしてその画面を見た瞬間、つくしの表情がさっと変わる。 「どうした?」 「・・・・・道明寺だ・・・・・」 つくしの言葉に、類の顔色も変わる。 「ドレスのこと・・・・・じゃない?」 つくしは躊躇しながらも、携帯のボタンを押した。 「・・・・・はい」 『牧野か、俺だ』 聞こえてきたのは、確かに司の声だった。 『ドレス、届いたか』 「うん。どういうつもり?」 『・・・・・プロム用だ。着て来いよ』 「なんで・・・・・」 『俺が、プロムに行くからだ。お前が、パートナーだ』 「何言ってるの?もうあんたとあたしは終わったんだよ?あたしはもう―――」 『俺の中ではまだ終わっちゃいない。俺はまだ―――お前が好きだ』 「やめて・・・・・」 つくしの声が震える。 見ていた類が、堪らずつくしの手から携帯を奪う。 「司?俺」 『類か・・・・・。卒業式には間に合わないが、プロムには行く予定だ』 「どうして今更?今まで音沙汰なかったくせに・・・・・急に帰ってきて、牧野を返せって?」 『・・・・・帰るんじゃない。プロムに出るだけだ。そして―――牧野を連れて、N.Y.に連れてくる』 司の言葉に、類が表情が固くなる。 「そんなこと、させない」 『悪いが、俺の気持ちは変わらない。牧野に―――ドレスを着て待ってろと言っておけ。必ず、俺が取り戻す』 そう言って、一方的に切れた電話。 類は溜め息をつき、携帯を閉じるとつくしに返した。 「道明寺、なんて・・・・・?」 「・・・・・牧野を、N.Y.へ連れて行くって」 「は?」 つくしは目を丸くした。 「何よ、それ。そんなこと、できるわけない」 つくしの言葉に類は頷き、堅い表情のまま、言った。 「させないよ、絶対に」 そして、つくしを抱き寄せた。 「牧野は、誰にも渡さない」 「・・・・・誰のとこにも、行かないよ。あたしは、ここにいる・・・・・・」 そっと体を離し、見詰め合う。 司と別れてから、つくしがすぐに立ち直れたわけじゃない。 今のつくしがあるのは、類の存在があってこそ。 つくしはそう思っていた。 今の自分に必要なのは、司ではなく、類だと・・・・・。
そっと、口付けを交わす。 何度も繰り返し、お互いの存在を確かめるように・・・・・。
「愛してる・・・・・」 類の甘い囁きが、心地良く耳に響いた・・・・・。
このときの2人には、この後に訪れる出来事など想像することもできなかった・・・・・。
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