「いてっ」
あきらが顔をしかめる。
「わっ、ごめん!」
「集中しろ。これで3度目だぞ」
「わかってるんだけど・・・・・ハードなんだもん」
「泣き言言うなよ。ウェディングドレス着るためだろうが」
あきらとつくしは、家のホールでもうかれこれ30分もダンスをし続けていた。
桜子に言われたダイエット法。
それが、「ダンス」。
ウエストを細くするのに効果的なダンスをあきらに習い、それを続けて何とか結婚式に間に合わそうというつもりだった。
あきらの教え方はうまかったが、つくしの方はといえば優雅なダンスなど慣れないので足が思ったようには動かず、さっきからあきらに怒られてばかり。
まあ、3回も足を踏まれていればそれもわかるというもので・・・・・。
それでもつくしに付き合って踊ってくれているあたり、やっぱり優しい人なのだとつくしは感心していた。
1時間休まずに踊り、メイドさんがお茶を淹れてくれたので、漸く休憩時間になったのだった。
「―――ごめんね、つき合わせて」
つくしの言葉に、あきらは肩をすくめた。
「いや、いい運動になるよ。しかし、ちゃんとサイズ計ったんだろ?そんなに太った感じしないけどな」
「でも、実際着られないんだもん。仕方ないよ、いまさら着れないなんて類に言えない」
「ここに来てること、類に黙ってるって?」
「桜子が、その方がいいって・・・・・」
「ま、あいつはあれで結構嫉妬深いからな。俺の家に通いつめてるなんて知ったら、殴りこんできかねねえ。てか、ちゃんと隠せてるのか?」
「う・・・・・たぶん」
「頼りねえな。式の1ヶ月前に花嫁の浮気で破局、なんてことになるなよ?」
あきらの言葉に目をむく。
「やめてよ!てか、浮気なんてしてないし!」
「―――そうか?」
突然、隣に座っていたあきらが身を乗り出し、つくしに顔を近づけてきた。
「な、なに?」
「ここにはお前と俺の2人きり。2人で汗かいて顔寄せあって。同じ匂いさせてたら十分怪しく見えるよな?」
「帰ったらシャワー浴びるし」
「だけど、ここでは同じ匂いだ。密着してると―――錯覚しないか?」
「何を?」
「―――おれたちが、本当の恋人同士だって」
「な―――」
椅子のぎりぎりまで下がる。
でももうそれ以上は無理で。
唇を寄せようとしたあきらを避けようとしたその時―――
「何してるの?」
いつの間に入ってきたのか。
ホールの入り口で、腕組みをして立っていたのは、類だった・・・・・。
「だから、疑われるようなことは何もしてないってば!」
あきらの家を出ながら、むっと顔をしかめたままの類につくしが追いすがる。
「どうだか。キスしようとしてるみたいに見えたよ」
「は、話してただけだってば。キスなんて、するわけないでしょ」
類が、ぴたりと足を止める。
「―――どうして、俺に言わなかったの?ドレスのこと」
「それは―――言いづらくて。だって、せっかく送ってもらったのに、きつくて着れないなんて―――」
「だからって、黙ってあきらのとこに行くなんて!」
「だから、それは謝ったでしょ?悪気はなかったの!」
「軽率だって、思わない?結婚前に他の男の家に行くなんて」
「だって・・・・・美作さんは友達でしょ?」
つくしの言葉に類は溜め息をつき、その視線をつくしに移した。
「―――あきらが、そうは思ってないとしたら?」
その言葉に、つくしは一瞬目を見開いたが・・・・・
「―――もし、そうだとしても・・・・・あたしにとっては、大事な友達だもの。だから、信じてるし・・・・・きっと美作さんもわかってくれてる。類は―――そう思わない?」
一瞬目を瞬かせ、つくしを見つめる。
「―――気づいてたの?」
類の言葉に、つくしは首を振った。
「今、言ったでしょ?もしそうだとしても、あたしにとっては大事な友達。その気持ちは、変わりようがないもの。だから―――美作さんだってきっと、あたしが知る必要はないって、思うはずだと思うの。だって、美作さんにとっても、あたしや類はきっと大事な友達だって、そう思ってくれてるはずだから。だから―――今回のことだって協力してくれたんだと思うし」
「―――そうとばかりも思えないけど」
「類」
「けど、今回はそういうことにしておいてあげる」
そう言って、類はふっと笑顔になり、つくしを見つめた。
「え―――」
「さっき、母親から連絡があってね。ドレス、店の方のミスで違うサイズのものを送ってしまったって」
「ええ!?」
「デザインがよく似てるので、展示用のものと間違えたらしいよ。すぐに本物を送るってさ」
類の話に。
つくしは一瞬よろけ、類に慌てて支えられる。
「大丈夫?」
「―――本当に?じゃああたしが太っちゃったわけじゃ・・・・・」
「違うよ。だいたいそんなの、サイズ測ってみればわかるのに」
「だって、測り間違えたのかもしれないと思って・・・・・」
つくしの言葉に、類は苦笑した。
「早とちりし過ぎ。どっちにしろ、相談する相手が間違ってるんだよ、つくしは」
最もなことを言われ、返す言葉もない・・・・・。
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