-tsukushi-
熱は下がったけど、まだちょっと体がだるい。
でもそんなこと口に出さなかったのに、類にはわかっちゃったみたいで・・・・・。
『俺は仕事で行かなくちゃいけないけど、車で家まで送るから今日は大学休みなよ』
穏やかだけど、有無を言わせぬ口調。 それが、あたしを心配してのことだってわかってるからなおさら逆らえなくなっちゃうんだよね・・・・・。
―――ピンポーン
壊れ気味なインターフォンの音に意識が浮上する。
「はーい」 返事をしつつ玄関の戸を開けると、立っていた人物に目を瞬かせる。 「西門さん?」 「よ」 「どうしたの?」 「見舞い。具合どうだ?」 にっこりと、いつものように余裕の笑みを浮かべて立っている西門さん。 「見舞いって・・・・・1人で?」 「わりいか?大体見舞いって大勢で押し掛けるもんじゃねえだろ?」 「そりゃそうだけど・・・・・」 「入ってもいいか?」 「あ、どうぞ」 はっとして西門さんを中に入れる。 「適当に座ってて。コーヒー入れるから」 「ああ、良いよ、俺がやる。病人は座ってな」 そう言ってさっさと台所に立つ西門さん。 「あ、待ってよ、コーヒーって言ってもうちにはインスタントしか・・・・・」 慌ててその後について行こうとしたあたしの頭を、西門さんの細い指がつんと跳ね返す。 「バーカ。そのくらい百も承知だって。紅茶のティーパック、あるだろ?―――あーこれでいい。いいから座って待ってな。今俺が、とっておきのスペシャルティーを入れてやる」 そう言ってにやりと笑う西門さん。 あたしは仕方なくちゃぶ台に頬杖をつき、西門さんが紅茶を入れてくれるのを待っていた。
手際良くお茶の準備をする西門さん。 さすがにその所作はとても美しく、普段女性をナンパしている姿を見ていたとしてもやっぱり見惚れずにはいられない魅力があって・・・・・ 彼が、女性にもてるわけがわかってしまうのがなんだか悔しかった。
「どうぞ」 目の前に2つのティーカップが並べられ、そこから湯気に乗っていい香が漂っていた。 「あっという間・・・・・なのになんでいつもの紅茶とこんなに違うの?」 あたしの言葉に、西門さんはおかしそうに笑った。 「いつもと同じものだよ。入れ方がちょっと違うだけ。今度教えてやるからやってみな。意外と簡単だぜ」 そう言ってあたしを見つめた視線が、いつになく優しい。 あたしの具合が悪いからだろうけど・・・・・・ なんだかどきどきしてしまうのはなぜだろう。 「具合、どうだ?昨日よりは良さそうだな」 「あ、うん。熱はもうないの。体がちょっとまだだるいけど・・・・・。でも、明日には大学にいけそう」 「そっか。なら良かったな。おまえがいないと大学も暇でよ、退屈でしょうがねえから見舞いに来てやった」 いつもと同じ、軽い言い方に呆れながらも、西門さんなりの気遣いが感じられて嬉しくなった。 「何しに大学行ってんの?でも西門さん1人なんて珍しいね。美作さんは?」 「あいつは真面目に講義受けてるよ。別に俺ら、セットじゃねえし。いつも一緒ってわけじゃねえだろ。類だってそうだし・・・・・」 「そういえばそうだよね」 昔からそうだった。 いつも一緒にいるように見えて、学校以外では別行動だったF4。 それでもその絆は、誰も踏み込んでいけないほど強く繋がれていて・・・・・ 「お前は、堂々と踏み込んできたけどな」 あたしの考えを読むかのようにくすくすと笑いながら言う西門さん。 あたしは決まり悪くなって、じろりと睨んだ。 「悪かったわね、4人の友情に割り込んじゃって」 「別に悪かねえよ。お前が入ってきたおかげで退屈だった学校生活がずいぶん楽しくなったからな。それに・・・・・」 「それに?」 あたしが聞き返すと、西門さんは急に笑うのをやめ、あたしの顔をじっと見つめてきた。 「な・・・・・なに?」 「・・・・・司にしろ、類にしろ、何でお前なんかを好きになるんだか、正直最初わからなかったけど」 「お前なんかって・・・・・そ、それはあたしもそう思ったけど、そんな言い方しなくても・・・・・」 「だけど、今はわかる」 「え・・・・・」 西門さんは、相変わらずあたしを見つめたまま。 暫く無言でいたかと思うと、ふいに優しい笑みを浮かべた。 とても暖かく、あたしを包み込んでくれるような、そんな笑顔で・・・・・・
こんな2人きりの空間で、あたしは何を言っていいかわからず、思わず目をそらせた。 「な、なんか変だよ、西門さん。いつもと違う」 「変、かな」 「変だよ」 「・・・・・かもな。最近の俺は、自分でも変だと思うよ」 「何かあったの?」 「・・・・・お前のせいだって言ったら?」 少しだけ、低くなった声にあたしは再び西門さんの顔を見上げた。 「あたしのせい?」 あたしの言葉に、西門さんは何も答えず・・・・・・ ただ、その真っ直ぐな瞳であたしを見つめていた・・・・・。
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