-soujirou-
自分でもびっくりするほど、イラついてた。 牧野は類の彼女だ。
類のマンションに泊まってたって何の不思議もない。
だけど・・・・・・
手に持ったままだった携帯が、着信を告げていた。 「―――はい」 携帯を開いて耳に当てると、聞き慣れた女の声。 「―――あー、ごめん、今日はいけない。―――うん、ごめん。じゃ」 簡単に終わらせて電話を切る。
ちょっと前だったら、嫌なことがあれば逆に、女と遊んで憂さを晴らしたりもしたのに。 今は、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。 きっと今他の女を抱いても、頭に浮かぶのは牧野の顔だ。
牧野の顔を思い浮かべながら他の女を抱くなんて・・・・・
「ったく・・・・・。ばかばかしい」
こんな風に女のことでイライラすることがあるなんて。 それも牧野のことでなんて。 牧野に話したら、ありえねえって言うんだろうな。
その様子を想像するとちょっと笑える。
結局その日俺は、1人ベッドの上で眠れない夜を過ごすことになった・・・・・・・。
「お前が最近冷たいって嘆いてたぜ」 翌日、大学に行くとあきらが俺の肩を叩いた。 「ああ?なんだそりゃ」 「昨日、電話いったろ?」 「ああ・・・・・・。たまたまそういう気分じゃなかっただけだよ」 「ふーん・・・・・」 あきらが俺の顔をじっと見る。 「何だよ、なんか言いたいことでもあんのか」 居心地が悪くなって目を逸らしそう聞くと、あきらは肩をすくめた。 「いや、別に。ただ・・・・・恋をしてるっていうよりは、振られちまったような顔してるなと思ってさ。なんかあったのか?」 「・・・・・振られるも何も、あいつの気持ちはわかりきってるのに今更告白なんかしねえよ」 「諦めんのか?」 「・・・・・諦めるも何も・・・・・」 「牧野は類の彼女だ。でも、それをわかってて好きになったんだろ?それとも最初から諦めてたのか?」 挑発するようなあきらの言葉に、俺は溜息をついた。 「何だよ・・・・・。俺をたきつけようとしてるわけ?」 「さあな。ただ・・・・・今のお前は、らしくねえ。何かやる前に諦めちまってて、まるきし覇気が感じられねえ。女遊びしてた頃の方が、まだましだった気がするぜ」 言われた言葉が、胸に突き刺さる。 「・・・・・なんだよ、それ。俺に、また女遊びでもしろってことかよ」 「そうじゃねえよ。今、もし他の女を抱いたとしたってその女に気持ちはねえだろうが。それじゃあ女の方が気の毒だぜ」 「・・・・・・」 「・・・・一度、鏡見てみろよ。あのF4の西門総二郎とは思えないほど、情けねえ面してるぜ」 いつになく絡んでくるあきら。 そうさせるほど、見てわかるくらい落ち込んでいたのか・・・・・・。 「牧野にお前の気持ち言わないままで、それで諦めはつくわけ?」 「玉砕するのわかってて告白しろってか」 「悔いが残るような恋なんてらしくねえっつってんの。類だってお前がそんな風に思いを残してるんじゃ先に進めねえと思うぜ」 珍しく、あきらのきつい言葉。 あきらがこういう言い方をするのは、本気で俺のことを心配してるからだ。 わかってはいるけれど・・・・・。
「あら、今日は花沢さんいらっしゃっらないんですか?」 桜子が俺たちのほうへやってきた。 「よお。何だよ、類に用事か?」 あきらが聞くと、桜子はちょっと首を傾げた。 「いえ、別に・・・・・。ただ、今日は牧野先輩の姿も見かけてないんで、どうしたのかなって」 桜子の言葉に、あきらは俺の顔を見た。 「・・・・・牧野だったら、昨日具合悪そうだったから、休みなんじゃねえの。類のことはしらねえけど」 「あ、そうなんですか」 桜子は俺の言葉に納得したように、またどこかへ行ってしまった。 「・・・・・牧野、具合悪いのか」 「昨日、熱出して・・・・・たぶん、類の家にいるよ」 「なるほど、ね。それでか・・・・・」 妙に納得したようなあきらの視線に、俺は顔を背ける。 「別に、付き合ってる2人なんだし、泊まったりすることだってあるだろ」 「まあな。でも、それで落ち込んでるんだろ?お前が、それほど1人の女に嵌るなんてな」 「・・・・・悪いかよ」 「いいや。なんだったらお見舞いでも行けば?」 「冗談」 「・・・・・・類だったら、今日は午後から会社の方に行ってるはずだぜ。帰りは遅くなるだろうし・・・・・牧野は家に帰ってるんじゃねえの?」 それだけ言い残すと、あきらは立ち上がり、そのままどこかへ行ってしまった・・・・・・。
「ったく・・・・・おせっかい」 そう呟きながらも。
俺は立ち上がり、大学を出るべく、歩き出したのだった・・・・・・。
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