-tsukushi-
『このまま、泊まっていけば?』
突然そんなこと言われて、驚かない方がおかしい。 なのに類ってば、平然とそんなこと言って驚いたあたしを見て笑ってるんだから・・・・・。
「そんなに驚かないで。別に下心があって言ってるんじゃないよ。もちろんまったくないって言ったら嘘になるけど。でも・・・・・今日はこのままゆっくり休んだ方がいいんじゃないかって思ったんだ。帰ればまた家族のために働くんだろ?それじゃあ治るものも治らないよ。だから、ちゃんと治るまではここにいて」 なんだか、うまく丸め込まれてるような気がしないでもないけど・・・・・。
でも、体がだるくて、思うように動けないのも事実で・・・・・
「わかった・・・・・。じゃあ、今日だけ、お世話になるね」 そう言って笑って見せると、類もにっこりと微笑み頷いた。 「ん。そうして。何かほしいものある?」 「ううん、別に」 「じゃ、ちょっと休んでて。俺、牧野の家に連絡してくるから」 「あ、それならあたしが・・・・・」 そう言ってあたしが携帯電話をバッグから取り出そうと伸ばした手を、類の手がやんわりと止めた。 「いいんだ。俺から、ちゃんと話したいし。牧野は休んでて」 そう言って類は、部屋を出て行ってしまった。
1人残された部屋はなんだか妙に広く感じて、さっきまでここで寝ていたのに、急に眠れなくなってしまった気がした。 そのとき、ベッドの横に置いていたバッグの中から、携帯の着信音が聞こえてきた。 あたしは慌ててバッグの中から携帯を取り出し、それを開いた。 「もしもし」 『牧野?』 電話の声は、西門さんだった。 「西門さん?どうしたの?」 『いや・・・・・具合、どうかと思って。お前のことだから、また無理して働いてるんじゃねえかと思ったんだけど・・・・・』 「心配してくれたの?ありがとう。まだちょっと熱あるけど、大丈夫だよ。もう少し寝てれば、治りそう」 『またそう言うこと言って、無理すんじゃねえぞ。ちゃんとやすまねえと悪化するぞ』 ちょっと怒りながらも、あたしの心配をしてくれる西門さんの言葉は暖かくて、思わず笑みが浮かぶ。 「大丈夫だってば。無理はしてないし」 『本当か?ってか・・・・・ずいぶん静かだな。弟とかいねえの?』 西門さんの言葉に、どきりとする。 「あ・・・・・今、1人だから」 『1人?大丈夫なのか?薬は?』 「飲んだよ。大丈夫だよ、1人なのはいつものことだし・・・・・」 『アホ。具合悪いときはそうもいかねえだろ?なあ、なんか食ってるか?果物とか、持ってってやろうか?』 心配そうな西門さんの声。 なんだかいつもよりも優しい声に、少し照れくさくなる。 「大丈夫だってば、ただの風邪だし、薬も飲んだんだから―――」 そう言い掛けた時、部屋の扉が開いた。 「牧野―――あ、ごめん、電話中?」 その声が、電話の向こうにも聞こえたようだった。 『今の・・・・・類か?・・・・・お前、類のとこにいんの?』 「う、うん、まあ・・・・・」 『・・・・・ふーん・・・・・。じゃあ、心配することねえよな。泊まって行くんだろ?』 「あ、あの―――」 『別に、いんじゃね?付き合ってるわけだしな。類のとこなら親も安心だよな』 突然ぶっきらぼうになった言い方に、あたしは戸惑う。 「西門さん?」 「総二郎?」 聞いていた類が、西門さんの名前に首を傾げる。 『・・・・・風邪、早く治せよ』 「あ、うん・・・・・ありがとう」 『いや。じゃあな』 そう言って、電話は切れた。 「・・・・・電話、総二郎からだったの?」 類が傍に来る。 「あ、うん。心配してくれてたみたい」 「ふーん・・・・・・」 なんとなく、不機嫌・・・・・? 類はベッドの上に腰掛けると、あたしの髪をさらりと撫でた。 「・・・・・ゆっくり、休ませて上げたいんだけどな・・・・・」 「類・・・・・・?」 「たまに、自分でも持て余して、どうしていいかわからないときがある」 ゆっくりと、類の顔が近づいてくる。 「る、類?風邪、移っちゃう・・・・・」 「移せば、治るから」 気づくと、首の後ろに回っていた類の手が、あたしを引き寄せる。 「類」 「俺が風邪ひいたら、牧野が看病して」 そう言って類は、あたしの返事を待つことなく、唇を重ねたのだった・・・・・・。
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