***導火線 vol.6 〜類総つく〜***



 -rui-

 牧野を俺のマンションは連れて行き、ベッドに寝かせる。
「今、薬持ってくるから。何か食べれる?」
「ううん、いい」
「・・・・・じゃ、ちょっと待ってて」
 

 キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。
 ほとんど何も置いていない状態なのだが・・・・・
 先日、牧野が来た時に買ってきたりんごがあった。
 そのりんごを剥いて、薬と水と一緒にトレイに乗せて持っていく。

 「牧野、りんごくらいは食べれる?何か胃に入れてから薬飲んだ方が良い」
 そのりんごを見て、牧野がびっくりしている。
「それ、類が剥いてくれたの?すごい!りんごなんか剥けるんだ!」
「・・・・・馬鹿にしてる?」
 俺の言葉に、ぶんぶんと首を振る牧野。
「してない、してない、びっくりしただけ!」
 ムキになる様子がおかしくて、思わず噴出す。
「・・・・ほら、食べて」
 ベッドの横のボードにトレイを載せる。
 牧野が遠慮がちに、フォークに手を伸ばす。
「あ、ありがと。いただきます」

 りんごを食べる牧野を見ながら・・・・・
 俺は、総二郎のことを考えていた。

 『いくら友達でも、2人きりでいるときにあんまり気をゆるさねえ方が良いってこと』

 あのセリフは・・・・・
 牧野と2人のときに、何かあったということなのか。
 でも、牧野にそんな様子はない。
 だとすると、牧野の知らない間に・・・・・?

 「牧野」
「ん?」
 俺の声に、牧野が顔を上げる。
「今日、医務室で・・・・・総二郎に何か言われたりした?」
「西門さんに?別に・・・・・ボーっとしててよく覚えてないけど・・・・・薬もらって、それ飲んで・・・・・たぶんすぐ寝ちゃったから」
 首を傾げながらその時のことを思い出すように話す牧野。
 
 熱っぽく潤んだ瞳。
 微かに染まった頬。
 荒い息を繰り返す口元。

 こんな状態の牧野を前にして、普通でいられるか?
 なんとなく、その情景が見えたような気がして・・・・・

 「牧野」
 俺は、牧野の髪にそっと手を伸ばした。
「え?」
「・・・・・俺が言ったこと、覚えてる?」
「え・・・・・」
「総二郎のこと・・・・・あんまり、気を許さないで。2人きりに、ならないでって言ったよね?」
「あ・・・・でも、今日の場合は不可抗力って言うか・・・・・医務室に誰もいないと思わなかったし、あたし熱あったし、別に何も・・・・・」
 途端におしゃべりになる牧野に苦笑する。
「わかってる。牧野を疑ってるわけじゃないんだ。ただ、心配なだけ」
「類って、意外と心配性だよね」
「牧野だからでしょ」
「あ、ひど」
 ぷくっと頬を膨らませる牧野がかわいくて、その頬にチュッとキスをする。
「良いから、薬飲んで。また熱が上がってるみたいだよ。ちゃんと寝て」
「・・・・・はーい」
 照れくさそうに、わざとおどけて返事をすると、おとなしく薬を飲む牧野。
 飲み終わると、言われたとおり横になり、布団を引き上げる。
 俺はその布団をそっと牧野に掛けてやると、額に張り付いた前髪を指で救った。
「・・・・・おやすみ。好きなだけ、寝ていいから。なんだったらそのままここに住んじゃってもいいよ?」
「バカ」
 照れて顔を赤くする牧野。
 そんな顔を見てるとまたキスしたくなるけど・・・・・。
「おやすみ・・・・・」
 もう1度そう言って髪を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じ、やがて牧野は眠りに入っていった・・・・・。

 ちゃんと寝たのを確認し、俺は部屋を出た。
 そのまま部屋にいたら、具合が悪いことも忘れて牧野を抱きたくなってしまうから。

 「本当に、一緒に住めないかな・・・・・」
 そう独り言を呟いて・・・・・・
 俺は、ソファーに身を沈めると、目を閉じた。


 気付いたときにはすっかり外は暗くなっていて・・・・・。

 「寝ちゃったのか・・・・・」
 俺はソファーに体を起こし、牧野を寝かせている寝室の方へ目を向けた。
 
 そっと扉を開けてみる。
 と、中は暗かったが、静かな寝息が微かに聞こえてきて、ほっとする。
 そっと中に入り、ベッドに寝ている牧野の顔を覗き込む。
 まだ少し顔は赤いものの、息遣いも落ち着いてきているようだった。

 そっと額に触れてみると、牧野が微かに身じろぎして、ゆっくりとその瞼を開いた。
「気がついた・・・・?よく寝てたね」
「類・・・・・ありがと。今何時・・・・・?」
「8時」
「―――8時!?」
 がばっと体を起こす牧野。
 その拍子に眩暈でもしたのか、体がふらりと揺れた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。あたし、そんなに寝ちゃってたんだ・・・・・。ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑だなんて、思ってないよ」
「・・・・・もう、帰らなきゃ」
「帰るの?」
 俺の言葉に、牧野はきょとんとする。
「そりゃ・・・・・もうそんな時間だし」
「このまま、泊まっていけば?」
 そう俺が言うと、暫く牧野は固まり・・・・・
 たっぷり10秒経ってから、
「ええ!?」
 と、目を丸くしたのだった・・・・・。









  

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