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牧野を俺のマンションは連れて行き、ベッドに寝かせる。 「今、薬持ってくるから。何か食べれる?」 「ううん、いい」 「・・・・・じゃ、ちょっと待ってて」
キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。 ほとんど何も置いていない状態なのだが・・・・・ 先日、牧野が来た時に買ってきたりんごがあった。 そのりんごを剥いて、薬と水と一緒にトレイに乗せて持っていく。
「牧野、りんごくらいは食べれる?何か胃に入れてから薬飲んだ方が良い」 そのりんごを見て、牧野がびっくりしている。 「それ、類が剥いてくれたの?すごい!りんごなんか剥けるんだ!」 「・・・・・馬鹿にしてる?」 俺の言葉に、ぶんぶんと首を振る牧野。 「してない、してない、びっくりしただけ!」 ムキになる様子がおかしくて、思わず噴出す。 「・・・・ほら、食べて」 ベッドの横のボードにトレイを載せる。 牧野が遠慮がちに、フォークに手を伸ばす。 「あ、ありがと。いただきます」
りんごを食べる牧野を見ながら・・・・・ 俺は、総二郎のことを考えていた。
『いくら友達でも、2人きりでいるときにあんまり気をゆるさねえ方が良いってこと』
あのセリフは・・・・・ 牧野と2人のときに、何かあったということなのか。 でも、牧野にそんな様子はない。 だとすると、牧野の知らない間に・・・・・?
「牧野」 「ん?」 俺の声に、牧野が顔を上げる。 「今日、医務室で・・・・・総二郎に何か言われたりした?」 「西門さんに?別に・・・・・ボーっとしててよく覚えてないけど・・・・・薬もらって、それ飲んで・・・・・たぶんすぐ寝ちゃったから」 首を傾げながらその時のことを思い出すように話す牧野。 熱っぽく潤んだ瞳。 微かに染まった頬。 荒い息を繰り返す口元。
こんな状態の牧野を前にして、普通でいられるか? なんとなく、その情景が見えたような気がして・・・・・
「牧野」 俺は、牧野の髪にそっと手を伸ばした。 「え?」 「・・・・・俺が言ったこと、覚えてる?」 「え・・・・・」 「総二郎のこと・・・・・あんまり、気を許さないで。2人きりに、ならないでって言ったよね?」 「あ・・・・でも、今日の場合は不可抗力って言うか・・・・・医務室に誰もいないと思わなかったし、あたし熱あったし、別に何も・・・・・」 途端におしゃべりになる牧野に苦笑する。 「わかってる。牧野を疑ってるわけじゃないんだ。ただ、心配なだけ」 「類って、意外と心配性だよね」 「牧野だからでしょ」 「あ、ひど」 ぷくっと頬を膨らませる牧野がかわいくて、その頬にチュッとキスをする。 「良いから、薬飲んで。また熱が上がってるみたいだよ。ちゃんと寝て」 「・・・・・はーい」 照れくさそうに、わざとおどけて返事をすると、おとなしく薬を飲む牧野。 飲み終わると、言われたとおり横になり、布団を引き上げる。 俺はその布団をそっと牧野に掛けてやると、額に張り付いた前髪を指で救った。 「・・・・・おやすみ。好きなだけ、寝ていいから。なんだったらそのままここに住んじゃってもいいよ?」 「バカ」 照れて顔を赤くする牧野。 そんな顔を見てるとまたキスしたくなるけど・・・・・。 「おやすみ・・・・・」 もう1度そう言って髪を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じ、やがて牧野は眠りに入っていった・・・・・。
ちゃんと寝たのを確認し、俺は部屋を出た。 そのまま部屋にいたら、具合が悪いことも忘れて牧野を抱きたくなってしまうから。
「本当に、一緒に住めないかな・・・・・」 そう独り言を呟いて・・・・・・ 俺は、ソファーに身を沈めると、目を閉じた。
気付いたときにはすっかり外は暗くなっていて・・・・・。
「寝ちゃったのか・・・・・」 俺はソファーに体を起こし、牧野を寝かせている寝室の方へ目を向けた。 そっと扉を開けてみる。 と、中は暗かったが、静かな寝息が微かに聞こえてきて、ほっとする。 そっと中に入り、ベッドに寝ている牧野の顔を覗き込む。 まだ少し顔は赤いものの、息遣いも落ち着いてきているようだった。
そっと額に触れてみると、牧野が微かに身じろぎして、ゆっくりとその瞼を開いた。 「気がついた・・・・?よく寝てたね」 「類・・・・・ありがと。今何時・・・・・?」 「8時」 「―――8時!?」 がばっと体を起こす牧野。 その拍子に眩暈でもしたのか、体がふらりと揺れた。 「大丈夫?」 「だ、大丈夫。あたし、そんなに寝ちゃってたんだ・・・・・。ごめんね、迷惑かけて」 「迷惑だなんて、思ってないよ」 「・・・・・もう、帰らなきゃ」 「帰るの?」 俺の言葉に、牧野はきょとんとする。 「そりゃ・・・・・もうそんな時間だし」 「このまま、泊まっていけば?」 そう俺が言うと、暫く牧野は固まり・・・・・ たっぷり10秒経ってから、 「ええ!?」 と、目を丸くしたのだった・・・・・。
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