***導火線 vol.10 〜類総つく〜***



 -tsukushi-

 「あたし・・・・・西門さんに何かしたっけ?」
 そう聞くと、西門さんは一瞬目を瞬かせたあと、ぷっと吹き出した。
「そういう意味じゃねぇよ」
「じゃ、どういう意味?」
「わかんねえ?」
「わかんないよ」
 あたしが答えると、うーんと顎に手をやり考える素振りをする西門さん。
 それから一つ息をつき、口を開いた。
「じゃ、宿題」
「は?」

 ―――何、宿題って。

 「答えがわかったら教えろよ。言っとくけど、人に聞くなよ?自分で考えろ」
 ニヤニヤと、楽しそうに笑いながらあたしを見つめる西門さん。
「ええ?何よそれ。意地悪しないで教えてよ。何で西門さんが変なのがあたしのせいなの?」
「たぶん、お前以外のやつならすぐ分かるよ。だから、誰にも聞くなよ?」
 くすくすと、相変わらず楽しそうに笑う。
 なんだか馬鹿にされてるみたいで悔しくって、あたしはじっと西門さんを睨みつけた。
 上目遣いに睨むあたしに気付いて、西門さんが笑顔であたしを見返してくる。
「そんなに知りたい?」
「―――知りたい。教えてよ」
「だめ」
「もう!!」


 -soujirou-
 ぷうっと頬を膨らませ、顔を赤くして怒る牧野。

 こいつは、本当に何もわかってない。
 そんな風に怒ったって、怖くも何とももないってこと。
 それどころか、上目使いに睨んでくるその表情が、かわいくて仕方ない。
 もしもこれが恋人同士だったら、迷わず押し倒してるところだ。

 今だってずいぶん、我慢してる。
 それをどんなに視線で訴えたとしたって、こいつは絶対に気付かないんだろうな。
 そして、知らずに挑発してくる。

 今言葉にしても、きっとこいつは戸惑うだけで・・・・・
 俺は、牧野を困らせたいわけじゃない。
 こうしてからかって、牧野が慌てたり拗ねたりする様子を見るのも好きだし。
 
 だけど・・・・・・
 自分の気持ちを隠し通す自信も、俺にはなかった。

 「ヒント、やろうか」
 俺の言葉に、牧野がきょとんとして俺を見る。
「ヒント?何?言ってよ」
「慌てんなって。そうだな・・・・・たぶん、お前がどんなに聞いても、類だけはその答えを絶対お前には教えないと思うぜ」
「類・・・・・だけは?」
 眉を寄せ、首を傾げる牧野。
「そ。それから、この話をしたら類が超不機嫌になる。ヒントはそれだけ」
「ええ?わかんないよ!何で類が不機嫌になるの?」
「だから、それ教えたら答えがわかっちまうだろ?自分で考えろよ。いいな?誰にも聞かないで考えろよ?期限は・・・・・そうだな、1週間」
「1週間?みじか!」
 不本意そうに顔を顰める牧野がおかしくて、つい噴出してしまうと、ますます仏頂面になる牧野。
「お前、その顔超不細工だぜ」
「誰のせいよ!いいの、もともとたいしたことないんだから!それより、当てたら何かあるわけ?」
「は?」
「そこまでもったいぶって、あたしが当てたら当然何かご褒美とかあるんでしょうね?」
「ご褒美、ねえ・・・・・」
 俺はちょっと考えながら、牧野の顔を見つめた。
 じっと俺を見上げて来る牧野。
 ちょっといたずら心が芽生えても来る。
「・・・・・何が欲しい?」
「え・・・・・何って言われても」
 逆に聞かれ、戸惑う牧野。
 ほんと、かわいいやつ。
 ついと手を伸ばし、牧野の髪に触れる。
「俺からのキスとか?」
「は!?」
「なんだったら、今してみる?」
 頭の後ろの手をやり、軽く引き寄せてみる。
 顔が至近距離まで近づき、じっと顔を覗き込むようにしてやると、途端に真っ赤になり慌てて逃げ出す牧野。
「そ、そんなのいらないよ!!」
「何だよ、みんな喜ぶぜ?」
「あたしはみんなとは違うの!!やめてよね、そういうの」
 思いっきり拒否られれば、俺だって傷ついたりもするんだけど・・・・・
 でも真っ赤になって照れてるあたり、まったく可能性がないわけじゃないのかも・・・・・
 そんなことを感じて、少し浮上する俺の心。

 ―――案外、俺にもかわいいところがあんだな。

 いつになく感情の起伏が激しい自分に戸惑いながらも、こうして牧野に触れられることが嬉しくて、ついまた手を伸ばしたくなる。

 ぐちゃぐちゃと髪をかき回してみれば、迷惑そうに俺の手を払いのけようとする牧野。
「ちょっと!やめてよね、もう!」
「かわいいやつだと思ってさ、がんばって考えろよ?答えが当てられたら、お前の好きなもんやるよ」
 その言葉に、ぴたりと動きを止め俺を見上げる牧野。
「好きなもの?何でもいいの?」
「ああ。当てられたら、なんでもやるよ」
 その言葉に、牧野が嬉しそうに笑う。
「わかった。じゃあ、絶対当てて見せるから!約束、忘れないでよ?」
「おお、男に二言はねえぜ」
 ニヤリと笑みを返せば、牧野も楽しそうに笑う。

 その笑顔が見れただけでも、俺は幸せな気分になれるって。
 お前が知ったらどんな顔するんだろうな・・・・・・。

 そんなことを考えながら、俺はまた牧野の髪を撫でた・・・・・・・。









  

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