-tsukushi-
「あたし・・・・・西門さんに何かしたっけ?」 そう聞くと、西門さんは一瞬目を瞬かせたあと、ぷっと吹き出した。 「そういう意味じゃねぇよ」 「じゃ、どういう意味?」 「わかんねえ?」 「わかんないよ」 あたしが答えると、うーんと顎に手をやり考える素振りをする西門さん。 それから一つ息をつき、口を開いた。 「じゃ、宿題」 「は?」
―――何、宿題って。
「答えがわかったら教えろよ。言っとくけど、人に聞くなよ?自分で考えろ」 ニヤニヤと、楽しそうに笑いながらあたしを見つめる西門さん。 「ええ?何よそれ。意地悪しないで教えてよ。何で西門さんが変なのがあたしのせいなの?」 「たぶん、お前以外のやつならすぐ分かるよ。だから、誰にも聞くなよ?」 くすくすと、相変わらず楽しそうに笑う。 なんだか馬鹿にされてるみたいで悔しくって、あたしはじっと西門さんを睨みつけた。 上目遣いに睨むあたしに気付いて、西門さんが笑顔であたしを見返してくる。 「そんなに知りたい?」 「―――知りたい。教えてよ」 「だめ」 「もう!!」
-soujirou- ぷうっと頬を膨らませ、顔を赤くして怒る牧野。
こいつは、本当に何もわかってない。 そんな風に怒ったって、怖くも何とももないってこと。 それどころか、上目使いに睨んでくるその表情が、かわいくて仕方ない。 もしもこれが恋人同士だったら、迷わず押し倒してるところだ。
今だってずいぶん、我慢してる。 それをどんなに視線で訴えたとしたって、こいつは絶対に気付かないんだろうな。 そして、知らずに挑発してくる。
今言葉にしても、きっとこいつは戸惑うだけで・・・・・ 俺は、牧野を困らせたいわけじゃない。 こうしてからかって、牧野が慌てたり拗ねたりする様子を見るのも好きだし。 だけど・・・・・・ 自分の気持ちを隠し通す自信も、俺にはなかった。
「ヒント、やろうか」 俺の言葉に、牧野がきょとんとして俺を見る。 「ヒント?何?言ってよ」 「慌てんなって。そうだな・・・・・たぶん、お前がどんなに聞いても、類だけはその答えを絶対お前には教えないと思うぜ」 「類・・・・・だけは?」 眉を寄せ、首を傾げる牧野。 「そ。それから、この話をしたら類が超不機嫌になる。ヒントはそれだけ」 「ええ?わかんないよ!何で類が不機嫌になるの?」 「だから、それ教えたら答えがわかっちまうだろ?自分で考えろよ。いいな?誰にも聞かないで考えろよ?期限は・・・・・そうだな、1週間」 「1週間?みじか!」 不本意そうに顔を顰める牧野がおかしくて、つい噴出してしまうと、ますます仏頂面になる牧野。 「お前、その顔超不細工だぜ」 「誰のせいよ!いいの、もともとたいしたことないんだから!それより、当てたら何かあるわけ?」 「は?」 「そこまでもったいぶって、あたしが当てたら当然何かご褒美とかあるんでしょうね?」 「ご褒美、ねえ・・・・・」 俺はちょっと考えながら、牧野の顔を見つめた。 じっと俺を見上げて来る牧野。 ちょっといたずら心が芽生えても来る。 「・・・・・何が欲しい?」 「え・・・・・何って言われても」 逆に聞かれ、戸惑う牧野。 ほんと、かわいいやつ。 ついと手を伸ばし、牧野の髪に触れる。 「俺からのキスとか?」 「は!?」 「なんだったら、今してみる?」 頭の後ろの手をやり、軽く引き寄せてみる。 顔が至近距離まで近づき、じっと顔を覗き込むようにしてやると、途端に真っ赤になり慌てて逃げ出す牧野。 「そ、そんなのいらないよ!!」 「何だよ、みんな喜ぶぜ?」 「あたしはみんなとは違うの!!やめてよね、そういうの」 思いっきり拒否られれば、俺だって傷ついたりもするんだけど・・・・・ でも真っ赤になって照れてるあたり、まったく可能性がないわけじゃないのかも・・・・・ そんなことを感じて、少し浮上する俺の心。
―――案外、俺にもかわいいところがあんだな。
いつになく感情の起伏が激しい自分に戸惑いながらも、こうして牧野に触れられることが嬉しくて、ついまた手を伸ばしたくなる。
ぐちゃぐちゃと髪をかき回してみれば、迷惑そうに俺の手を払いのけようとする牧野。 「ちょっと!やめてよね、もう!」 「かわいいやつだと思ってさ、がんばって考えろよ?答えが当てられたら、お前の好きなもんやるよ」 その言葉に、ぴたりと動きを止め俺を見上げる牧野。 「好きなもの?何でもいいの?」 「ああ。当てられたら、なんでもやるよ」 その言葉に、牧野が嬉しそうに笑う。 「わかった。じゃあ、絶対当てて見せるから!約束、忘れないでよ?」 「おお、男に二言はねえぜ」 ニヤリと笑みを返せば、牧野も楽しそうに笑う。
その笑顔が見れただけでも、俺は幸せな気分になれるって。 お前が知ったらどんな顔するんだろうな・・・・・・。
そんなことを考えながら、俺はまた牧野の髪を撫でた・・・・・・・。
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