***導火線 vol.11 〜類総つく〜***



 -tsukushi-

 「総二郎、来たの?」
 夜になって。
 仕事を終えた類が心配してうちに来てくれた。
「うん。退屈だからって、お見舞いに」
「・・・・・そう」
 何故かむっと顔をしかめる類。

 西門さんの言葉を思い出す。

 ―――この話をしたら、類は超不機嫌になる。

 でも、あたしまだあの話してないんだけど・・・・・

 「中に、入れたの?」
「え?」
「総二郎」
「ああ、うん。だって、せっかく来てくれたのに、玄関先で帰ってもらうのは失礼じゃない」
 あたしの言葉に溜め息をつく類。
 眉間に微かに寄せられた皺に、ヤバい、と危険信号を感じる。
「あの、類」
「なに」
 やっぱり、怒ってる声。
「ごめん、あの―――」
「なんで謝るの?」
「だって、怒ってるから」
「なんで怒ってると思うの?」
「えーと・・・・・西門さんを部屋に入れた・・・・・から?」
「・・・・・ふーん。さすがにそれくらいはわかるようになった?」
「あの、でも、本当にただお見舞いに来てくれただけだし、何もないよ?」
「何かあってからじゃ遅いと思わない?」
「それは―――」
 そうかもしれないけれど・・・・・

 言われてることはわかるんだけど。

 なんだか、類に信じてもらえてないみたいで、悔しかった。
 西門さんは友達だし、類にとっても親友のはずなのに、どうしてそんな風に思うんだろうって思ったら悲しくなってきてしまった。

 「あたしのこと、信じられないの?」
「そうじゃないよ。でも総二郎だって男なんだし―――」
「でも、類の親友でしょ?親友のことそんな風に言うなんて―――!」
 つい、思っていたことを言ってしまった。
 類がむっとした顔であたしの方を見た。
「ずいぶん、わかったようなこと言うね。そんな風に言えるほど、総二郎のこと知ってるの」
 明らかに怒ってる類の言葉に、あたしもカチンときて言わなくても良いことまで言ってしまう。
「だから、なんでそんな言い方するの?西門さん、別に変なこととかしなかったよ?あたしのこと心配して来てくれただけなのに、そんな言い方するなんて―――!」
 あたしの言葉に、類は顔をしかめるとぷいと目をそらし、さっと立ち上がった。
「―――帰る」
「え?」
 あたしが何か言うより先に、さっさと部屋を出て行ってしまう類。
 あたしは慌てて立ち上がった。
「ちょっと、類!待ってよ!」
 あたしの方を振り返ろうともせず、靴を履き、玄関の扉を開けて出て行こうとする類を慌てて追いかけるけど、類は止まろうともしない。
「類!!」
 玄関まで出たあたしの目の前で、扉はばたんと音を立てて閉まった。

 閉められてしまった扉の前で、あたしは動くことが出来ずにそのまま立ち尽くしていた。

 あんなふうに怒った類を見るのは初めてかもしれない。

 早く追いかけて仲直りしなくちゃって思うのに、あたしは動くことが出来なかった。

 どうして、あんなふうに怒るんだろうって。
 西門さんとはなんでもないのに、どうして疑うんだろうって。
 そう思ったら悔しくって。
 あたしは、類を追いかけることが出来なかった・・・・・。


 それでも、翌日にはしっかり後悔していたあたし。

 ちゃんと類に謝らなくちゃ。

 そう思って大学に行ったのに、類の姿はなくてがっかりしていると、美作さんに声をかけられた。

 「どうした?元気ないじゃん」
 いつもと変わらぬ美作さんの笑顔に、ちょっとほっとする。
「別に何でも。西門さんは?」
「あいつは少し遅れてくる。そういやお前、熱出してたんだって?もう大丈夫なのか?」
「「ああ、うん。もう全然平気」
「なら良かったな。もしかして、総二郎のやつ見舞いに行った?」
「うん、来たよ。知ってたの?」
「ああ。たきつけたの俺だからな」
「え?」
「いや、何でも。こっちの話。で?あいつなんか言ってた?」
「何かって・・・・・」
 西門さんに出された宿題を思い出す。
 美作さんに聞いたらすぐに分かるのかな。
 でも、人に聞くなって言われたし・・・・・・。
「何だよ、どうした?」
 急に黙ってしまったあたしの顔を覗き込んでくる美作さん。
「な、なんでもないよ」
「変な奴。今日は、類も仕事?お前、寂しそうだな」
 そう言ってにやりと笑う美作さん。
 あたしは昨日のことを思い出して、なんとなくむっとする。
「・・・・・寂しくなんか、ないし」
「んー?何だよ、喧嘩でもしたか?珍しいな。お前らが。ひょっとして・・・・・原因は総二郎か?」
 その言葉に、あたしはぎょっとして美作さんを見た。
 そんなあたしを見て、にやりと笑みを浮かべる美作さん。
「図星か?何だよ、何があったか話してみ?おにいさんが聞いてやるよ」

 つくづく、あたしは嘘が苦手だということに気づいた・・・・・・










  

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