***導火線 vol.12 〜類総つく〜***



 -tsukushi-

 まだ人もまばらなカフェテリアで。

 あたしは、昨日の出来事をかいつまんで美作さんに説明した。
 もちろん、西門さんに出された問題のことは黙っていたけれど・・・・・

 「なるほどね。まあ、類が怒るのも分かるけどな」
 美作さんが、苦笑してあたしを見る。
「わかってる。でも・・・・・友達なんだから、別に家に上げるくらいいいじゃない?」
 あたしの言葉に、美作さんは溜息をついた。
「わかってないね、お前は。家族がいるならともかく、1人でいるところにたとえ友達でも男を入れればそりゃあ彼氏としちゃあいい気持ちはしねえだろ。それが総二郎ならなおのこと・・・・・」
「え?何で西門さんだとダメなの?」
 西門さんは親友なのに??
 あたしが不思議に思って聞くと美作さんはまた溜息をついた。
「そりゃあ・・・・・あいつのことはよくわかってるから。親友なのも事実だけど、総二郎は女にかけちゃ油断できないやつだと思ってるんだろ?類は」
「だって、あたしが相手でそれはないでしょ?西門さんは今までだって同じ学校とかの、身近な女の子には手を出したことないって・・・・・」
「まあな。あいつは面倒くさい女とは関わらないようにしてたから。それでも、類にとっては脅威なんじゃね?何しろ、お前は類にとって何よりも大事な存在だろ?」
 真正面から聞かれるとなんだか恥ずかしくて、答えられないでいると、美作さんがおかしそうにくすくすと笑った。
「すげえ顔赤い。お前っておもしれえな」
「あ、あのねえ、からかわないでよ」
「まあまあ。けど・・・・・そうだな。何で類がそこまで怒ってるか・・・・俺がヒントやるよ」
「え・・・・・ヒント?」
 あたしがきょとんとしていると・・・・・

 突然、美作さんがぐいっとあたしの腕を掴み、引き寄せた。
「―――な!?」
 驚いて離れようとすると、そのまま美作さんの胸に引き寄せられるように抱きこまれ、耳元に美作さんの息遣いを感じた。

 ―――な、何!? 

 何が起こったのかわからない。
 パニックになりかけたあたしの耳に、美作さんの声が響く。
「しっ、じっとしてろ。すぐ終わる」
「え・・・・・」
 わけもわからず、そのまま動かずにいると・・・・・


 「・・・・・大学の中で堂々とラブシーンって、どういうことだよ?」
 突然聞こえてきた声に驚いて美作さんから離れ、振り向くと・・・・・
「よお、総二郎。思ったよりも早かったな」
 美作さんがにっこりと微笑む。
 それを不機嫌そうにじろりと睨む西門さん。
「・・・・・まだ、質問に答えてもらってねえぜ?」
「そんなこええ顔すんなって。ちょっと密着して話してただけだよ。お前が怒るようなことでもねえだろ?」
 その美作さんの言葉に、西門さんははっとしたような表情になり、視線をそらせた。
「別に・・・・・怒ってるわけじゃねえよ。類が見たら、まずいと思っただけで」
「ああ、そうだな。今日は仕事らしいから助かったぜ。んじゃ、俺もういくわ。またな、牧野」
「え?あの、美作さん・・・・・」
 ―――さっきの話はどうなったんだろう。ヒントくれるって・・・・・
「その話はまた今度な。今のがヒント。答えは・・・・・そのうちわかるよ」
 そう言って手を振ると、さっさと行ってしまった。

 その姿を呆然と見送り・・・・・
「なにあれ」
 と呟くと、突然そこに立っていた西門さんが、あたしの前にどっかと座った。
「何してんの、お前」
 さっきと同じ不機嫌な表情で。
「な、何って?」
「いくらまだ人が少ないっつったって、見てる奴だっていんのに、何でこんなとこであきらと抱き合ってんのかって聞いてんの」
「だ、抱き合ってなんか!ただ、美作さんが急にあたしの腕引っ張るからバランス崩しただけだよ!」
 そう言うあたしの顔を、西門さんはじっと見ていたけれど・・・・・・

 「―――なるほどね。そういうことか・・・・・あきらのやつ・・・・・」
 大きな溜息をつき、椅子に座りなおした西門さん。
 その表情は、さっきとは違ってなんだか気が抜けたような・・・・・
「ねえ、1人で納得しないでよ」
 あたしが言うと、西門さんはちらりとあたしを見て、ふっと笑った。
「あきらにしてやられたって言ってんの。俺が慌てんの見て、おもしろがってるんだよ」
「慌てる?西門さんが?何で?」
 その言葉に、西門さんがまた溜息をつく。
「・・・・・ったく・・・・・なんにもわかってねえな、お前は」
「何それ。ちゃんとわかるように説明してよ」
 むっとして言うと、西門さんはまたじっとあたしを見つめた。
 瞳の奥まで入り込んでくるような、深い眼差し。

「西門さん・・・・・?」
「答え、わかった?」
「え?」
「昨日の問題」
「あ・・・・・ううん、全然わかんない。大体、昨日はそれどころじゃ―――」
 あたしの言葉に、西門さんは目を瞬かせた。
「は?何かあったのか?」
「・・・・・類と、喧嘩しちゃった」
「・・・・・もしかして、俺が原因?」
「あ・・・・西門さんが悪いんじゃないよ?あたしが、部屋に西門さんを入れたって怒られただけだから。別に、西門さんじゃなくても同じことだったし」
 つい言ってしまってから、慌ててフォローするように言うと、西門さんは苦笑して口を開いた。
「気にすんな。あいつが怒りそうなことくらい俺もわかってたし。悪かったな。玄関口で帰ったとでもいっときゃよかったんだよ」
「だって・・・・・せっかく来てくれたのに」
「・・・・・お前の、そういうところが心配なんだと思うぜ」
「え?」
 あたしが聞き返しても、西門さんはちょっと困ったような顔で首を傾げるだけで、答えようとしない。

 なんだか、魚の小骨が喉に引っかかったみたいな気持ち悪さを覚える。


 「・・・・・期限、1週間て言ったよな、俺」
「あ、うん・・・・・」
「1週間経ってもわからなかったら、教えてやるよ」
「え・・・・・今じゃダメなの?」
「だーめ。少しは考えろよ」
 そう言うと西門さんは席を立ち、「飲み物でも買ってくる」と言って行ってしまった・・・・・。









  

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