-rui-
らしくもなくムキになって、牧野のアパートを飛び出してしまったけれど。
やっぱりちゃんと仲直りしようと思っていれば翌日は急に会社から呼び出され、大学を休む羽目になってしまう。
漸く仕事を終えたのはもう夜の8時をまわっていた。
「・・・・・バイト、終わるころかな」
時計を見てそう呟き、俺は車で牧野のバイト先へ向かった。
牧野のバイト先の店まで行き、車の外で牧野が出てくるのを待つ。
やがて出て来た牧野が、俺を見て目を見開く。 「類・・・・・」 「お疲れ」 そう言って笑った俺の傍に、牧野が駆け寄ってくる。 「類、あの・・・・・」 「待った。先に、俺に言わせて」 「え・・・・・」 「昨日は、ごめん。ついカッとなって・・・・・」 「あ、あたしの方こそ・・・・・ごめんなさい」 目を伏せ、俯く牧野を抱き寄せ、その額にそっとキスをした。 「・・・・・明日、大学休みだから・・・・今日はこのままうちに来ない?」 耳元に囁くと、牧野の肩がピクリと震えた。 「でも・・・・・」 「だめ?」 そう聞くと、牧野がふるふると首を振る。 「ううん、でも、あたし何も用意が・・・・・」 「そんなの、いらない。足りないものがあるなら用意するし。うちにも、牧野のもの置いておけばいいよ」 そう言って牧野の顔を覗き込めば、予想通り真っ赤になったその頬に、俺は軽くキスをした。 「・・・・・行こう」 もう一度その耳元に囁いて。 真っ赤な顔でこくりと頷いた牧野の手をひき、車の助手席に乗せたのだった・・・・・。
俺のマンションへつき、牧野が作ってくれたパスタを2人で食べ、昨日のお詫びのしるし、と後片付けを買って出て、牧野を休ませる。
洗い物を終え、部屋へ戻ると牧野はベッドに座りぼんやりとテレビを見ながら、俺が来たことに気づかないのか1人呟いていた。 「・・・・・・やっぱり、わかんないなあ」 「何がわからないの?」 俺の声に、牧野は弾かれたように俺のほうを振り向く。 「類!いつの間に?」 「今。で、何がわからないの?」 重ねて聞くと、牧野はちょっと困ったように眉根を寄せた。 「えっと・・・・・」 「ん?」 「その・・・・・今日、美作さんに昨日のこと話して・・・・・」 「あきらに?」 「う、うん。それで・・・・・昨日、類が怒った訳・・・・・・それの、ヒントをやるって言われたんだけど、答えは教えてくれなくて。『そのうちわかる』って言われたんだけど・・・・・」 牧野の話に、俺は顔を顰めた。
あきらのやつ、余計なこと・・・・・
「ヒントって?」 「え」 「あきらがくれたヒントって、何?」 俺の言葉に、牧野はちょっとぎくりとしたように視線を泳がせた。 「・・・・・牧野?」 「あ、あの・・・・・お、怒らないでね?」 そう言って伺うように俺の顔を見る。 その様子に、俺は溜息をつきながら・・・・・ 「努力はする。で、何?」 そう言うと、牧野はそれでも言いづらそうに視線を彷徨わせた後・・・・・ じっと見つめる俺の視線に観念したように、口を開いた。 「・・・・・急に、引っ張られて・・・・その、抱きしめられるみたいな体制になっちゃって・・・・・」 「あきらに?」 「うん。びっくりして離れようとしたら、『すぐに終わるから』って言われてじっとしてたんだけど、そのとき西門さんが来て・・・・・。で、慌てて美作さんから離れたら、そのままどっか行っちゃったの。それがヒントだって言われたんだけど・・・・・さっぱりわからなくて」 牧野の言葉に、俺は溜息をついた。
その時の情景が浮かんでくる。
あきらに抱きしめられた牧野を見て、不機嫌になっただろう総二郎の顔。 『それがヒント』だと言ったあきら。 あきらに嵌められたことは、総二郎ならすぐに気付くだろうけど。 牧野にはさっぱりわからなかったんだろう・・・・・。
「類が、あたしが西門さんを部屋に入れたことを怒ってるんだってことはわかってるの。でも・・・・・それ以外に、何か怒ることがあるの?もしあるなら、教えてよ。何で怒ってるのかわからないって、気持ち悪い」 俺を見つめる牧野。 だけど・・・・・総二郎の気持ちにまだ気付いていない牧野に、言えるはずがない。 相手が総二郎だから怒ったんだなんて・・・・・
「・・・・・そんなの、ないよ。牧野が言ってること以外の理由なんて。あきらにからかわれただけだよ」 俺が言うと、牧野はそれでも納得できないような顔をしていたが・・・・・ 「そんなこと、もうどうでもいいよ。それよりも・・・・・牧野に触れたい・・・・・」 そう言って牧野の頬に手を添えると、途端に頬を染め、瞳を潤ませる。 「余計なこと、考えないで・・・・・・牧野は、俺のことだけ見てて・・・・・」 唇を重ねると、そっとその瞳を閉じる牧野。 俺はそのまま牧野の体をベッドに横たえ、そのまま深く口付けたのだった・・・・・。
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