-rui-
大学へ行くと、すぐカフェテリアへ向かおうとして・・・・・その途中で総二郎に捕まった。
「毎日ずいぶんゆっくりの登場だよな」 呆れたような言い方に、俺は肩を竦めた。 「・・・・・用がないなら行くよ」 「まあ待てって。牧野なら、カフェテリアにはいないぜ」 総二郎の言葉に、俺は足を止めた。 「・・・・どういうこと?」 「あいつ、熱出してさ。医務室で寝てる」 総二郎の言葉に、俺は顔を顰めた。 「寝てる?熱があるなら帰ったほうが・・・・・」 「ああ、俺もそう言ったんだけどよ、あいつがどうしても午後の講義には出たいって言うもんだから・・・・・。後で起こしに行くことになってる」 その話に、俺は溜息をついた。 「まったく・・・・・無理しすぎなんだよ。毎日のようにバイトして、大学にも真面目に来てるし。どこかで手を抜かないと、いつかこうなると思ってたんだ」 そう言ってから俺は方向を変え、医務室へ行こうとしたけれど・・・・・
「ちょっと待てよ。午後の講義は1時からだ。まだ寝かせといてやれよ」 総二郎に腕を掴まれ、俺は仕方なく足を止める。 「・・・・・何か言いたいことでも?」 俺の言葉に、総二郎がにやりと笑った。 「さすが、勘いいな。ちょっと付き合えよ。昼飯、一緒に食おうぜ、外で・・・・・」 なんとなく、嫌な予感はしたんだ・・・・・。 1つ溜息をつき・・・・・・
俺は、総二郎の後について歩き出したのだった・・・・・。
「あいつの無防備さには、参る」 大学に程近いところにあるレストランで、食事を終えるとそう総二郎が言った。 「・・・・どういうこと?」 「いくら友達でも、2人きりでいるときにあんまり気をゆるさねえ方が良いってこと」 「・・・・・牧野に、何かしたの?」 声が、自然と低くなる。 「さあ、どうかな」 総二郎がにやりと笑う。 「―――総二郎」 「お前は、親友だ。隠し事はしたくねえ。もう気付いてると思うけど・・・・・ちゃんと、俺の口からはっきり言っておきたい」 そう言って、総二郎は俺に真剣な目を向けた。 「・・・・・俺は、牧野が好きだ」 「・・・・・そう」 そう一言だけ言って、総二郎を見返す俺に、ふっと笑みを浮かべた。 「気付いてたよな。そう思ったから行動する前に、ちゃんと言っておこうと思った」 「行動?」 「ああ。言っておくけど、俺は牧野とお前が付き合ってるからっておとなしく引き下がるつもりはねえぜ」 「・・・・・牧野は、渡さないよ」 「それはわかってる。けど、俺のほうもそう簡単には諦めらんねえところまで来ちまってるんだ。牧野を傷つけるつもりはねえけど・・・・・ちゃんと、自分の気持ちに向き合いたい」 真っ直ぐに俺の目を見る総二郎。 俺は、そんな総二郎に、何も言うことができなかった・・・・・。
医務室に行くと、いるはずの先生の姿はなく・・・・・
カーテンを開けると、牧野がベッドに横たわり静かな寝息をたてていた。 「・・・・・牧野」 そっと声をかけると、牧野の睫が微かに震えた。 「牧野・・・・・・午後の講義始まるよ・・・・・」 もう一度呼びかけると、ゆっくりと牧野の瞼が開いた・・・・・。
「あれ・・・・・・類・・・・・・?」 「総二郎に聞いた。熱あるんだって?無理しないで、休めばいいのに・・・・・」 「だって・・・・・今日の午後の講義はどうしても休みたくなかったんだもん。今何時?行かなくちゃ・・・・・」 ふらふらと起き上がる牧野を支える。 「大丈夫?やっぱり帰ったほうが・・・・・」 「だ、大丈夫、今のは・・・・・急に起き上がったからふらついただけ。ごめん、心配かけて」 すまなそうに謝る牧野に、怒るわけにもいかない。 俺は溜息を1つついて、牧野の髪を撫でた。 「わかった。じゃあ講義室まで俺が送って行くから・・・・・。終わったころに迎えに行くから。いい?無理はしないで」 牧野の目をじっと見つめて言うと、牧野はこくりと頷いた。
潤んだ瞳が熱の高さを伝えていて、このまま強引にでも連れて帰りたいところだったけど・・・・・・
牧野の性格を考えると、諦めざるを得ない。 「・・・・・類?あの、もうそろそろ行かないと・・・・・」 「・・・・・本当は、行かせたくないんだけど・・・・・」 俺の言葉に、牧野は目を見開いた。 俺は、牧野の頬にそっと手を添えた。 「そんな潤んだ目で見られたら・・・・・男は誰でもぐらつくよ」 「な、何言って・・・・・」 真っ赤になってうろたえ始める牧野の体を引き寄せ、その唇を塞いだ。 牧野は驚いて固まっている。 暫くしてその唇を開放して・・・・・・ 「そろそろ行かないと、やばくない?」 と言うと、牧野ははっとしたように俺を見た。 「こ、こんなことして、風邪、移っちゃうよ!」 「移せば早く直るよ」 「類!」 「ほら、行こう」 真っ赤になって怒る牧野の手を引き、歩き出す。 よろけながらも必死で俺について来る牧野。
その姿をちらりと横目に見て・・・・・・
―――本当に・・・・・そんな顔でいられたら、こっちの方が持たないかも・・・・・
そう思って、溜息をついたのだった・・・・・。
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