-soujirou-
類に俺の牧野に対する気持ちを気付かれ、これからどうしようかと対策を立てようと思っていたとき、その話が舞い込んできた。
「滋が婚約?」 「らしいぜ。相手はアラブの資産家だって」 「は〜、さすがは大河原家。んじゃ国際結婚か。やるなあ滋も」 「ああ。で、その発表を旅行中にしたいらしい」 あきらの言葉に、苦笑する。 「って・・・・・俺らは知ってるのに?類だってこのくらいの情報持ってるだろうに」 「まあな。けど、女性陣はみんな知らないだろ?桜子はもしかしたら気付いてるかも知れねえけど・・・・牧野は絶対気付いてねえし」 「だな」 「滋としちゃあ牧野に一番喜んで欲しいんだろ。何しろ、あいつにとって初めて本当の友達って呼べる存在に出会ったのは牧野らしいからな」 「ああ・・・・・・そっか」 牧野と滋の出会いを思い出す。 あのころは、まだ牧野と司の関係も微妙で・・・・・ 司のお袋さんがお膳立てした大河原家との見合い話。 それが縁で、なぜか滋は牧野に懐いて・・・・・ 学校では苛められるのが常だったあいつだけど、良くも悪くも人を惹きつける魅力が、あいつにはきっとあるんだろうな・・・・・。
「おはよう、西門さん」 いつものように朝大学へ行き、いつものように牧野に会いに行く。 牧野の笑顔を見ることで、俺の1日が始まる。 「よ。今日も朝から元気だな。お前、まだバイトやってんだろ?どっからそのパワーが出て来るんだよ」 俺の言葉に、牧野がからからと笑う。 「西門さんこそ、まだ若いのにおじいちゃんみたいだよ、そのセリフ。そんなだから夜遊びする元気もなくなっちゃったんじゃないの?」 ―――こいつは・・・・・人の気もしらねえで 思わず顔が引き攣るのを、どうにか堪え笑顔を作る。 「じゃあね、あたしもういかなくちゃ」 「おお、あとでな」 そう言って手を振り、牧野の後姿を見送っていたけれど・・・・・
突然、牧野が足を止めた。
不思議に思って見ていると、ふらりと牧野がよろけた。
「牧野!?」 慌てて駆け寄り、牧野の肩を掴む。 「おい、どうした!?」 「ご、ごめ・・・・なんか、急に、眩暈が・・・・・・」 額を押さえる牧野。 顔色が悪い。 そっとその額に触れてみる。 「・・・・・お前、熱があるぞ」 「え・・・・・うそ」 「気付かなかったのか?帰ったほうが良いぞ」 「うーん、でも・・・・・今日の午後は、休みたくないし・・・・・」 力のない声でぶつぶつ言う牧野に、俺は溜息をついた。 「そんな状態で、午後までもつかよ」 「だって・・・・・」 熱っぽく、潤んだ瞳で俺を見上げる牧野。 その途端、やばいくらいに煩く心臓が騒ぎ始める。 「あー・・・・・わかった。じゃあちょっと医務室でベッド借りて休んでろよ。午後になったら起こしに行ってやるから」 俺の言葉に、牧野は目を瞬かせる。 「え・・・・・いいの?」 「良いって。どうせ俺は暇だし。ほら、行くぞ」 そう言って俺は赤くなった顔を隠すように牧野の手を取り、先に立って歩き出す。 その手がかなり熱くて・・・・・・ 思わず握る手に力が篭もる。
―――無理しやがって・・・・・。
「・・・・・・誰もいないね」 医務室には、なぜか誰もいなかった。 「ちょうどいいじゃん。ほら、ベッドも開いてることだし横になってろよ」 俺の言葉に、牧野は遠慮がちにベッドに横になり、ふとんをかけた。 「午後、何時からだ?」 「えっと・・・・・1時から・・・・・」 「じゃ、12時半くらいになったら起こしに来てやるから、それまでおとなしく寝てろよ。あ、ちょっと待て。俺、アスピリン持ってっから飲んどけよ」 「えー・・・・・薬・・・・・?」 熱が高いせいか、ぼんやりと閉じかけた目で俺を見る。 「ガキじゃねえんだから、薬はいやだとか言うなよ?今水持ってくるから待ってろ」 俺は医務室の中にある水道で、そこにあった紙コップを1つ取ると水を入れまた牧野の元に戻った。 牧野は既にうつらうつらしている。 「ほら、ちょっと体起こせ」 そう言って牧野の体を起こしてやると、牧野はふらふらしながらもコップを受け取り、俺に渡された薬を飲んだ。 「飲んだか?よし、じゃあ横になって・・・・・・」 が、牧野は、そのまま気を失ったように俺に寄りかかってきた。 こつんと俺の胸に頭を当て、寝息をたて始める牧野。 「おい・・・・・」 当たった額が熱い。 そして牧野の吐く熱い息が俺の胸に当たり、俺の思考回路を止めた。
―――どうすんだ、これ・・・・・
そのまま寝かせて、ここを出なければ。 そう思うのに・・・・・動くことが出来ないでいた。
牧野の額に張り付いた髪を指で救う。 荒い呼吸を繰り返す牧野。 そのたびに熱い吐息が俺の胸に当たり・・・・・
気付くと、俺の手は牧野の頬に伸びていた。 そっと顔を上向かせる。
長い睫が揺れ、頬に影を作っている。 荒い呼吸を繰り返す口元は軽く開いていて、まるで誘っているようにも見え・・・・・・
俺は誘われるように、その唇に自分の唇を重ねた。
やわらかなその感触を確かめるように・・・・・・・ 柔らかな髪に指を差し入れ、その頭をかき抱くように口づけを繰り返した。 牧野の体からは完全に力が抜け、息が上がり、苦しそうに顔を歪める。
その表情に気付き、俺は漸く熱い唇を開放し、ベッドに横たえた。
「マジで・・・・・・このままじゃ、身がもたねえな・・・・・・」 そう呟いたとき、医務室のドアががらりと開いた。 「あら、あなたは・・・・・・」 「すいません、先生。彼女、熱があって・・・・・ちょっとここで休ませてやってください。午後になったら迎えにきます」 そう言って微笑むと、女医の頬が微かに染まる。 「あ、あらそう・・・・・わかったわ」 俺はベッドから離れ、仕切りのカーテンを締めると、医務室を後にしたのだった・・・・・・。
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