-soujirou-
昼ごろになって、漸くあきらが来た。
最近、あきらのやつも忙しいらしい。
「仕方ねえよ。ジュニアの宿命だろ」 そう言って肩を竦めるあきら。 なんだかんだ言っても、あきらは一番ジュニアの立場ってものをわかってるやつだと思う。 良く言えば、大人だってことなんだろうな。 「類は?」 「さあ。牧野と一緒なんじゃねえの」 さっき、牧野の手を握っているところを見られて・・・・・ 警戒したのか、昼になってもカフェテリアに現われないってことは、牧野を外に連れ出したんだろう。 「ふーん?で、お前はふてくされてるってわけ?」 にやりと笑うあきら。 俺の心まで見透かしたような言葉にカチンと来て、あきらを睨みつける。 「何だよそれ。ふてくされてなんかねえよ、俺は」 「ごまかすなよ。知ってるんだぜ?最近のお前はらしくねえ。夜遊びに誘ってもこねえし、朝っぱらから真面目に大学に来てる。その理由に、牧野が関係してるってことくらい俺にもわかるぜ」 「・・・・・お前、やな奴だな」 俺の嫌味にも、楽しそうに笑うあきら。 まったく、本当にやな奴だぜ。 「けど・・・・・それはまずいんじゃねえの?類だって気付いてるだろ」 少し心配そうに俺を見るあきら。 俺は肩を竦める。 「わかってるよ。けど、どうにも出来ねえんだ。深入りするつもりはなかったんだけど・・・・・」 「言っとくけど、俺はどっちの味方もしねえからな。強いて言えば・・・・・牧野の味方だ。類と取り合って、あいつを傷つけるようなことだけはするなよ」 真剣なあきらの顔。 牧野は、あきらにとっても大事な存在だ。 そこに、恋愛感情はないけれど。
-rui- 「今日は、外に食べに行こう」 そう言って俺は牧野を外に連れ出した。
さっき見た光景が、俺の感情を揺さぶっていた。
牧野の手を握る総二郎。 頬を染める牧野。 甘く、切なげな視線で牧野を見つめる総二郎の姿に、俺はやっぱりとそれまでの疑惑を確信に変えた。
総二郎は、牧野に惚れてるんだ・・・・・・
遊びなんかじゃない。 あの総二郎が、本気で牧野に惚れてる。 その事実が、俺に警告を鳴らす。
かっとなりやすいところは司と似たところもあるけれど、総二郎のほうが頭がいいし、何より女性にも慣れている。 牧野を信じていないわけじゃない。 けれど、牧野は優し過ぎるところがあるから・・・・・心配になる。 友達として、総二郎のことを信頼している牧野。 その友達というボーダーラインを超えなければいいのだけれど・・・・・
「そういえば、春休みにまたみんなでどこか遊びに行きたいねって、滋さんと桜子が言ってた」 大学の近くのレストランで、パスタを食べながら牧野が言った。 「みんなで?」 「うん。F3と、優紀と・・・・・・もしかしたら、優紀の彼氏も」 牧野の言葉に、俺は溜息をついた。 「なんか、うるさそう」 「賑やかで良いんじゃない?なんかね、そこで滋さんが、みんなに知らせたいことがあるって言ってた」 「ふうん・・・・・」 大河原のことについては、ちょっと思い当たる節がある。 たぶん、話を聞けばあきらや総二郎も気付くんじゃないだろうか・・・・・。 だとすると、その大河原の『計画』に、俺はともかく牧野が行かないというわけにもいかないか・・・・・。 「・・・・・まあ、いいけど」 俺が言うと、牧野が嬉しそうに微笑んだ。 「ほんと?よかった!類と一緒に行けるほうがやっぱり良いもん」 その言葉に、俺はちらりと牧野を見る。 「・・・・・俺が行かなくても、行くつもりだったの?」 「だって、滋さんがあたしには絶対来て欲しいって・・・・・・そう言われたら、断れないよ」 困ったように眉を顰める牧野。 俺はまた、溜息をつく。 だから、放っておけないんだ・・・・・。
「よお、類」 大学に戻ると、あきらがいた。 「あきら、来てたの」 「おお。何だよ、2人で外行ってたのか?総二郎が1人でふてくされてたぜ」 その総二郎は、そこにいなかった。 「総二郎は?」 「家から呼び出し。あいつんちもいろいろ大変みたいだぜ」 「そうなの?」 牧野の言葉に、あきらが肩を竦めた。 「ああ。俺たちもさすがにあの世界には入り込めねえよ。あいつは、ああ見えて結構我慢強いとこあるから・・・・・よくやってると思うぜ?俺が偉そうに言えた義理じゃねえけど」 「へえ・・・・・あ、もう行かなくちゃ。じゃあまた後でね」 はっとしたように牧野は向きを変え、手を振りながら行ってしまった。
「忙しい奴だな」 くすくすと楽しそうに笑うあきら。 「・・・・・あきら。牧野で遊ぶのやめてよ」 俺の言葉に、あきらはにやりと笑う。 「あいつで遊ぶのが一番楽しいんだって。良いよな、素直な奴ってのは」 「・・・・・総二郎のこと・・・・・たきつけようとしてない?」 「別に。お前と牧野の仲を邪魔しようなんて気はねえよ。ただ・・・・・総二郎も、友達だからな。あいつの力にもなってやりたいって思う。まあ無理だけど。それより・・・・・お前の方が気をつけてろよ。牧野は隙だらけだ。総二郎が本気出したら、どうなるかわからねえぜ」 あきらの言葉に、俺は顔を顰めた。 「やめてよ、そういうこと言うの。縁起でもない・・・・・・。言われなくても、俺は牧野から目を離したりしない。牧野を、他の誰かに渡すつもりなんかないよ」 「そう言うと思ってたよ。ま、俺はどっちの味方でもねえから。暫くは楽しませてもらうよ。そのうち牧野が泣きついてくるかもな」 そう言って笑うあきらの言葉がそのとおりになるなんて、このときの俺はまだ予想もしていなかった・・・・・。
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