***導火線 vol.2 〜類総つく〜***



 -soujirou-

 昼ごろになって、漸くあきらが来た。

 最近、あきらのやつも忙しいらしい。

 「仕方ねえよ。ジュニアの宿命だろ」
 そう言って肩を竦めるあきら。
 なんだかんだ言っても、あきらは一番ジュニアの立場ってものをわかってるやつだと思う。
 良く言えば、大人だってことなんだろうな。
「類は?」
「さあ。牧野と一緒なんじゃねえの」
 さっき、牧野の手を握っているところを見られて・・・・・
 警戒したのか、昼になってもカフェテリアに現われないってことは、牧野を外に連れ出したんだろう。
「ふーん?で、お前はふてくされてるってわけ?」
 にやりと笑うあきら。
 俺の心まで見透かしたような言葉にカチンと来て、あきらを睨みつける。
「何だよそれ。ふてくされてなんかねえよ、俺は」
「ごまかすなよ。知ってるんだぜ?最近のお前はらしくねえ。夜遊びに誘ってもこねえし、朝っぱらから真面目に大学に来てる。その理由に、牧野が関係してるってことくらい俺にもわかるぜ」
「・・・・・お前、やな奴だな」
 俺の嫌味にも、楽しそうに笑うあきら。
 まったく、本当にやな奴だぜ。
「けど・・・・・それはまずいんじゃねえの?類だって気付いてるだろ」
 少し心配そうに俺を見るあきら。
 俺は肩を竦める。
「わかってるよ。けど、どうにも出来ねえんだ。深入りするつもりはなかったんだけど・・・・・」
「言っとくけど、俺はどっちの味方もしねえからな。強いて言えば・・・・・牧野の味方だ。類と取り合って、あいつを傷つけるようなことだけはするなよ」
 真剣なあきらの顔。
 牧野は、あきらにとっても大事な存在だ。
 そこに、恋愛感情はないけれど。


 -rui-
 「今日は、外に食べに行こう」
 そう言って俺は牧野を外に連れ出した。

 さっき見た光景が、俺の感情を揺さぶっていた。

 牧野の手を握る総二郎。
 頬を染める牧野。
 甘く、切なげな視線で牧野を見つめる総二郎の姿に、俺はやっぱりとそれまでの疑惑を確信に変えた。

 総二郎は、牧野に惚れてるんだ・・・・・・

 遊びなんかじゃない。
 あの総二郎が、本気で牧野に惚れてる。
 その事実が、俺に警告を鳴らす。

 かっとなりやすいところは司と似たところもあるけれど、総二郎のほうが頭がいいし、何より女性にも慣れている。
 
 牧野を信じていないわけじゃない。
 けれど、牧野は優し過ぎるところがあるから・・・・・心配になる。
 友達として、総二郎のことを信頼している牧野。
 その友達というボーダーラインを超えなければいいのだけれど・・・・・

 「そういえば、春休みにまたみんなでどこか遊びに行きたいねって、滋さんと桜子が言ってた」
 大学の近くのレストランで、パスタを食べながら牧野が言った。
「みんなで?」
「うん。F3と、優紀と・・・・・・もしかしたら、優紀の彼氏も」
 牧野の言葉に、俺は溜息をついた。
「なんか、うるさそう」
「賑やかで良いんじゃない?なんかね、そこで滋さんが、みんなに知らせたいことがあるって言ってた」
「ふうん・・・・・」
 大河原のことについては、ちょっと思い当たる節がある。
 たぶん、話を聞けばあきらや総二郎も気付くんじゃないだろうか・・・・・。
 だとすると、その大河原の『計画』に、俺はともかく牧野が行かないというわけにもいかないか・・・・・。
「・・・・・まあ、いいけど」
 俺が言うと、牧野が嬉しそうに微笑んだ。
「ほんと?よかった!類と一緒に行けるほうがやっぱり良いもん」
 その言葉に、俺はちらりと牧野を見る。
「・・・・・俺が行かなくても、行くつもりだったの?」
「だって、滋さんがあたしには絶対来て欲しいって・・・・・・そう言われたら、断れないよ」
 困ったように眉を顰める牧野。
 俺はまた、溜息をつく。
 だから、放っておけないんだ・・・・・。


 「よお、類」
 大学に戻ると、あきらがいた。
「あきら、来てたの」
「おお。何だよ、2人で外行ってたのか?総二郎が1人でふてくされてたぜ」
 その総二郎は、そこにいなかった。
「総二郎は?」
「家から呼び出し。あいつんちもいろいろ大変みたいだぜ」
「そうなの?」
 牧野の言葉に、あきらが肩を竦めた。
「ああ。俺たちもさすがにあの世界には入り込めねえよ。あいつは、ああ見えて結構我慢強いとこあるから・・・・・よくやってると思うぜ?俺が偉そうに言えた義理じゃねえけど」
「へえ・・・・・あ、もう行かなくちゃ。じゃあまた後でね」
 はっとしたように牧野は向きを変え、手を振りながら行ってしまった。

 「忙しい奴だな」
 くすくすと楽しそうに笑うあきら。
「・・・・・あきら。牧野で遊ぶのやめてよ」
 俺の言葉に、あきらはにやりと笑う。
「あいつで遊ぶのが一番楽しいんだって。良いよな、素直な奴ってのは」
「・・・・・総二郎のこと・・・・・たきつけようとしてない?」
「別に。お前と牧野の仲を邪魔しようなんて気はねえよ。ただ・・・・・総二郎も、友達だからな。あいつの力にもなってやりたいって思う。まあ無理だけど。それより・・・・・お前の方が気をつけてろよ。牧野は隙だらけだ。総二郎が本気出したら、どうなるかわからねえぜ」
 あきらの言葉に、俺は顔を顰めた。
「やめてよ、そういうこと言うの。縁起でもない・・・・・・。言われなくても、俺は牧野から目を離したりしない。牧野を、他の誰かに渡すつもりなんかないよ」
「そう言うと思ってたよ。ま、俺はどっちの味方でもねえから。暫くは楽しませてもらうよ。そのうち牧野が泣きついてくるかもな」
 そう言って笑うあきらの言葉がそのとおりになるなんて、このときの俺はまだ予想もしていなかった・・・・・。








  

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