***導火線 vol.1 〜類総つく〜***



 *このお話は、「2009 Valentine 類編」と「2009 White day Special 類編」の続きのお話です。

 -soujirou-

 ただ見てるだけでよかった。

 なんて、らしくもねえこと考えてた。

 ただ、あいつの傍にいたくて・・・・・

 「牧野」
 後ろから声をかけると、はじかれたように振り向く牧野。
「西門さん!びっくりした。いつの間にいたの?」
 まだざわざわとしている講義堂で、後ろに立つ俺を見て驚いたように目を瞬かせる牧野。
「ボーっとしてっからだよ。類は?」
「まだ来てないと思う。西門さん、最近早いんだね。でもなんでここに?」
「ちょっと寄ってみただけ。お前がいるかと思ってさ」
「あたし?」
 不思議そうに首を傾げる牧野。
 俺が、牧野に会うために早く来てるんだなんてこと、考えてもないんだろうな、こいつは・・・・・
「これ終わったら、お茶しねえ?この後ちょっと暇だろ?」
「良く知ってるね。そうなの、この次の講義が休講になっちゃって・・・・その後の講義まで暇になっちゃった」
「ちょっと小耳に挟んだ。カフェテリアにいるから、こいよ」
「うん、わかった」
 そう言って微笑む牧野。
 俺はちょっと手を振り、そこを後にした・・・・・。

 カフェテリアで、コーヒーを飲みながら時間を潰す。
 まだあきらも来てねえし、当然類も来てない。
 朝一のこの時間、俺はここのところ毎日確実に大学へ来ていた。
 類よりも早く、牧野に会う為。
 そうしてあいつと2人でいられる時間を手に入れるため・・・・・・

 いつからか、俺の心の中に真っ直ぐ入り込み、そこに住むようになってしまった牧野。
 あいつが類と付き合ってることも知ってる。
 だけど、想いを止めることは出来なくて。
 類との友情を、壊すつもりはないけれど・・・・・・
 でも、それ以上に、俺の思いはもう歯止めがきかないものになりつつあった・・・・・。


 「そういや、こないだ優紀ちゃんに会ったよ」
 牧野がカフェテリアに顔を出し、紅茶を手に俺の向い側に座った。
「え、そうなの?」
「ああ。彼氏と一緒だった。元気そうだな」
「うん、あたしもこないだ会ったよ。一緒にお茶して・・・・惚気話いっぱい聞いちゃった」
 くすくすと楽しそうに笑う牧野。
 その笑顔がまぶしくて、思わず目を細める。
「西門さんは、最近忙しいの?」
「は?俺?何で?」
「だって、類がこないだ『総二郎が最近夜遊びをやめた』なんて言ってたから」
「ああ・・・・・あの、ホワイトデーのとき?」
 そう俺が言うと、牧野の頬が微かに染まる。

 ちょっとしたいたずらのつもりだった。
 前日に類の家にあきらと遊びに行き、そのときベッドに忍ばせた女性もののパンティー。
 しかもかなり派手などぎつい奴だ。
 そしてセットのブラジャーを当日牧野のバッグにこっそりと入れた。
 案の定・・・・というか、予想以上の効果で、嵌ったいたずら。

 慌てふためく牧野の声。
 むっとしてイライラと俺を追及する類の声。
 そのどっちも作戦の成功を俺に告げていて、1人で大笑いしてた。
 だけど、類に言われたことが耳から離れなかった。
 
 『・・・・・最近、一緒にいること多いから。夜遊びもやめたって聞いたよ』

 特に、意識してたわけじゃなかった。
 ただ、家にいるより大学に行った方が気が楽だし。
 女に愛想振りまくのにも飽きてきただけ。

 そう思ってたのに、類に言われて、気付いた。
 大学に行けば、牧野に会える。
 夜遊びしてても、牧野の顔を思い出す。
 俺はいつの間にか、気付くと牧野のことを考えていたんだって・・・・・。

 1人の女のことを、そこまで考えたことなんてなかった。
 そんな恋を、俺がするはずないって、そう思ってた・・・・・。


 「大変だったんだから、類って、一度不機嫌になるとなかなか機嫌直してくれないんだもん。やめてよね、ああいういたずら」
 ぷっと頬を膨らませる牧野がかわいかった。
「親切のつもりだったんだけどな。お陰であの後、楽しい時間を過ごせただろ?つくしちゃん」
 にやりと笑って言えば、牧野は顔を真っ赤に染め上げて。
 自分で言ったことなのに、俺の胸がちくりと痛む。
「へ、変なこと言わないで!西門さんのせいなんだからね!」
「じゃ、責任取ってやろうか?」
「は・・・・・?」
 俺の言葉に、目が点になる牧野。
 そんな表情がおもしろくて、ついと手を伸ばし、牧野の手を掴む。
「な、何よ?」
「類と別れたら・・・・・俺が引き取ってやるよ」
「な!何言って・・・・・・!」
 牧野が真っ赤になってその手を離そうとした時―――

 「その手、離して」
 後ろから、殺気を含んだ類の低い声が聞こえてきて、俺の背筋をぞっとしたものが這い上がる。
「類!今日は早いんだね」
 牧野が嬉しそうな声を上げる。
 だけど類の視線は、未だ繋がれた俺たちの手元へ。
「総二郎、手・・・・・」
「はいはい、んな怖い顔すんなって。ちょっとしたしゃれだろうが」
 ぱっとその手を離し、万歳のようなポーズでおどけて見せる。
 類のことだ、そんなもんでごまかせるわけはないだろうが・・・・・
「総二郎、今日は午後からなのにずいぶん早いんだね」
「ああ、家にいてもおもしろくねえし。ここに来て、牧野からかってる方がおもしれえんだ」
 そう言って笑う俺を、横目で睨む牧野。
「もう、やめてよね。西門さんほんとにからかってばっかりなんだもん。周りの視線だっていたいしさ」
 口を尖らし、拗ねたように顔を顰める牧野。
 そんな表情を、以前だったらきっとなんとも思わなかっただろうと思うのに、今は愛しいとさえ思えてしまう。

 ―――重症だな、俺・・・・・

 そう思いながらも牧野のことを見つめてしまう俺を、類がじっと見ていた・・・・・。







  

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