-tsukushi-
『・・・・・両親に紹介されるってことは、結婚を前提に付き合うってこと。実質上の婚約みたいなもんだからな』
『花沢家の跡取りが婚約となれば、世間だって放ってはおかない。もう・・・・引き返せなくなる』
『もし・・・・・類の両親に会うことを躊躇してるんだったら、止めとけよ』
『お前が・・・・・俺を選んでくれるんなら、俺は全力でお前を守る。たとえ親友を敵に回しても・・・・・一生、お前を守って見せる』
『愛してる』
西門さんの言葉の1つ1つが、あたしを見つめる瞳が、頭から離れない。 類と一緒にいれば、きっと幸せになれるって思えるのに。
ずっと類と一緒にいたいって想ってたはずなのに。
今、あたしの心には、いつの間にか西門さんが住み着いてしまっている・・・・・。
目を閉じて、心を無にしてみれば、瞼に浮かぶのはやっぱり西門さんの少年のような笑顔で・・・・・・。
涙が、止まらなかった。 類への愛情が変わったわけじゃない。 類のことは変わらずに大切だと思ってるし、ずっとその愛情は変わらないって思える。
だけど。 それ以上に、西門さんへの愛情が溢れてしまってるのだ。 それを、類に黙っているわけには行かなかった。 美作さんの言うとおり、あたしが自分に嘘をつけば、両方を傷つけることになってしまうのだから・・・・・。
「珍しいね。牧野がこんな時間に」 時間はもう夜の10時を過ぎていた。 類のマンションを突然訪れたあたしを、類は穏やかな笑顔で迎えてくれた。
中に入り、リビングのソファーに座る。
あたしの向い側に座った類は、じっとあたしの顔を見つめた。 「・・・・・来るような、気がしてた」 静かにそう言った類の瞳は相変わらず穏やかで・・・・・ でもその瞳の奥には寂しげな影が見え隠れしていて、あたしの胸がずきんと痛んだ。 「類、あの・・・・・」 「待って」 類が軽く手を振り、あたしの言葉を遮った。 「俺って牧野に関しては勘良いみたいで・・・・・なんとなくわかってた。だけど、それをいきなり正面切って言われるのは、正直言ってきつい」 「・・・・・うん」 「・・・・俺の気持ちは、変わらない。今までもずっとそうだったみたいに、これから先もずっと・・・・・。俺にとっては牧野以外の女なんて考えられない」 切なげに響く類の声。 あたしは何も言えず・・・・ただ、両方の手をぎゅっと握り締め、類の顔を見つめていた。 「だから・・・・・牧野も俺のことを好きになってくれたことが嬉しかった。これからもずっと・・・・一緒にいられるのかと思ったら、まるで夢見たいだって思ってた」 「類・・・・・あたしも、そう思ってたよ。類といることが幸せだったの。傍にいられることが・・・・・本当に幸せだと思ってた。それは今も、変わらないよ。類のこと・・・・・すごく大切だと思ってる」 「うん・・・・・嬉しいよ」 何も変わらない、類の笑顔。 切なくて・・・・・ やっぱり涙が零れてしまう。 「類、あたし・・・・・」 「牧野に、頼みがある」 唐突な類の言葉に、あたしは言葉を止めた。 「・・・・・何?」 「ごめんて、言わないで欲しい」 その言葉に、はっとする。 「謝られたら、やりきれなくなる。言っただろ?俺の気持ちはずっと変わらない。牧野が俺以外のやつを選んだとしても・・・・・俺の気持ちは、何にも変わらない。俺は、牧野が幸せならそれでいい。それも、ずっと前から変わらない。だから、謝るな。俺のことを、大切だって言ってくれるなら・・・・・ずっと、笑っててくれ。俺にとって、何よりも大事なのは牧野の笑顔だから・・・・・」 類の大きな手が、あたしの頬に触れる。
涙が零れ落ち、類の手を濡らす。
「幸せに、なって欲しいんだ。相手が誰であっても・・・・・。大事なのは、牧野の幸せだ。もし総二郎が牧野を不幸にしたら・・・・・おれは絶対に許さない」 「類・・・・・」 類がそっとあたしの額にキスをする。 「笑ってて、牧野。牧野が笑っててくれるなら・・・・・俺はいつでも牧野の味方。いつでも、傍にいるから」 類の言葉に、あたしは涙を堪え、笑みを浮かべた。 「・・・・・それでいい。俺はいつでも牧野の傍にいるから・・・・・・。これからもずっと、牧野の一部として、傍にいるよ」 「類・・・・・謝っちゃいけない代わりに・・・・・これは言ってもいい?」 「ん?」 「ありがとう、類・・・・・。ずっと、大好きだよ」 あたしの言葉に、類は嬉しそうに微笑んだ。
そのとき―――
「そのセリフは、出来れば俺に言ってほしいところだけど?」 突然聞こえた声に驚いて振り向けば、部屋の入口に立ってこっちを見ているのは西門さんだった。
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