***導火線 vol.26 〜総つくバージョン〜***



 -tsukushi-

 『・・・・・両親に紹介されるってことは、結婚を前提に付き合うってこと。実質上の婚約みたいなもんだからな』

 『花沢家の跡取りが婚約となれば、世間だって放ってはおかない。もう・・・・引き返せなくなる』

 『もし・・・・・類の両親に会うことを躊躇してるんだったら、止めとけよ』

 『お前が・・・・・俺を選んでくれるんなら、俺は全力でお前を守る。たとえ親友を敵に回しても・・・・・一生、お前を守って見せる』

 『愛してる』

 西門さんの言葉の1つ1つが、あたしを見つめる瞳が、頭から離れない。
 
 類と一緒にいれば、きっと幸せになれるって思えるのに。

 ずっと類と一緒にいたいって想ってたはずなのに。

 今、あたしの心には、いつの間にか西門さんが住み着いてしまっている・・・・・。

 目を閉じて、心を無にしてみれば、瞼に浮かぶのはやっぱり西門さんの少年のような笑顔で・・・・・・。

 涙が、止まらなかった。
 類への愛情が変わったわけじゃない。
 類のことは変わらずに大切だと思ってるし、ずっとその愛情は変わらないって思える。

 だけど。
 それ以上に、西門さんへの愛情が溢れてしまってるのだ。
 それを、類に黙っているわけには行かなかった。
 美作さんの言うとおり、あたしが自分に嘘をつけば、両方を傷つけることになってしまうのだから・・・・・。


 「珍しいね。牧野がこんな時間に」
 時間はもう夜の10時を過ぎていた。
 類のマンションを突然訪れたあたしを、類は穏やかな笑顔で迎えてくれた。

 中に入り、リビングのソファーに座る。

 あたしの向い側に座った類は、じっとあたしの顔を見つめた。
「・・・・・来るような、気がしてた」
 静かにそう言った類の瞳は相変わらず穏やかで・・・・・
 でもその瞳の奥には寂しげな影が見え隠れしていて、あたしの胸がずきんと痛んだ。
「類、あの・・・・・」
「待って」
 類が軽く手を振り、あたしの言葉を遮った。
「俺って牧野に関しては勘良いみたいで・・・・・なんとなくわかってた。だけど、それをいきなり正面切って言われるのは、正直言ってきつい」
「・・・・・うん」
「・・・・俺の気持ちは、変わらない。今までもずっとそうだったみたいに、これから先もずっと・・・・・。俺にとっては牧野以外の女なんて考えられない」
 切なげに響く類の声。
 あたしは何も言えず・・・・ただ、両方の手をぎゅっと握り締め、類の顔を見つめていた。
「だから・・・・・牧野も俺のことを好きになってくれたことが嬉しかった。これからもずっと・・・・一緒にいられるのかと思ったら、まるで夢見たいだって思ってた」
「類・・・・・あたしも、そう思ってたよ。類といることが幸せだったの。傍にいられることが・・・・・本当に幸せだと思ってた。それは今も、変わらないよ。類のこと・・・・・すごく大切だと思ってる」
「うん・・・・・嬉しいよ」
 何も変わらない、類の笑顔。
 切なくて・・・・・
 やっぱり涙が零れてしまう。
「類、あたし・・・・・」
「牧野に、頼みがある」
 唐突な類の言葉に、あたしは言葉を止めた。
「・・・・・何?」
「ごめんて、言わないで欲しい」
 その言葉に、はっとする。
「謝られたら、やりきれなくなる。言っただろ?俺の気持ちはずっと変わらない。牧野が俺以外のやつを選んだとしても・・・・・俺の気持ちは、何にも変わらない。俺は、牧野が幸せならそれでいい。それも、ずっと前から変わらない。だから、謝るな。俺のことを、大切だって言ってくれるなら・・・・・ずっと、笑っててくれ。俺にとって、何よりも大事なのは牧野の笑顔だから・・・・・」
 類の大きな手が、あたしの頬に触れる。

 涙が零れ落ち、類の手を濡らす。

 「幸せに、なって欲しいんだ。相手が誰であっても・・・・・。大事なのは、牧野の幸せだ。もし総二郎が牧野を不幸にしたら・・・・・おれは絶対に許さない」
「類・・・・・」
 類がそっとあたしの額にキスをする。
「笑ってて、牧野。牧野が笑っててくれるなら・・・・・俺はいつでも牧野の味方。いつでも、傍にいるから」
 類の言葉に、あたしは涙を堪え、笑みを浮かべた。
「・・・・・それでいい。俺はいつでも牧野の傍にいるから・・・・・・。これからもずっと、牧野の一部として、傍にいるよ」
「類・・・・・謝っちゃいけない代わりに・・・・・これは言ってもいい?」
「ん?」
「ありがとう、類・・・・・。ずっと、大好きだよ」
 あたしの言葉に、類は嬉しそうに微笑んだ。

 そのとき―――

 「そのセリフは、出来れば俺に言ってほしいところだけど?」
 突然聞こえた声に驚いて振り向けば、部屋の入口に立ってこっちを見ているのは西門さんだった。







  

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