***導火線 vol.27 〜総つくバージョン〜***



 -soujirou-

 「西門さん!」
 牧野が目を見開いて俺を見た。
「類に呼ばれた。玄関が開いてたから、勝手に入ってきてみれば・・・・・類、お前どういうつもり」
 溜息とともに類を複雑な目で見つめる。
「この時間に牧野と2人で話すのもどうかと思ったんだよ。俺は牧野が好きだし・・・・・いくらなんでも別れ話を聞いてなんとも思わないほどクールじゃいられないからね。総二郎が来るってわかってればブレーキになる」
「俺はブレーキかよ」
「良いでしょ、それくらい。帰りたかったら帰れば?その代わり牧野を無事に帰すかどうか保証はできないけど」
 にやりと挑戦的な笑みを向ける類。
 その言葉に俺の顔がぴくりと引き攣る。
「お前な・・・・・。なんかその余裕な態度が気にいらねえな。牧野と別れても、お前と牧野の距離って変わらないんじゃねえの?」
 俺の言葉に、牧野と類は顔を見合わせた。
 気持ちが通じ合ってるみたいなその様子も気に入らない。
「うん・・・・・それ、当たってるね。今、牧野とも言ってたけど・・・・・俺たちの気持ちは、何も変わってないから」
 そう言って、類がにこりと微笑む。
「変わったんじゃなくて・・・・・総二郎への想いが急激に増したって感じでしょ?」
 そう言われ、牧野は恥ずかしいのか頷きながらも俯いてしまった。
「だから・・・・・俺は今まで通り牧野の傍にいるよ。いつでも牧野を守れるように。もちろんその間に総二郎が牧野から目を離したら、俺も黙ってるつもりはないからそのつもりでね」
「冗談。俺が牧野から目を離すわけねえだろ。どうしたって・・・・・もう離せるわけねえんだから。お前が付け入る隙なんて、つくらねえよ」
 じっと牧野を見つめれば、漸く牧野が俺の方を見た。
「・・・・・じゃ、ここで誓って」
 類が静かにそう言うのに、俺は目を見開いた。
「は?」
「俺の前で、牧野を幸せにするって、誓って。それが出来ないなら牧野は渡さない。これから先もずっと、牧野を泣かせたりしないって」
「る、類」
 牧野が恥ずかしそうに類の袖を引っ張る。
「牧野の隣の位置を譲るんだったら、これくらいは当然でしょ。それとも俺が言っていい?」
「アホ」
 俺は、むっとして牧野の手を引っ張って立たせた。
「これは、もう俺の」
 その言葉に、牧野が僅かな抵抗を見せる。
「ちょっと!あたし、ものじゃないんだから!」
「うるせえ!黙って俺の言うこと聞いてろよ」
 暴れる牧野の腕をぐっと掴まえれば、牧野ははっとしたように動きを止めた。

 「―――マジで、惚れてるんだ。もう、お前なしじゃいられないくらい・・・・・・。幸せにするよ、必ず。お前のためなら何でもしてやる。だから・・・・・・俺の傍にいてくれ」
「西門さん・・・・・」
 牧野の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

 じっと見つめていた類が、牧野に微笑みかける。
「・・・・・良かったね、牧野」
「類・・・・・」
「安心したら、眠くなった。総二郎、牧野送って行ってよ」
 そう言って類が大きな欠伸をする。
「ああ、分かった。類」
「ん?」
「・・・・・いろいろ、ありがとうな」
 俺の言葉に、類はいつものように穏やかに笑った。
「総二郎がお礼なんて、キモ」
「お前な・・・・・」
「お礼なんて、必要ない。そんなふうに油断してると、後悔するよ?俺の気持ちは変わらないんだから、忘れないで」
 俺は握っていた牧野の手をきゅっと握りなおした。
「わかってる。俺もこの手を離す気はないから・・・・・。じゃあな」
「うん。牧野、またね」
「うん・・・・・ありがとう、類」
 牧野が、なんとも言えない表情で涙ぐむ。

 そんな牧野の頬に、優しく触れるだけのキスを落とす類。

 それくらいは仕方ないかと、視線を外し溜息をついたのだった・・・・・。


 2人で外に出て、ゆっくりと歩く。
 繋いだ手が牧野のぬくもりを伝えて、俺を安心させてくれるみたいだ。
 牧野はさっきから何もしゃべらない。
 きっと類のことを考えているんだろう。
 
 それも、仕方がない。
 牧野にとって、類はずっと特別な存在だった。
 それはきっと、これからも変わらないんだろう・・・・・。

 「・・・・・西門さん」
 前を向いたまま、牧野が口を開いた。
「ん?」
「あたしね・・・・・類が大好きなの・・・・・」
「・・・・・知ってるよ・・・・・」
「傷つけたくなかった・・・・・・」
「・・・・・・・ああ」
「でも・・・・・抑えられなかった・・・・・」

 自然と2人の足が止まる。

 牧野が、涙に濡れた瞳で、俺を見上げる。

 「・・・・・西門さんが、好きなの・・・・・」

 俺は、黙って牧野を引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。
「・・・・・俺も、好きだよ」
「ずっと・・・・・一緒にいたいの・・・・・・」
「一緒に、いよう」
「罰が当たってもいいから・・・・・」
「罰なんか、当たらせない。俺が守ってやる。ずっと・・・・・・お前を幸せにしなきゃ、類に殺されるからな」
 俺の胸に顔を埋めながら、牧野がくすりと笑った。
「西門さんが殺されたら、困るよ」
「殺されたって、死ぬもんか。もうお前を・・・・・誰にも渡したくねえからな・・・・・」
「じゃ・・・・・一緒に幸せになろ・・・・・」
「ああ・・・・・」

 そっと体を離し、牧野と見つめ合う。
 
 今まで生きてきて、これほど1人の人間を愛しいと思ったことはない。

 きっと・・・・・

 これからもずっと、牧野だけだ・・・・・・

 そっと唇を重ねる。

 「・・・・・俺の導火線に火をつけた責任、とってくれよな・・・・・」

 俺の言葉に、牧野は嬉しそうに微笑んでくれた・・・・・。


                             fin.





お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪