-soujirou-
「西門さん!」 牧野が目を見開いて俺を見た。 「類に呼ばれた。玄関が開いてたから、勝手に入ってきてみれば・・・・・類、お前どういうつもり」 溜息とともに類を複雑な目で見つめる。 「この時間に牧野と2人で話すのもどうかと思ったんだよ。俺は牧野が好きだし・・・・・いくらなんでも別れ話を聞いてなんとも思わないほどクールじゃいられないからね。総二郎が来るってわかってればブレーキになる」 「俺はブレーキかよ」 「良いでしょ、それくらい。帰りたかったら帰れば?その代わり牧野を無事に帰すかどうか保証はできないけど」 にやりと挑戦的な笑みを向ける類。 その言葉に俺の顔がぴくりと引き攣る。 「お前な・・・・・。なんかその余裕な態度が気にいらねえな。牧野と別れても、お前と牧野の距離って変わらないんじゃねえの?」 俺の言葉に、牧野と類は顔を見合わせた。 気持ちが通じ合ってるみたいなその様子も気に入らない。 「うん・・・・・それ、当たってるね。今、牧野とも言ってたけど・・・・・俺たちの気持ちは、何も変わってないから」 そう言って、類がにこりと微笑む。 「変わったんじゃなくて・・・・・総二郎への想いが急激に増したって感じでしょ?」 そう言われ、牧野は恥ずかしいのか頷きながらも俯いてしまった。 「だから・・・・・俺は今まで通り牧野の傍にいるよ。いつでも牧野を守れるように。もちろんその間に総二郎が牧野から目を離したら、俺も黙ってるつもりはないからそのつもりでね」 「冗談。俺が牧野から目を離すわけねえだろ。どうしたって・・・・・もう離せるわけねえんだから。お前が付け入る隙なんて、つくらねえよ」 じっと牧野を見つめれば、漸く牧野が俺の方を見た。 「・・・・・じゃ、ここで誓って」 類が静かにそう言うのに、俺は目を見開いた。 「は?」 「俺の前で、牧野を幸せにするって、誓って。それが出来ないなら牧野は渡さない。これから先もずっと、牧野を泣かせたりしないって」 「る、類」 牧野が恥ずかしそうに類の袖を引っ張る。 「牧野の隣の位置を譲るんだったら、これくらいは当然でしょ。それとも俺が言っていい?」 「アホ」 俺は、むっとして牧野の手を引っ張って立たせた。 「これは、もう俺の」 その言葉に、牧野が僅かな抵抗を見せる。 「ちょっと!あたし、ものじゃないんだから!」 「うるせえ!黙って俺の言うこと聞いてろよ」 暴れる牧野の腕をぐっと掴まえれば、牧野ははっとしたように動きを止めた。
「―――マジで、惚れてるんだ。もう、お前なしじゃいられないくらい・・・・・・。幸せにするよ、必ず。お前のためなら何でもしてやる。だから・・・・・・俺の傍にいてくれ」 「西門さん・・・・・」 牧野の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
じっと見つめていた類が、牧野に微笑みかける。 「・・・・・良かったね、牧野」 「類・・・・・」 「安心したら、眠くなった。総二郎、牧野送って行ってよ」 そう言って類が大きな欠伸をする。 「ああ、分かった。類」 「ん?」 「・・・・・いろいろ、ありがとうな」 俺の言葉に、類はいつものように穏やかに笑った。 「総二郎がお礼なんて、キモ」 「お前な・・・・・」 「お礼なんて、必要ない。そんなふうに油断してると、後悔するよ?俺の気持ちは変わらないんだから、忘れないで」 俺は握っていた牧野の手をきゅっと握りなおした。 「わかってる。俺もこの手を離す気はないから・・・・・。じゃあな」 「うん。牧野、またね」 「うん・・・・・ありがとう、類」 牧野が、なんとも言えない表情で涙ぐむ。
そんな牧野の頬に、優しく触れるだけのキスを落とす類。
それくらいは仕方ないかと、視線を外し溜息をついたのだった・・・・・。
2人で外に出て、ゆっくりと歩く。 繋いだ手が牧野のぬくもりを伝えて、俺を安心させてくれるみたいだ。 牧野はさっきから何もしゃべらない。 きっと類のことを考えているんだろう。 それも、仕方がない。 牧野にとって、類はずっと特別な存在だった。 それはきっと、これからも変わらないんだろう・・・・・。
「・・・・・西門さん」 前を向いたまま、牧野が口を開いた。 「ん?」 「あたしね・・・・・類が大好きなの・・・・・」 「・・・・・知ってるよ・・・・・」 「傷つけたくなかった・・・・・・」 「・・・・・・・ああ」 「でも・・・・・抑えられなかった・・・・・」
自然と2人の足が止まる。
牧野が、涙に濡れた瞳で、俺を見上げる。
「・・・・・西門さんが、好きなの・・・・・」
俺は、黙って牧野を引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。 「・・・・・俺も、好きだよ」 「ずっと・・・・・一緒にいたいの・・・・・・」 「一緒に、いよう」 「罰が当たってもいいから・・・・・」 「罰なんか、当たらせない。俺が守ってやる。ずっと・・・・・・お前を幸せにしなきゃ、類に殺されるからな」 俺の胸に顔を埋めながら、牧野がくすりと笑った。 「西門さんが殺されたら、困るよ」 「殺されたって、死ぬもんか。もうお前を・・・・・誰にも渡したくねえからな・・・・・」 「じゃ・・・・・一緒に幸せになろ・・・・・」 「ああ・・・・・」
そっと体を離し、牧野と見つめ合う。 今まで生きてきて、これほど1人の人間を愛しいと思ったことはない。
きっと・・・・・
これからもずっと、牧野だけだ・・・・・・
そっと唇を重ねる。
「・・・・・俺の導火線に火をつけた責任、とってくれよな・・・・・」
俺の言葉に、牧野は嬉しそうに微笑んでくれた・・・・・。
fin.
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