-soujirou-
『これが最後だ。この件が片付いたら、俺は牧野を諦める。』
確かに俺はそう言った。
どうしたって牧野の気持ちが変わらないなら、諦めるしかないと思ったから。
けど・・・・・
牧野の瞳が揺れる。 それはそのまま、牧野の気持ちを表しているような気がした。 牧野が俺を拒絶できないのを見てとり、その唇を奪う。 何度も繰り返すうち、俺はあいつの虜になり、その手を離せなくなる。
親友の彼女。 それはわかってるのに、自分を抑えることが出来ない・・・・・・。
そんな自分は最低だと思いながらも、自分を見つめる牧野の瞳に、淡い期待を抱いてしまう。
―――類、悪いな・・・・・。もう、後戻りできないところまで来ちまった・・・・・。
-rui- 電話した時の牧野が、いつもと違うようで気になった。 やっぱりあんな話、許すんじゃなかったと後悔の念が募る。
総二郎の気持ちに気づいてからというもの、俺の心はざわざわと落ち着かなかった。 今までいい加減な恋愛しかしてこなかった総二郎の本気を見せられて、牧野は明らかに動揺してる。
これ以上2人を近づけちゃいけない。
そんな危険信号が、俺の中で点滅していた・・・・・。
翌日、大学へ行った俺は、カフェテリアでぼんやりと物思いに耽っている牧野を見つけた。 「・・・・・何考えてるの?」 俺の声に、はっと我に返る牧野。 俺の存在にまったく気付いていなかった牧野は、すぐ隣に座った俺に慌て始める。 「類・・・・・・び、びっくりした。いつの間に・・・・・」 そう言いながら、俺を目を合わせようとしないのが、気に入らなかった。 「・・・・・昨日、総二郎の家で何かあったの?」 「な、何かって・・・・・別に・・・・・」 「そうやって、俺と目も合わせようとしない。何かあったとしか思えない。俺に隠し事できると思ってる?」 俺の言葉に、明らかに動揺している牧野。 そこへ―――
「あんまり牧野を苛めんなよ、類」 いつの間にか、俺の後ろに立っていたのは総二郎だ。 牧野が、ぎくりとした様子で総二郎を見上げる。 「総二郎・・・・・。昨日は、うまく行ったの?」 「ああ、おかげでな。牧野、サンキューな」 「あ・・・・・ううん、別に・・・・・」 微かに、牧野の頬が染まる。 それを見た総二郎がにやりと笑い、牧野は気まずそうに視線をそらせた。 「・・・・・確か、これが最後って言ってたよね?」 俺の言葉に、総二郎はちょっと目を見開き、肩をすくめると俺とは逆側の牧野の隣へ行き、椅子に座った。 「ああ・・・・確かに『この件が片付いたら、俺は牧野を諦める』って言ったけどな」 そう言ってじっと牧野を見つめる瞳は甘く、牧野は必死で意識しないようにしているように見えた。 それが返って、牧野の中の総二郎の存在の大きさを物語っているように見えて・・・・・。 「けど、それは牧野がお前に惚れてて、絶対に俺には振り向かないってのが前提。牧野の気持ちが俺に傾いてたら・・・・・それはまた、別の話」 そう言ってにやりと笑い、俺に挑戦的な視線を向ける。 牧野が驚いたように総二郎を見る。 「西門さん!何言って・・・・・」 「どういうこと?」 牧野の言葉を、俺が遮る。 「昨日、俺は牧野にキスした」 その言葉に牧野の顔がカッと赤くなり、俺は顔を顰めた。 総二郎に殴りかかりたいのを、ぐっと堪える。 「けど、牧野は拒否しなかった。それは、俺に気持ちが動いてるってことじゃねえ?お前には悪いと思ってる。けど・・・・・俺にとっても、一生に一度の大事な恋だと思ってる。もしも牧野の気持ちが少しでも俺に傾いてるとしたら・・・・・俺は、この恋に賭けたいって思ってる」 真剣な、総二郎の瞳。 今まで、総二郎のこんな顔を見たことがあっただろうか・・・・・。 幼馴染の、初めて見る本気の表情に俺は動揺した。 「それでも・・・・・俺は、牧野を離すつもりはないよ」 「ああ、だから、簡単にはいかないと思ってる。けど、俺も覚悟を決めたから。・・・・・牧野」 総二郎が、牧野を見つめる。 牧野が反射的にぱっと顔をあげ、総二郎を見つめた。 総二郎は牧野の頬にそっと手を伸ばし、顔を赤らめた牧野にふっと微笑んだ。 「逃げるなよ」 ぐっと顔を近づけ、至近距離で牧野にそう告げると、総二郎は席を立ってまだどこかへと行ってしまった。
顔を赤らめたまま、そんな総二郎の姿を目で追い続ける牧野に、俺の胸がまたざわつく。 「・・・・・牧野」 俺の低い声にはっと体を震わせ、漸く俺のほうを向いた牧野をじっと見つめる。 「類、あの・・・・・」 「・・・・・両親に、会ってくれる?」 「え・・・・・?」 目を見開く牧野の手を握る。 「来週・・・・・両親が帰国するんだ。あんまり時間がないから、ホテルで食事するくらいしか一緒の時間は取れない。けど・・・・・牧野を、紹介したいんだ」 牧野の瞳が大きく揺れる。 「類、でも・・・・・そんなの、急に・・・・・」 「急じゃないよ。ずっと考えてた。できるだけ早く一緒になりたい。そのために・・・・・両親に紹介できるチャンスを待ってた。滅多にこっちには帰って来ないから、今回を逃したらまたいつになるかわからない。だから・・・・・」 牧野の手を握る手に、力を込める。 「俺と一緒になってくれる気があるなら・・・・・両親に会ってほしい」
俺にとっても一生に一度の恋・・・・・。
この恋に、賭けてるんだ・・・・・。
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