*このお話は2バージョンに分岐されています。 『類つくバージョン』と『総つくバージョン』、交互にUP予定です。 紛らわしいと思われる部分もあるかと思いますが、どうぞ終了までお付き合いくださいませ。
〜総つくバージョン〜 -tsukushi-
抱き寄せられて、深く口付けられているのが、まるで夢の中のことのようだった。
唇を開放されて、その黒い瞳に見つめられているのに気付き、あたしは慌てて西門さんから離れようとしたけれど・・・・・。
「・・・・・離して」 「・・・・・いやだって言ったら?」 「困らせないで・・・・・。今日は、ここに来るだけって話だったでしょ?」 「そのつもりだった。それでもう・・・・・諦めようと思ってた。でも・・・・・」 腰に回ったままの西門さんの腕に力がこもる。 「諦めるなんて、無理だ。こんなに・・・・・好きなのに、その気持ちを忘れるなんて、出来ねえよ」
そうしてまた、西門さんがあたしを抱きしめ・・・・・首筋に、顔を埋めるように口付ける。 「や・・・・・。やめて・・・・・」 着慣れない着物のせいもあって、思うように体が動かない。
口付けられたところから、熱を帯びていくように体が熱くなるのを感じる。
―――ダメ、このままじゃ・・・・・
流されてしまうような気がした。 拒絶しようと思えばできるはずなのに、そうしてはいけない気がして・・・・・。
「お前の・・・・・・本当の気持ち、聞かせろよ・・・・・」 耳元で、低く囁かれる言葉に、あたしの体は震える。 「本当の、気持ち・・・・・?」 「類のこと関係なしにして・・・・・俺のこと、どう思ってる・・・・・・?単なる友達か?それとも・・・・・」 体を離され、至近距離で見つめられる。 胸が、どきどきして止まらない。 「さっきから、お前のドキドキしてんのが、伝わってくる・・・・・・。キスも・・・・・嫌がらなかったよな」 「そ、それは、西門さんが・・・・・!」 「俺が無理やりしたから?けど、お前は無理やりされたからってそのまま雰囲気に流される奴じゃねえだろ?今、流されてるとしたら、それは俺のせいじゃない・・・・・。おまえ自身の気持ちが、俺に動いてるってことじゃねえのか?」 真っ直ぐにあたしを見つめる、西門さんの瞳。 逃れられない。 そんな気持ちにさせられる。
そのとき、あたしのバッグの中の携帯が着信を告げた。
はっとして西門さんから離れ、バッグの中の携帯を取り出す。 「―――もしもし」 かけてきたのは、類だった。 『牧野?終わった?』 「あ・・・・・うん、これから出るところ」 『迎えに行こうか?』 「だ、大丈夫。類、今日は忙しいんでしょ?」 『少しくらいなら、抜けられると思うけど』 「うん、でも悪いし。今日はもう帰るだけだから、大丈夫」 『・・・・・・そう。わかった。じゃあ気をつけてね』
類との電話を終え、あたしは再び携帯をバッグにしまうと、本当にもう帰ろうと入り口の方を振り返ろうとしたが―――
突然、後ろから西門さんに抱きしめられ、身動きが出来なくなってしまった。 「離して」 「・・・・・だから、迎えに来てもらえばよかったのに。そうしたら俺も諦めるかもよ?」 からかうような口調。 思わずカッとなって西門さんお手を振りほどこうとするあたしを、さらにきつく抱きしめる。 「やめて」 「男の力に敵うと思う?無駄だよ。場数が違う」 「威張らないでよ。もう帰るんだから・・・・・・離して」 「この着物、どうするつもり?」 言われて、はっとした。 そうだった。これ・・・・・西門さんに借りたものなんだ。返さなくちゃ・・・・・。でも、着替えを持ってきてない・・・・・。 「あ、明日・・・・・返すから、今日はこのまま帰らせて。着替えが・・・・・」 「着物の脱ぎ方なんかわかるの?脱いだ後の着物は?ハンガーにでもかけるつもり?」 「そ、それは・・・・・」 そんなこと、あたしにわかるわけがない。 それをわかってて言ってるんだから・・・・・どれだけ意地悪なんだろう、この人は。
と、突然西門さんがくっと笑い、あたしを抱きしめる腕を緩めた。 「悪い。からかいすぎた」 驚いて振り向くと、それでも甘さを含んだ真剣な目で、あたしを見る。 「だけど、俺の気持ちは本当。まだ諦めるつもりはないから。お前の気持ちが、少しでも俺に動いてるなら・・・・・強引にでも引き寄せて見せる」 「そんなこと・・・・・」 「とりあえず、今日のことは礼言っとく。困ってたのは本当だから。着替え、お前の家出る時にちゃんと預かってきてるよ。持ってきてやるから、その間にうちの人間に脱がせてもらいな」 そう言うと、あたしの言葉を待たずにさっさと部屋を出て行ってしまう西門さん。
程なくして、西門家のお手伝いさんが2人入ってきたかと思うとあっという間にあたしが着ていた着物を脱がせ、西門さんから預かったらしいあたしの着換えを差し出してくれたのだった・・・・・。
来たとき同様、西門さんの車に乗せられ、家まで送ってもらうあたし。
なんだかあっという間の出来事で、思考のほうが着いて行ってない気がした。
果たしてさっきまでのことは本当なのかしらと疑いたくなってくる。
ちらりと横顔を盗み見てみれば、そこには涼しい顔でハンドルを握る西門さん。 いつもと何も変わらない。それはもう、憎たらしいほどに・・・・・。 なんだか、どきどきしていた自分が馬鹿らしくも思えてくる。
「・・・・ついたぜ」 西門さんの声に、はっとする。 気付けばもう車は家の前に止まっていた。 「もしかして、俺に見惚れてた?」 にやりと笑う、きれいな顔。 「そ、そんなんじゃないわよ!じゃ、さよなら!」 そう言って勢いよく出て行こうとして―――
ふいに腕をつかまれ、体ごと引き戻される。 「な―――」 文句を言おうとして開いた唇に、暖かい感触。
あまりにも早業過ぎて、怒るのも忘れていたんだと思う。
次の瞬間には腕を離され、耳元に甘い囁き―――
「―――キスするごとに、お前は俺を好きになっていくよ」
気付けばあたしはアパートの前で1人立ちすくんでいた。 既に西門さんの車は行ってしまった後。
だけど、唇にはしっかりとそのぬくもりが残されていた・・・・・。
|