-soujirou-
『あたしは・・・・・西門さんと友達でいたいよ・・・・・』 牧野の苦しげな声が耳に残ってる。 あいつを傷つけたり、困らせたりするつもりはなかったんだ。 だから、諦めるつもりだった。 なのに・・・・・ 自分がこんなに諦めの悪いやつだとは知らなかった。
「総二郎」 店に、類が入ってきた。 ホテルの最上階にあるバーで、俺は類を呼び出した。 この気持ちに決着をつけたくて・・・・・。
「よお、悪かったな、呼び出したりして」 笑って言えば、類は肩をすくめて俺の隣に座った。 「別に。話って何?」 「・・・・・牧野の、ことだ」 「・・・・・だと思ったけど」 「お前と、約束したから、諦めるつもりだったけど・・・・・・どうもそう簡単に行きそうもねえ」 俺の言葉に、類はちらりと横目で俺を見た。 「それで・・・・・?」 「時間は、かかるかも知れねえ。でも、俺はあいつの望むとおりにしてやりたいって思う。あいつが、俺と友達でいたいって言うなら、友達でいようと思う」 「総二郎・・・・・」 「けど、俺はやっぱりあいつに惚れてるから、すぐに単なる友達として割り切れって言われても無理だ」 「・・・・・だろうね」 「だから・・・・・時間はかかると思う。あいつを諦めるまでには。だけど、惚れた女がそれを望んでるならそうしたいと思うし、友達でいてほしいって言われればそうしてやりたいと思う。問題は・・・・そうすることであいつが俺に気を使ったり、泣いたりするようなことにはなってほしくねえんだ」 「うん」 「だから、類。お前はあいつをしっかり掴まえててくれ。あいつを守って・・・・・幸せにしてやってくれ」 そう言って俺は、類を真っ直ぐに見つめた。 類も俺の視線を受け止める。 「・・・・・それでいいの?」 「ああ。もう、決めた。いつまでもうじうじしてるのはごめんだ。俺も、自分自身の気持ちにけりをつけてぇ。無理に諦めようとするのは止めた。そんなことしてもあいつが苦しむだけだってわかったからな。だから・・・・俺は、俺に出来ることをしようと思う」 「それで、後悔はないってこと?」 「ああ。無理に牧野を忘れようとしてやけになるよりはずっと、賢明だろ?」 そう言って笑って見せると、類はそれでも複雑そうな表情で俺を見た。 「・・・・・総二郎の気持ちは、俺もわかるつもりだから、総二郎がそれで良いなら俺は何も言わないよ。だけど・・・・・総二郎はそれで辛くないの?そのまま牧野の傍にいて・・・・・本当に諦められるの?」 「それをお前に言われるとはな。お前だって、そう思ってたんだろ?ずっと。あいつが司と付き合っててもあいつの傍を離れなかったのは、どういう形でも牧野の、惚れた女の傍にいたかったからじゃねえのか?」 俺の言葉に、類は息をついた。 「そうだよ。だから、わかるんだ。そうやってずっと傍にいたら、諦められないんじゃないの?」 「かもな。でも・・・・・俺も今はそれでも牧野の傍にいたいと思うんだ。友達としてでいい。それ以上は望まない。あいつが幸せになってくれれば、それでいい。その相手が親友のお前なら、文句はねえよ」 そう言った俺を、類はじっと見つめていた・・・・・。
俺が出した結論は、結局このまま牧野の傍にいることだった。 離れることはたやすい。 だけど、それじゃ解決にはならない。 そして、傍にいればきっと俺は諦められない。 だったら。 牧野の望む通りにしてやればいい。
「よお、牧野」 バイト先のファミレスから出てきた牧野を、俺は車にもたれて待っていた。 「西門さん・・・・・」 「ちょっと、いいか?」 そう言って俺は、牧野を車に乗せた。 暫く車を走らせ、着いた先は眺めのいい小高い丘へ続く道。
「・・・・・類と、話したよ」 車を降り、眼下に広がる夜景を眺めながら、俺は牧野を見つめた。 「類と?」 「俺は、お前が幸せならそれでいい」 俺の言葉に、戸惑ったような牧野の表情。 「心配しなくても、俺はお前から離れたりしない。けど、もうお前たちの邪魔もしない」 「どういう、こと?」 「俺は、お前の友達に徹するってこと。お前も、それが望みなんだろ?」 「・・・・・友達で、いてくれるの?」 牧野の言葉に、俺は笑った。 「ずっと、友達だよ。お前がそれを望むなら。だから、お前は類と幸せになれ」 「西門さん・・・・・」 「簡単に、諦めるって決めたわけじゃない。それが、お前のためだと思ったからそうするんだ。だから・・・・お前も、俺をお友達と思うなら、幸せになってくれ。必ず・・・・・いいな?」 俺の言葉に、牧野がゆっくりと頷く。 その大きな目には涙が溜まっていて。 だけどそれを零れ落ちないよう耐えるように、牧野は笑顔になり、頷いた。 「うん・・・・・。ありがとう、西門さん・・・・・」
牧野の髪をそっと撫で、その額にそっと唇を寄せた。 俺が、牧野に送る最後のキスだ・・・・・。
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