-rui-
夜の道を車を走らせる。 小高い丘へ続く道を走っていると、1台の車の横に立つ2人が目に入った。
その手前に車を止め、ドアを開けて降りると総二郎が俺を見て微笑んだ。 「お迎えだ」 総二郎の言葉に、牧野が俺の方を振り返った。 「類・・・・・」 「総二郎、終わった?」 「ああ、悪かったな、こんなとこまで連れ出して」 「いや・・・・・牧野」 牧野の瞳には、涙が光っていた。 そんな牧野の傍へ行って肩を抱き寄せる。 「――――じゃ、俺はお役ごめんだな」 「帰るの?」 「何だよ、帰りも俺の車に乗るつもりだったわけ?言っとくけどここで俺の車に乗ったら真っ直ぐ家になんて送らないぜ」 そう言ってにやりと笑う総二郎。 すっかり元通りになった総二郎に牧野の涙も止まり、ぷっと頬を膨らませる。 「そういう意味じゃなくて!」 「わあってるよ。俺はこれからあきらでも誘って飲み明かすよ。記念すべき日なんだぜ?この西門総二郎が失恋するなんざ」 「くせになるんじゃない?」 俺が笑って言うと、総二郎が渋い顔をする。 「冗談。二度とごめんだぜ。もしまた失恋することがあるとしたら・・・・・きっと相手はまた牧野だな」 冗談とも本気ともつかない総二郎の軽い言い方。 でもその瞳は優しく牧野を見つめていて。 牧野の瞳が一瞬揺らぐ。 「西門さん・・・・・」 「俺は、お前の幸せのためなら何でもしてやれる。類と何かあって逃げ出したくなったらまず俺のとこに来いよ。絶対何とかしてやる」 「縁起でもないこと言うなよ。何かなんて、あるはずない。牧野は、俺が絶対幸せにする」 そう言って牧野を抱き寄せれば、途端に牧野の頬が朱に染まる。 その光景に、総二郎は苦笑し車の扉を開けた。 「やってらんねえ。俺はもう帰るぜ、じゃあな!」 そう言って車に乗り込み、扉を閉めた時――― 「西門さん!」 牧野が、総二郎の車へと駆け寄る。 総二郎が、窓を開けて顔を出す。 「どうした?」 「あの・・・・・ありがとう!」 牧野の言葉に、総二郎は2、3度目を瞬かせ・・・・・ そして、ふっと笑った。 「どういたしまして。また、大学でな」 「うん・・・・・」 2人の視線が一瞬から見合い、牧野が一歩下がる。
総二郎が窓越しに手を振り、車をユーターンさせると、そのまま走り去って行った・・・・・。
「ありがとうって?」 俺が聞くと、牧野はちょっと首を傾げた。 「言いたかったの、なんとなく・・・・・。あの西門さんが、本気であたしを思ってくれたなんて・・・・・。今でも嘘みたい」 俺は後ろから、牧野の腰に腕を回して抱き寄せた。 「・・・・・揺れ動いたりした・・・・・?」 耳元で低く囁く。 「そんなこと・・・・・」 「でも、どきどきしてた・・・・・違う?」 俺の言葉に戸惑いつつも、牧野が白状した。 「・・・・・少しだけ。だって・・・・・あんなふうに真剣な西門さん、初めてだったから・・・・・」 牧野の体をくるりと振り向かせ、その唇を奪う。
熱い口付けを交わし、額をこつんとぶつける。 「たっ」 「今回は・・・・・目を瞑ってあげる。特別にね」 俺の言葉に、牧野がくすりと笑う。 「特別?じゃ、次はどうなるの?」 「次があるのは、困るんだけど?」 そう言って牧野の頬を軽くつねる。 「ないない、嘘だよ、そんなの」 否定しながらも、楽しそうに笑う牧野。 なんだか遊ばれてるみたいなのが悔しくて。 「やっぱり、許さない。お仕置きしなくちゃ」 「ええ?」 「今日はうちに泊まって・・・・・」 そっと耳元に囁けば、ぴくりと反応が返ってくる。 「出来れば・・・・・これからもずっと、うちにいてほしいんだけど・・・・・」 牧野の顔を覗き込めば、目を真ん丸くして、真っ赤になってる。 可愛すぎるその表情に、思わず頬が緩む。 「帰してあげたくても・・・・・そんな顔されると、離せなくなっちゃうよ。もうずっとこのまま・・・・・一緒にいたい」 「・・・・お仕置きって、そんなに長く続くもの・・・・・?」 「そうでもしないと、また浮気されたら困る」 俺の言葉に、慌て始める牧野。 「う、浮気じゃないよ!あれは―――」 「でも、総二郎の導火線に火をつけたのは牧野だから・・・・・。もう、無防備に男を誘えないように、俺がずっと見張ってる」 「誘ってなんか・・・・・ないもん」
拗ねたように俺を見上げる牧野はかわいくて。 そういうところが男を誘ってるんだって思うけど、きっと言っても牧野にはわからないだろうから。
だから言葉で伝える代わりに、もう一度熱い口付けを・・・・・。
他の男なんか目に入らないくらい、俺でいっぱいにしたいから・・・・・。
fin.
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