-tsukushi-
館山で過ごす2日目は、フラワーライン、南房パラダイス、いちご狩りと、1日使って遊びまわって夜、別荘に帰ってきたころにはみんなくたくたになってしまっていた。 夕食の後はみんな早々にそれぞれの部屋に引っ込み、就寝してしまったのだけれど・・・・
夜中、あたしはふと目が覚めてそのままトイレに立った。
そして戻ろうとしたとき、部屋の外で人の話し声がした。
なんとなく、気になって・・・・・。
部屋の扉を開けてみた。
そこにいたのは西門さんだった。 あたしには気付かず、壁に背中をつけて携帯で誰かと話しているようだった。
「ん・・・・・悪いけど、そういうわけだから。もう電話もしないでくれると嬉しいね」 なんとなく直感で、相手は女の人だって気がした。 「・・・・・いや、それは無理。・・・・・いいや、俺まだ彼女と付き合ってねえし。彼女が言ったわけじゃねえよ。俺がそうしたいだけ。・・・・・そういうこと。・・・・・君のこと?好きだったよ、もちろん」 そう言って笑った西門さんは、笑みは浮かべているものの、そこには何の感情もないような気がした・・・・・。 「だから付き合ってたんだからね。でも、恋っていうのは色あせていくものだし?君にも君に合った男が現れるよ、いつかね。・・・・・いや、俺は無理。言っただろ?俺今、すげえ惚れてるやつがいるから。もし・・・・・この恋に破れても、君とまた付き合うことはない。もう、恋愛ごっこは止めた。・・・・・真剣に、恋をしてるんだ」 西門さんの、瞳の色が変わった。 まるで、目の前にその恋する人がいるみたいに、優しくて、暖かい・・・・・
そのとき、突然気付いた。
最近、あたしのことを見つめる西門さんの目・・・・・・。
その目は、あの・・・・・・
急に、カーッと顔が火照るのを感じて、あたしは慌てて扉を閉めようとして―――
「わっ」
危うく指を挟みそうになり、小さな悲鳴を上げてしまった―――。
再び扉を閉めようとして、その扉を押さえられていることに気付き、そっと顔を上げる―――。 「じゃ、もう切るよ。バイバイ」 そう言って、携帯を閉じる西門さん。 視線は真っ直ぐあたしに注がれ、満面の笑みを浮かべていた・・・・・。 「・・・・つくしちゃん。ちょっと話しよっか?」 「あ、あの・・・・・」 「このままここにいると、類に聞かれると思うけど、いい?」 その言葉にはっとして、一瞬後ろを振り返る。 静かな寝息をたてている類。 「・・・・・出てくれば?」 その言葉に、あたしは渋々部屋を出たのだった・・・・・。
「盗み聞きってのはあんまりいい趣味じゃねえよな」 屋敷の屋上に出て、西門さんと向かい合う。 「だから、聞こえちゃったんだってば。部屋の外で声がしたから、誰かと思って・・・・・」 慌てて言い訳すると、西門さんがくすくす笑う。 「わかってるよ。別に怒ってないし」 その言葉にちょっとほっとするあたし。 でもすぐに西門さんの真剣な眼差しに会い、また心臓がどきどきと落ち着かなくなる。 「・・・・・で、漸く気付いたってとこ?」 「気付いたって・・・・・」 「・・・・・俺が出した問題の答え。わかったんじゃねえの?」 あたしは西門さんから目を逸らすことが出来ず・・・・・暫くそのまま、見詰め合っていた。 「・・・・・あたしには、答えられないよ」 「なんで?」 「何でって・・・・・!」 「ま、わかるけど。俺も実際、言うつもりなかったし」 そう言って西門さんは手すりにもたれて、遠くに見える海を見つめた。 「類は友達だし、お前は仲間だ。これから先もそれはかわんねえと思うし。だから、言うつもりなんかなかった。なのに・・・・・・なんでだろうな」 「西門さん・・・・・」 「ちょっと、悔しかったのかもな。誰かさんは類のことしか見えてねえし、俺のことはまるっきり男として見てねえし。類に少しヤキモキさせたかったのと・・・・・・お前に、男として意識させたかったのかもな」 にやりと笑い、あたしを見つめる。 軽い言い方なのに、その瞳は真剣で。 胸が、切なくなる。 「実際、ここまで嵌ったのは初めてで、おれ自身戸惑ってるよ。類のことは裏切れないって思ってるのに、気付いたらお前に会いたくて、毎日お前のことばっかり考えてる。他の女と遊ぶことなんて、今の俺には出来ねえ。こんな真剣な恋愛、俺がするなんて我ながら信じらんねえんだ」 手すりにもたれたままあたしを振り返り、真正面からじっとあたしを見つめる。 真剣で、切なげな瞳。 その瞳に、嘘はなかった・・・・・。 「・・・・・ありがとう」 あたしが言うと、西門さんはちょっと目を瞬かせた。 「何でお礼?」 「なんとなく・・・・・嬉しかったから」 「おいおい」 くすりと、西門さんが苦笑した。 「いいのかよ?そんなこと言って。思わず期待しちゃうぜ?」 「だって・・・・・西門さんが、誰かを真剣に好きになるって、きっとすごいことでしょ?どうしてそれがあたしなのか・・・・・全然わからないけど。でも、西門さんの気持ちは、素直に嬉しいと思うから。だから・・・・・」 「そっか・・・・・。でも、お前の気持ちはかわらねえんだよな」 そう言って西門さんはふっと笑うと、また海の方を見た。 「それは・・・・・ごめん」 「謝るな」 少し強い口調に、あたしは口を噤む。 「わかってたことだ。お前の気持ちも、類の気持ちも・・・・・。類は、親友だ。さっきも言ったけど、類を裏切るつもりはねえし、お前を傷つけるつもりもねえんだ。ただ・・・・・おれ自身の気持ちにけじめをつけたかった。お前が謝る必要はねえよ。つうか、俺に悪いとか、頼むからそんなふうにだけは思うな。俺にもプライドってもんがあるからな」 「・・・・・うん」 「もう行けよ。類に気付かれたらやばいだろ」 「西門さんは・・・・・」 「俺も、少ししたら行くよ。この海を、もう少し見てからな」 そう言って、あたしに背を向ける。 その背中が、あたしに早く行けと言っているようで・・・・・・ 「わかった・・・・・じゃ、おやすみ・・・・・」 「ああ・・・・・」 あたしに背を向けたままの西門さんに声をかけ、そのまま屋上を後にしたのだった・・・・・。
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