***導火線 vol.20 〜類総つく〜***



 -tsukushi-

 館山で過ごす2日目は、フラワーライン、南房パラダイス、いちご狩りと、1日使って遊びまわって夜、別荘に帰ってきたころにはみんなくたくたになってしまっていた。
 
 夕食の後はみんな早々にそれぞれの部屋に引っ込み、就寝してしまったのだけれど・・・・


 夜中、あたしはふと目が覚めてそのままトイレに立った。

 そして戻ろうとしたとき、部屋の外で人の話し声がした。

 なんとなく、気になって・・・・・。

 部屋の扉を開けてみた。

 そこにいたのは西門さんだった。
 あたしには気付かず、壁に背中をつけて携帯で誰かと話しているようだった。

 「ん・・・・・悪いけど、そういうわけだから。もう電話もしないでくれると嬉しいね」
 なんとなく直感で、相手は女の人だって気がした。
「・・・・・いや、それは無理。・・・・・いいや、俺まだ彼女と付き合ってねえし。彼女が言ったわけじゃねえよ。俺がそうしたいだけ。・・・・・そういうこと。・・・・・君のこと?好きだったよ、もちろん」
 そう言って笑った西門さんは、笑みは浮かべているものの、そこには何の感情もないような気がした・・・・・。
「だから付き合ってたんだからね。でも、恋っていうのは色あせていくものだし?君にも君に合った男が現れるよ、いつかね。・・・・・いや、俺は無理。言っただろ?俺今、すげえ惚れてるやつがいるから。もし・・・・・この恋に破れても、君とまた付き合うことはない。もう、恋愛ごっこは止めた。・・・・・真剣に、恋をしてるんだ」
 西門さんの、瞳の色が変わった。
 まるで、目の前にその恋する人がいるみたいに、優しくて、暖かい・・・・・

 そのとき、突然気付いた。

 最近、あたしのことを見つめる西門さんの目・・・・・・。

 その目は、あの・・・・・・

 急に、カーッと顔が火照るのを感じて、あたしは慌てて扉を閉めようとして―――

 「わっ」

 危うく指を挟みそうになり、小さな悲鳴を上げてしまった―――。

 再び扉を閉めようとして、その扉を押さえられていることに気付き、そっと顔を上げる―――。
「じゃ、もう切るよ。バイバイ」
 そう言って、携帯を閉じる西門さん。
 視線は真っ直ぐあたしに注がれ、満面の笑みを浮かべていた・・・・・。
「・・・・つくしちゃん。ちょっと話しよっか?」
「あ、あの・・・・・」
「このままここにいると、類に聞かれると思うけど、いい?」
 その言葉にはっとして、一瞬後ろを振り返る。
 静かな寝息をたてている類。
「・・・・・出てくれば?」
 その言葉に、あたしは渋々部屋を出たのだった・・・・・。


 「盗み聞きってのはあんまりいい趣味じゃねえよな」
 屋敷の屋上に出て、西門さんと向かい合う。
「だから、聞こえちゃったんだってば。部屋の外で声がしたから、誰かと思って・・・・・」
 慌てて言い訳すると、西門さんがくすくす笑う。
「わかってるよ。別に怒ってないし」
 その言葉にちょっとほっとするあたし。
 でもすぐに西門さんの真剣な眼差しに会い、また心臓がどきどきと落ち着かなくなる。
「・・・・・で、漸く気付いたってとこ?」
「気付いたって・・・・・」
「・・・・・俺が出した問題の答え。わかったんじゃねえの?」
 あたしは西門さんから目を逸らすことが出来ず・・・・・暫くそのまま、見詰め合っていた。
「・・・・・あたしには、答えられないよ」
「なんで?」
「何でって・・・・・!」
「ま、わかるけど。俺も実際、言うつもりなかったし」
 そう言って西門さんは手すりにもたれて、遠くに見える海を見つめた。
「類は友達だし、お前は仲間だ。これから先もそれはかわんねえと思うし。だから、言うつもりなんかなかった。なのに・・・・・・なんでだろうな」
「西門さん・・・・・」
「ちょっと、悔しかったのかもな。誰かさんは類のことしか見えてねえし、俺のことはまるっきり男として見てねえし。類に少しヤキモキさせたかったのと・・・・・・お前に、男として意識させたかったのかもな」
 にやりと笑い、あたしを見つめる。
 軽い言い方なのに、その瞳は真剣で。
 胸が、切なくなる。
「実際、ここまで嵌ったのは初めてで、おれ自身戸惑ってるよ。類のことは裏切れないって思ってるのに、気付いたらお前に会いたくて、毎日お前のことばっかり考えてる。他の女と遊ぶことなんて、今の俺には出来ねえ。こんな真剣な恋愛、俺がするなんて我ながら信じらんねえんだ」
 手すりにもたれたままあたしを振り返り、真正面からじっとあたしを見つめる。
 真剣で、切なげな瞳。
 その瞳に、嘘はなかった・・・・・。
「・・・・・ありがとう」
 あたしが言うと、西門さんはちょっと目を瞬かせた。
「何でお礼?」
「なんとなく・・・・・嬉しかったから」
「おいおい」
 くすりと、西門さんが苦笑した。
「いいのかよ?そんなこと言って。思わず期待しちゃうぜ?」
「だって・・・・・西門さんが、誰かを真剣に好きになるって、きっとすごいことでしょ?どうしてそれがあたしなのか・・・・・全然わからないけど。でも、西門さんの気持ちは、素直に嬉しいと思うから。だから・・・・・」
「そっか・・・・・。でも、お前の気持ちはかわらねえんだよな」
 そう言って西門さんはふっと笑うと、また海の方を見た。
「それは・・・・・ごめん」
「謝るな」
 少し強い口調に、あたしは口を噤む。
「わかってたことだ。お前の気持ちも、類の気持ちも・・・・・。類は、親友だ。さっきも言ったけど、類を裏切るつもりはねえし、お前を傷つけるつもりもねえんだ。ただ・・・・・おれ自身の気持ちにけじめをつけたかった。お前が謝る必要はねえよ。つうか、俺に悪いとか、頼むからそんなふうにだけは思うな。俺にもプライドってもんがあるからな」
「・・・・・うん」
「もう行けよ。類に気付かれたらやばいだろ」
「西門さんは・・・・・」
「俺も、少ししたら行くよ。この海を、もう少し見てからな」
 そう言って、あたしに背を向ける。
 その背中が、あたしに早く行けと言っているようで・・・・・・
「わかった・・・・・じゃ、おやすみ・・・・・」
「ああ・・・・・」
 あたしに背を向けたままの西門さんに声をかけ、そのまま屋上を後にしたのだった・・・・・。







  

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