***導火線 vol.18 〜類総つく〜***



 -rui-

 「・・・・・牧野?」
 田村からの電話を漸く切り、部屋に戻るとそこに牧野の姿はなかった。

 「あきら、牧野知らない?」
 ワイングラスを手に三条と話していたあきらに声をかける。
「牧野?さあ・・・・・そういや総二郎の姿も見えねえな」
「総二郎も・・・・・?」
 
 ―――まさか、2人一緒・・・・・?

 さっきまで牧野と一緒にいた窓際まで行ってみる。
 暗がりの中に目を凝らしてみるが、2人の姿は見えない。
「一体どこに・・・・・」
 ふと横を見ると、階段が見えた。
 俺は窓を開け、外に出ると上を見上げた。
 2階のバルコニーから、話し声が聞こえた。
 
 「―――今のが、最大のヒントだよ」

 総二郎の声だ。
 俺は階段を上がり、バルコニーへと向かった。

 牧野の、後姿が見えた。

 そして、牧野に顔を寄せようとする総二郎。

 「牧野!!」
 堪らず名前を呼ぶと、牧野の肩がビクリと震え、俺のほうを振り返った。
「類」
 ほっとしたような牧野の表情。
 その向こうで、総二郎が溜息をつくのが見えた。
「・・・・・何してんの、こんなとこで」
「あ・・・・・」
「星を見に来たんだよ。下からじゃ見えねえから」
「・・・・・総二郎」
「あー、俺はもう行くわ。今日はもう疲れちまった。風呂入って寝る。じゃあな、牧野」
 そう言ってひらひらと手を振ると、階段を下りて行く総二郎。

 その姿が見えなくなり。

 俺は、牧野に視線を戻した。
「牧野」
「え?」
 どこかぼんやりとしている牧野。
「・・・・・何か、言われた?」
 その言葉に、驚いたように目を見開く。
 頬が微かに赤く染まった。
「・・・・・・何言われたの?」
「べ、別に何も・・・・・」
 明らかに動揺した態度で視線を彷徨わせる牧野。
 じっと見つめていると、何とかその場から逃げようとするように言い訳を考え始める。
「何でも、ないよ。星を見に来ただけ。そろそろ、戻ろうと思ってたとこで・・・・・」
 そう言って階段の方へ行こうとする牧野の腕を、とっさに掴んだ。

 はっとしたように顔を上げる牧野。

 俺はその腕を引き、驚いている牧野をよそにその唇を塞いだ・・・・・。

 明らかに動揺している様子の牧野が気に入らなかった。

 総二郎に何を言われたのか・・・・・

 何を言われたにしても、そのことに牧野が動揺しているのは事実で。

 「隠し事は、なしだよ」
 唇を離し、耳元に囁く。
「か、隠し事なんて・・・・・」
「ちゃんと、話してくれるまで今夜は寝かせないからね?」
 そう言ってじっと見つめてみれば、困ったように俺を見る牧野。
 俺はそんな牧野の手を取り、とりあえず下の食堂に戻るべく階段を降り始めたのだった。

 食堂では総二郎があきらの隣で三条と3人、談笑していて俺たちが戻っても特にこちらを見ることなくまるで気付いていないかのようだったが・・・・・
 意識だけはこちらに向いているのが、わかるような気がした。

 俺は牧野の手を引き、食堂を横切って部屋から出た。
「類?部屋に戻るの?」
「うん。今日はもう疲れたし・・・・・部屋にワインがあるから、部屋で2人で飲もうよ」
 そう言って笑って見せると、牧野はちょっと戸惑ったように首を傾げたのだった・・・・・。

 部屋に戻り、シャワーを浴びてからまた2人で飲みなおす。

 もちろん、ただ飲みなおそうと思ったわけじゃない。

 「―――じゃ、総二郎が牧野の家に来たとき、そんな話をしてたの?」
 俺の言葉に、牧野がとろんとした目で俺を見ながら頷いた。
 最初は大河原の結婚話をしながら楽しく飲んでいた。
 調子よく飲んでいた牧野のグラスに、次々と注ぎ足して。

 1時間も経ったころには、すっかり良い気分で酔いが回っていた牧野。
 そこで、俺は総二郎とのことを聞くことにしたのだった・・・・・。








  

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