***導火線 vol.17 〜類総つく〜***



 -soujirou-

 半ば強引に牧野を連れ出し、外の階段を上がり2階のバルコニーに出る。
「お、よく見せるぜ、ほら」
 少し高台になっているこの別荘から、ぽつぽつと明かりが見えた。
 静かな海辺の町らしく、明かりは少なかったが、その代わり月明かりを反射する白い波が幻想的だった。
 そして空には満天の星。
 それは東京から見る夜空とは全く違う世界のようだった。
「きれい・・・・・。こんなにきれいな星見るの、久しぶり」
 その大きな瞳を輝かせながら、空を見上げる牧野。
 俺はその横顔に、しばし見惚れていた。

「・・・・・なんだか現実を、忘れそう」
 と、しんみりと言い出す牧野。
「なんだよ、忘れたい現実でもあるの」
 俺の言葉に、漸く俺のほうを見る。
「忘れたいって言うか・・・・・そろそろあたしだって将来のこととか考えないといけないかな、とかね、思ってる」
「将来・・・・・ね。来年、卒業したら・・・・類はどうするんだろうな」
 牧野の肩が、微かに震える。
「もし・・・・・類が海外に行くことになったら、お前はどうするんだ?」
「どうするって・・・・・」
「司を、4年間待ってることは出来なかった。時間だけの問題じゃねえだろうけど・・・・・。でも、類がどんなにお前と一緒にいたいと思っても、所詮はジュニアだ。ある程度は親のいうとおりにしなくちゃいけないところがあるし、家を出るなんてそう簡単なことじゃない。それは、お前だってわかってるんだろう?」
 牧野が、こくりと頷く。
「それに・・・・・お前を一緒に連れて行きたいって類が言ったとして、お前はついて行くことが出来るか?司についていかなかったお前が・・・・・大学を辞めて、類を追っていくことが出来るか?」
 牧野は暫く黙っていたが・・・・・・
 ゆっくりと首を振り、口を開いた。
「わかんないよ・・・・・。離れたくないって思うけど・・・・・」
 俯く牧野の頭を、俺は軽く叩いた。
「わりい。そんな顔させたかったわけじゃねえんだ。ただ・・・・・卒業まであと1年だ。いやでも考えなきゃいけないときが来るってこと」
「うん・・・・・」
 そう言って牧野は顔をあげ、暗い海を見つめた。
「わかってるよ、ちゃんと・・・・・。でも今はまだ、幸せボケだって言われてもいいから、楽しいことだけ、考えてたい」
「・・・・・で、俺の出した問題の答えはわかった?」
 なんとなく話をそらせたくて、そう聞くと、途端に牧野が顔を顰める。
「ぜんっぜん!だってあたし、西門さんに何にもしてないのに・・・・・一体何のことだか」
 ふてくされた顔がおかしくて思わずぷっと噴出すと、ますますぶーたれる牧野。
「お前、その顔すげえぶさいくだぞ」
「だって・・・・・もしかしてあたしのことからかって楽しんでるだけじゃないの?」
「まさか。お前に、当てて欲しいんだよ」
 俺の言葉に、牧野が目を瞬かせる。
「あたしに?」
「ああ」
「どうして?」
「どうしてだと思う?」
 じっと牧野の目を見つめる。
 牧野の瞳に、俺が映っていた・・・・・・。


 -tsukushi-
 西門さんが、真剣な表情であたしを見つめていた。

 なぜだか、どきどきが止まらなかった。

 西門さんに、そんなふうに見つめられることなんて、ないから・・・・・

 「―――ヒント、やろうか」
 あたしを見つめたまま、西門さんが言う。
「え・・・・・」
「俺が最近、朝から大学に行く時・・・・一番に最初に会いに行ってるのは誰だと思う?」
 目は、じっとあたしを見つめたまま。
「夜遊びしなくなったのは、女と遊んでても楽しいと思えないから。それよりも、大学に行って話してる方が楽しい」
「・・・・・誰と?」
「誰とだと思う?」
「・・・・・聞いてばっかり」
「答えるのはお前だろ?」
 そう言って、にやりと笑う。
 それはいつもの西門さんのようで、そうじゃないみたいで・・・・・。
 その目は相変わらずあたしを見つめたまま、優しい光を湛えているようで・・・・・
 なんだかいつもみたいにふざけちゃいけない気がした。
「俺は最近いつも同じ人間のことを考えてる。そいつのことを考えてると、すげえ幸せだったり、落ち込んだり、イライラしたり・・・・・。気付くと、そいつのことで頭がいっぱいだ。これって、どういうことだと思う?」
「・・・・・どういうことって・・・・・」
「俺は、そいつに恋してる」
 ドクンと、胸が鳴った。

 「・・・・・俺の出した問題。俺が最近変なのは、お前のせいだって。それがどうしてかって・・・・・今のが、最大のヒントだよ」
 西門さんは、じっとあたしを見つめて目を逸らさない。
 あたしは、まるでその瞳に捕らえられてしまったかのように動けないでいた。

 そっと、西門さんの大きな掌があたしの頬に触れる。

 西門さんの顔が、ゆっくりと近づいてきた・・・・・。










  

お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪