-soujirou-
半ば強引に牧野を連れ出し、外の階段を上がり2階のバルコニーに出る。 「お、よく見せるぜ、ほら」 少し高台になっているこの別荘から、ぽつぽつと明かりが見えた。 静かな海辺の町らしく、明かりは少なかったが、その代わり月明かりを反射する白い波が幻想的だった。 そして空には満天の星。 それは東京から見る夜空とは全く違う世界のようだった。 「きれい・・・・・。こんなにきれいな星見るの、久しぶり」 その大きな瞳を輝かせながら、空を見上げる牧野。 俺はその横顔に、しばし見惚れていた。
「・・・・・なんだか現実を、忘れそう」 と、しんみりと言い出す牧野。 「なんだよ、忘れたい現実でもあるの」 俺の言葉に、漸く俺のほうを見る。 「忘れたいって言うか・・・・・そろそろあたしだって将来のこととか考えないといけないかな、とかね、思ってる」 「将来・・・・・ね。来年、卒業したら・・・・類はどうするんだろうな」 牧野の肩が、微かに震える。 「もし・・・・・類が海外に行くことになったら、お前はどうするんだ?」 「どうするって・・・・・」 「司を、4年間待ってることは出来なかった。時間だけの問題じゃねえだろうけど・・・・・。でも、類がどんなにお前と一緒にいたいと思っても、所詮はジュニアだ。ある程度は親のいうとおりにしなくちゃいけないところがあるし、家を出るなんてそう簡単なことじゃない。それは、お前だってわかってるんだろう?」 牧野が、こくりと頷く。 「それに・・・・・お前を一緒に連れて行きたいって類が言ったとして、お前はついて行くことが出来るか?司についていかなかったお前が・・・・・大学を辞めて、類を追っていくことが出来るか?」 牧野は暫く黙っていたが・・・・・・ ゆっくりと首を振り、口を開いた。 「わかんないよ・・・・・。離れたくないって思うけど・・・・・」 俯く牧野の頭を、俺は軽く叩いた。 「わりい。そんな顔させたかったわけじゃねえんだ。ただ・・・・・卒業まであと1年だ。いやでも考えなきゃいけないときが来るってこと」 「うん・・・・・」 そう言って牧野は顔をあげ、暗い海を見つめた。 「わかってるよ、ちゃんと・・・・・。でも今はまだ、幸せボケだって言われてもいいから、楽しいことだけ、考えてたい」 「・・・・・で、俺の出した問題の答えはわかった?」 なんとなく話をそらせたくて、そう聞くと、途端に牧野が顔を顰める。 「ぜんっぜん!だってあたし、西門さんに何にもしてないのに・・・・・一体何のことだか」 ふてくされた顔がおかしくて思わずぷっと噴出すと、ますますぶーたれる牧野。 「お前、その顔すげえぶさいくだぞ」 「だって・・・・・もしかしてあたしのことからかって楽しんでるだけじゃないの?」 「まさか。お前に、当てて欲しいんだよ」 俺の言葉に、牧野が目を瞬かせる。 「あたしに?」 「ああ」 「どうして?」 「どうしてだと思う?」 じっと牧野の目を見つめる。 牧野の瞳に、俺が映っていた・・・・・・。
-tsukushi- 西門さんが、真剣な表情であたしを見つめていた。
なぜだか、どきどきが止まらなかった。
西門さんに、そんなふうに見つめられることなんて、ないから・・・・・
「―――ヒント、やろうか」 あたしを見つめたまま、西門さんが言う。 「え・・・・・」 「俺が最近、朝から大学に行く時・・・・一番に最初に会いに行ってるのは誰だと思う?」 目は、じっとあたしを見つめたまま。 「夜遊びしなくなったのは、女と遊んでても楽しいと思えないから。それよりも、大学に行って話してる方が楽しい」 「・・・・・誰と?」 「誰とだと思う?」 「・・・・・聞いてばっかり」 「答えるのはお前だろ?」 そう言って、にやりと笑う。 それはいつもの西門さんのようで、そうじゃないみたいで・・・・・。 その目は相変わらずあたしを見つめたまま、優しい光を湛えているようで・・・・・ なんだかいつもみたいにふざけちゃいけない気がした。 「俺は最近いつも同じ人間のことを考えてる。そいつのことを考えてると、すげえ幸せだったり、落ち込んだり、イライラしたり・・・・・。気付くと、そいつのことで頭がいっぱいだ。これって、どういうことだと思う?」 「・・・・・どういうことって・・・・・」 「俺は、そいつに恋してる」 ドクンと、胸が鳴った。
「・・・・・俺の出した問題。俺が最近変なのは、お前のせいだって。それがどうしてかって・・・・・今のが、最大のヒントだよ」 西門さんは、じっとあたしを見つめて目を逸らさない。 あたしは、まるでその瞳に捕らえられてしまったかのように動けないでいた。
そっと、西門さんの大きな掌があたしの頬に触れる。
西門さんの顔が、ゆっくりと近づいてきた・・・・・。
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