上杉がいつものように学食で昼食をとり、その後取り巻きから離れて飲み物を自販機まで買いに行ったとき・・・・・
「よお」
聞いたことのある声に顔を上げると、そこには慎が立っていた。
上杉は、その顔に笑みを浮かべると自分の買った飲み物を持って慎に向き直った。
「珍しいな。お前から声をかけてくるなんて」 「・・・・・聞きたいことがある」
「へえ、オレに?」
答えてから、上杉はちらりと周りを見渡した。
上杉と慎は、1年生ながらこの東大内でもかなり目立つ存在だった。
今も、傍を通り過ぎる学生達が、ちらちらと2人のことを伺っているのがわかる。
「・・・・場所、変えるか」
「ああ」
2人は、騒がしい食堂を後にした。
「弟のことだけど」
広い公園のような大学の裏庭で、ベンチに座った慎が口を開いた。
少し離れて座った上杉がその言葉にちらりと慎の方を見、にやりと笑った。
「ああ。岳のことか」
「岳・・・・って言うのか。白金に入ったのか」
「ああ。全く何を考えてるんだか・・・。あいつはちょっと変わったやつでね。頭は良いんだが、わざと人と違ったことをしたがって昔から親を困らせてた。高校も・・・・青玉確実って言われてたのに、直前になって急に進路を変えた。しかもあの白金に、だ。おかげで母親はぶっ倒れちまった」
くすくすと、楽しそうに笑う上杉。
―――お前も相当変わってるよ。
慎はそう思ったが、あえて口には出さない。
「まあ、あいつの考えてることはなんとなくわかるよ。前に一度、俺があの・・・山口のことを話したことがあったんだ。変わってる教師が白金にいるってね。それで、興味を持ったんだろう」
「それだけで?」
「ああ。もちろん両親はあいつを説得したが、聞き入れるようなやつじゃない。結局親の反対を押し切って白金に入っちまった。まあ、大学は必ず行くと言ってるし、何か問題を起こしているわけでもない。今のところ、親もあきらめて静観してるよ」
「ふーん・・・・・」
上杉は、相変わらずいやみな笑みを浮かべたまま、慎の方を見た。
「山口から、何か聞いたのか?」
「いや・・・。偶然白金から出てくるところを見た。そっくりだったし、名前が同じだからすぐに分かった」
慎の言葉に、上杉は初めて少し眉をひそめた。
「そっくり・・・・?ふん。よく言われるけどな・・・・俺はそう思ったことないけど」
上杉の表情に、初めて素直な反応を見て、慎は意外そうな顔をする。
「で・・・・オレに何の用?岳を、山口に近づけるなって?」
そう言って、上杉はまた横目で慎を見てにやりと笑った。
「・・・・・・そんなこと、言ってない。ただ、どういうつもりであいつに近づいてるのかと思っただけだ」
「さーあね。俺は知らない。でも、最近のあいつは楽しそうだよ。中学のときなんか毎日退屈そうで、あいつの笑顔なんかめったに見なかったけど・・・・。最近のあいつは良く笑う。特に、学校の・・・・山口のことを話すときはすごく楽しそうに笑うよ」
ニヤニヤと笑いながら、何もかも見透かしてるような顔で話す姿がどうにも癇に障った。
―――やっぱこいつとは友達になれねえ。
「・・・・・わかった。じゃあな」
慎はそれだけ言うと、その場を後にした。
「ふーん・・・・なかなかおもしろいことになってきたみたいだな・・・・・」
上杉はそう呟くと、また楽しそうにくすくすと笑ったのだった・・・・。
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