-soujirou-
「お前に説教されるとは思わなかったぜ」 あきらが苦笑して言った。 「お前のためじゃねえからな」 「わかってるよ・・・・・牧野」 「え?」 俺の隣で涙ぐんでいる牧野に、あきらは視線を移した。 「あのな、お前が責任感じる必要は何にもねえからな」 「美作さん・・・・・」 「俺は、お前に・・・・・それから類にも、感謝してるよ。お前たちには辛いことだっただろうけど、俺にとっては幸せな時間だった。お前といられて・・・・・初めて自分の気持ちに正直になれた気がしてた。あんなふうに女を好きになったのは初めてだった。お前の本心が、本当は俺にはないんだって思っても・・・・・・お前の傍にいたいと思った。辛いけど、やっぱりそれは俺にとって幸せな時間だったと思う。だから、お前は自信持ってていいよ。俺って男を、幸せにしてくれたんだからな」 牧野の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていた。 あきらの穏やかな、優しい微笑が牧野を包み込み、2人の間に優しい空気が流れる。 「美作さん、あたし・・・・・・あたしも、美作さんに感謝してる・・・・・・美作さんのおかげで、あたしも幸せだったよ。類のこと・・・・・考えずにいられた時間があったのは、美作さんがいてくれたから・・・・・・」 「ん・・・・・。俺が、日本を離れるのはお前のせいじゃないから、気にすんな。結婚は・・・・・当分しねえと思うけど、恋愛しねえわけじゃないから、いつかそういう相手が見つかったら、式には呼ぶよ」 にやりと笑ってウィンクを決めるあきら。 牧野も泣き笑いの顔で頷く。 「ん。待ってる。そのときには、花沢類と一緒に行くね」 「ああ」 もう、俺は必要ないかな・・・・・・ そう思ったとき、あきらが俺を見た。 「総二郎、お前にちょっと話があんだけど」 「は?」 「帰る前にちょっと、時間くれ。牧野、いいか?」 そのあきらの言葉に、きょとんとしながらも頷く牧野。 「わかった。じゃ、あたし玄関で待ってるよ」 「ああ、わりいな。すぐ終わるから」
牧野が出て行くと、あきらはじろりと俺を睨んだ。 「余計なことしやがって」 「お前のためでもあるんだぜ。好きでもねえ相手と結婚したって、結局牧野に思いを残すだけだろ?」 俺の言葉に、あきらはため息をついた。 「ああ・・・・・サンキュー。こうなることはわかってたんだけどな・・・・・結構ショックだった。けど、おかげで牧野とのことはいい思い出にできそうだよ」 「ならいいけど」 「後のことも頼むぜ」 「ああ、わかってる」 「それからおまえ自身のことも」 「は?俺?」 あきらがじろりと俺に視線を送るのに、首を傾げる。 「お前の気持ちくらい、気付いてる。牧野のこと・・・・・このままでいいのか?」 「って・・・・・・どうにも出来ねえだろ?今更・・・・・。俺は類に対抗する気なんかねえよ。あいつが・・・・・牧野が幸せになってくれればいいんだ。ここへ来て、俺の気持ち知ったりしたらあいつはまた余計なことで悩むことになる」 「そうでもないと思うぜ。牧野に・・・・・近くにお前っていう味方がいるってこと、言ってやればいい。それから・・・・・類にも、油断は禁物って思わせてやれば」 ニヤニヤと笑うあきら。 こいつは、結構策士だからな・・・・・。 「・・・・・ま、それもいいかもな。あっさり類に持ってかれて、実際おもしろくはねえし」 「だろ?幸せボケしてると横から掻っ攫ってくぞって脅しかけとけよ。それで・・・・・お前の思いも解放してやれよ」 「あきら・・・・・」 「次の恋に進むための、ステップだと思うぜ?」 全く・・・・・ 自分の気持ちは隠そうとするくせに、人の心にはずかずか入り込んでくる・・・・・親友だからこそ、だろうけど。 だけどまあ、それくらいでちょうどいいのかもしれない、と俺は思った。 どうせ隠そうとしたって、俺の気持ちに気付いてないのは当の牧野くらいのもんだし。 最後にちょっとくらいいたずらしてやったって、罰は当たらないよな・・・・・。 「待たせたな、牧野。行こうぜ」 玄関へ行くと、牧野が手持ち無沙汰でそこに突っ立っていた。 「あ、もういいの?」 俺に気付き、にっこりと微笑む牧野。 本当に・・・・・幸せそうに笑うようになった。 「牧野」 俺の後ろから歩いてきたあきらが、牧野に声をかける。 「美作さん」 「これからまた、類のところに行くのか?」 その言葉に、牧野はちょっと首を傾げた。 「ううん。一応、類から連絡来ることにはなってるけど・・・・・・」 「そっか・・・・・。ま、いろいろ大変だろうけど、がんばんな。何か困ったことがあったら言えよ。俺たちで協力できることがあったらなんでもするし」 あきらが優しく微笑むと、牧野もほっとしたように微笑んだ。 「うん、ありがとう・・・・・」 あきらがそっと牧野の頬に手を添え、いとおしそうに見つめる。 一瞬、2人の間のときだけが止まってしまったかのように沈黙が訪れる。 「美作さん・・・・・」 牧野の瞳から、涙が一粒零れ落ちる。 あきらがそっと唇を寄せ、その涙を救う。 「・・・・・泣くな。お前はこれから幸せになるんだから・・・・・・。いつも、笑っててくれ。俺は・・・・・お前の笑顔が、大好きだよ」 「ん・・・・・・」 牧野は頷き、涙を拭い精一杯の笑顔を見せる。
輝くような笑顔。 でもまだ完璧じゃない。 その笑顔を完璧にするために・・・・・・ やっぱり牧野には、あいつが必要なんだな・・・・・・
俺はあきらと視線を見交わすと、お互いにやりと笑い、こぶしをつき合わせたのだった・・・・・。
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