***キャラメル・ボックス vol.10***



 -soujirou-

 車で牧野を家まで送る途中、牧野の携帯が鳴り出した。
「類からじゃねえの?」
「あ・・・・・そうみたい」
 牧野が、慌てて携帯を耳に当てる。
「はい―――うん―――え、今どこ?―――ほんと?あたし、今帰るとこで・・・・・あの、車なの。西門さんに送ってもらう途中。―――うん、じゃ、あとで」
「何?類、どこにいるって?」
「今、あたしの家に着いたとこだって。誰もいないから、心配してたみたい」
「ふーん・・・・・向こうの話はついたのか」
「・・・・・・わかんない。何も言ってなかったから・・・・・」
 牧野の顔が不安気に曇る。
「・・・・・俺、着いててやろうか?」
 俺がそう言うと、牧野はそれでも俺に笑顔を向ける。
「大丈夫だよ、ありがとう」

 ―――そんな風に、無理して欲しくねえんだよ・・・・・。

 「牧野・・・・・」
「え?」
「俺が・・・・・・お前を好きだって言ったら、どうする?」
 その言葉に、牧野は一瞬呆けたような顔をする。
「は?」
「間抜けな声、出すなよ」
「だって、急に変なこというから・・・・・」
「変なことじゃねえ。マジだ」
「マジって・・・・・」
 戸惑ったように俺を見つめる牧野。
 それでも俺は続けた。
「俺は、お前が好きだ。ずっと好きだったよ。あきらがお前と付き合う前から・・・・・。言わなかったのは、お前をこれ以上苦しめたくなかったからだ」
「じゃ・・・・・なんで今、言うの・・・・・?」
 戸惑いに揺れる瞳。
「お前の力になりたいから。できればお前の隣にいるのが俺でありたかったけど・・・・・それがどうしたって無理なんだってことはわかってるし、もうそれについちゃ諦めがついてる。今はただ、お前の力になりたい。そうやって無理して笑わなくてもいいように・・・・・・俺の前では、無理する必要、ないから」
 そう言って俺は、牧野を見つめた。
 牧野のアパートが、すぐそこに見えていた。
 その前には、類の姿が・・・・・

 -tsukushi-
 突然の西門さんの告白に、あたしは動揺してしまっていた。
 そんな風に、考えたこともなかった。
 美作さんと一緒に、ずっとあたしを見守ってくれてた人。
 それはただ、友達だから。
 そう思っていた。
 西門さんみたいな人が、あたしを好きになるなんて、考えたこともなかった・・・・・。

 「俺の気持ちに応えようとか、そんなことは気にしなくていいから」
 西門さんが車を停めながら言った。
 あたしのアパートはすぐそこで、その前に類がたたずんでいるのも見えていた。
 でも、まだ類はこっちに気付いていない。
「ただ、俺がいるってこと。何か辛いことがあって、泣きたくなったとき・・・・・そん時には俺が傍にいてやるから」
「西門さん・・・・・・」
「俺は、どんなときでも、お前の味方だから。だから、何でも1人で抱え込もうとするな。俺を利用していいから」
「そんなこと・・・・・・」
「俺が、そうしたいんだよ。つうか、その役目を俺にくれ。類と喧嘩したときでも良い。まずは俺に言えよ。お前が俺を頼ってくれるなら・・・・・俺はそれで満足。何でも良いんだ。お前とはずっと、繋がってたい」
 そう言って、いつものように微笑む西門さん。
 あたしはどう答えていいかわからなくて、その顔をじっと見つめていた。
 きれいな切れ長の目。
 整った顔立ち。
 いつもはおちゃらけてるくせに、今日はとても真剣な瞳で、あたしを見つめてる・・・・・。
「ただの友達じゃ、満足できねえな。一番近い友達。類が彼氏で司とあきらはモトカレ。それなら俺は、お前にとって特別な男友達でありたい。何でも言える相手は俺だけだって言ってもらえるような・・・・・そんな存在になりたいんだよ」
 優しい瞳があたしを捕らえる。
 こんな西門さん、見たことない。
 まるで・・・・・宝物を見るみたいに、大事なものを見つめるように、あたしを見つめる・・・・・・

 「さ、もう行けよ。類が凍えちまう」
 西門さんに言われ、はっとして前方に見える類に視線を戻す。
「う、うん」
 促されるまま、あたしはドアを開けて、外に出る。
「・・・・・西門さん」
「ん?」
「あたしにとって・・・・・西門さんは特別だよ?」
 あたしの言葉に、西門さんが目を見開く。
「ずっと傍にいてくれて・・・・・・すごく心強かった。いつもあたしの気持ちをわかっててくれて・・・・・あたしも気づかないような気持ち、気付かせてくれた。西門さんみたいな人、他にいない。きっとずっと・・・・・あたしにとって、西門さんは特別な友達だから・・・・・・」
 精一杯の気持ちを口にする。
 気を使うとかそういうんじゃなくて。
 ただ、伝えたかった。
 きっと、素直に口にできるのは今しかないような気がしたから。

 西門さんが、ドアを開けて出てくる。
「西門さ・・・・・」
 西門さんがあたしの方に来たかと思うと、突然体を引き寄せられ、抱きしめられた。
「な・・・・っ」
「サンキュー・・・・・。俺には、その言葉だけで十分だ」
 見上げると、西門さんの優しい笑顔があった。
「西門さん・・・・・」
「幸せになれ。お前には、その権利があるから。俺は、ずっとお前の味方だ」
 真剣な瞳。
 いつの間にか、本当に大切な存在になっていた気がする。
 傍にいて、安心出来る。
 そんな存在に・・・・・

 「牧野!!」
 名前を呼ばれてはっと我に返る。
「やべ、気付かれたな」
 くすっと笑って、西門さんがあたしの耳元に囁く。
 類が走ってくるのが見えた。
 まだ西門さんに抱きしめられたままだったあたしは慌てて離れようとしたけれど、西門さんは離してくれなくて。
「ちょ、ちょっと!」
「もうちょっと。類に、見せ付けてやりたい」
 囁かれる甘い声にドキッとする。
 こんなことしてる場合じゃないのに!
 それでも、力づくで離れることが出来ないあたしが、そこにいた・・・・・





  

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