***キャラメル・ボックス vol.11***



 -rui-

 牧野のアパートの前で、牧野が帰ってくるのを待つ。
 総二郎の車で、帰ってくるって・・・・・・
 なんとなくそれが気に入らない。
 何で総二郎と?
 今更、つまらない嫉妬だってわかってるけど・・・・・・
 それでも、牧野が俺以外の男と一緒にいることに胸がざわつく。

 暫く、赤く色づいてきた空をぼんやりと眺めていた。
 そろそろ帰ってくるころだ。
 そう思って視線をおろしたとき・・・・・・
 停められた車の前で、抱き合ってる2人の姿が目に入った。

 あれは・・・・・・

 その姿を目にするとすぐに、俺は駆け出していた。
 「牧野!」
 俺の声に反応して、牧野が俺のほうを見るが、総二郎は牧野を離そうとしない。

 「総二郎、牧野離せよ!」
 そう言って、牧野の肩を後ろからぐいっと引っ張る。
「何だよ、類。いいところだったのに」
 ちっともそう思っていない口調で総二郎が俺を見る。
「どういうつもり!?」
 俺が総二郎を睨み付けると、牧野が慌てたように俺を見る。
「る、類、これは・・・・・」
「怒るなよ。友情を確かめ合ってただけ。だろ?牧野」
「う、うん」
 総二郎の言葉に素直に頷く牧野。
 その頬は微かに赤く染まっていた。
「・・・・・何も、されてない?」
 つい、疑りの目を向けてしまう。
「さ、されてないよ!送ってもらっただけだから」
「・・・・・・・」
「そういうこと。安心しろよ。俺は牧野にとって友達以上の何もんでもないからさ。お前が海外行っちまっても、俺が傍にいて変な虫が付かないようにするから安心しな」
「そういう総二郎が、一番心配」
「ひでえな、おい」
 総二郎が楽しそうに笑う。
 俺はちっとも楽しくなかったけど・・・・・。
「それより、お前の方はどうなの。問題は解決したのかよ」
 総二郎の言葉に、俺ははっとして本来の目的を思い出した。
「ああ、そうだ。それを話したくて・・・・・牧野、これから時間いい?」
「あ、うん。じゃ・・・・・西門さん、送ってくれてありがとう」
 牧野が総二郎の方を見ると、総二郎が微笑んで頷く。
「どういたしまして。何かあったらいつでも連絡寄越しな」
「うん」
 そう言って牧野も微笑み・・・・・
 2人の間に、なんともいえない雰囲気が流れる。
 なんとなく気に入らない。
 俺の知らない間に、2人の距離が確実に縮まった気がする・・・・・。
 
 ヤキモキしている俺を横目に見て、総二郎がくっと笑う。
「じゃ、そろそろ行くわ。類に睨まれてるし」
 その言葉に、牧野ははっとしたように俺を見る。
「類、後で連絡しろよ。あきらも気にしてたし」
「・・・・・ああ、わかった」
 そう答えると、総二郎は相変わらず口元に笑みを浮かべたまま、車に乗り込みさっさと行ってしまった・・・・・。

 「・・・・・牧野、大丈夫だった?あきら・・・・・」
 牧野の部屋に戻り、2人でお茶を飲みながら漸く落ち着いたころ、俺は聞いてみた。
「うん・・・・・。美作さんね、イタリアに行っちゃうんだって。仕事で・・・・・」
「イタリア・・・・・」
「うん。だから、あたしにプロポーズしたんだって言ってた。びっくりしたけど・・・・・ちゃんと話が出来てよかった。西門さんに一緒に行ってもらって・・・・・ちゃんと本当の気持ちが聞けたの。あたしも自分の気持ちを正直に話せて、良かったと思ってる。美作さんには・・・・・・それから西門さんにも、感謝してる。あたし、本当にいい友達もって良かったって思った」
「そっか・・・・・」
 にっこりと、穏やかに微笑む牧野を見て、俺もほっとしていた。
 あきらとは、俺もちゃんと話をしなくちゃいけないとは思ってるけど・・・・・・。
 それより、なんとなくさっきからもやもやしているものを何とかしたい。
「・・・・・総二郎に、なんか言われた?」
 そう聞いてみると、明らかにぎくりとした様子の牧野。
 ・・・・・・わかりやす過ぎ。
「・・・・・・告白、されたんでしょ」
 その言葉に、真っ赤になる牧野。
 全く・・・・・
 嘘がつけないって言うのも厄介だよな。
 そういうところもかわいいと思うけど・・・・・・
「・・・・・牧野」
「え・・・・・んっ」
 顔を上げた牧野の唇を、有無を言わせず塞ぐ。
 驚く牧野の腰を引き寄せ、そのまま深く舌を絡め取る。
 戸惑う牧野を抱きしめ、強引なキスを続け・・・・・・
 
 暫くして、牧野の体から力が抜けたのを見て、その体を解放する。
「はあ・・・・・・」
 苦しそうに荒い息を繰り返す少し開いた唇と、潤んだ瞳が艶っぽくて・・・・・
 思わずそのまま押し倒しそうになるのを、牧野の腕が俺の胸を押し戻して止める。
「ま、待って、類・・・・・・」
「何で?」
「だって、話が・・・・・あるんじゃないの・・・・・?」
「そうだけど・・・・・牧野が悪い」
「は?あたし?」
「総二郎には、渡さないよ。誰にも、絶対渡さない」
 じっと見つめて言えば、困ったように首を傾げる。
「西門さんは・・・・・友達だよ」
「でも、普通の友達じゃないよね」
「う・・・・・・」
「そうやって、無防備にするから・・・・・心配でしょうがない・・・・・・やっぱり、ダメだね」
「だ、だめって・・・・・・」
「牧野の傍からは、離れられない・・・・・ずっと、傍にいて離さないから・・・・・覚悟して」
 そう言ってまた抱きしめて・・・・・
 何か言いたそうに口を開きかけた牧野の口を塞ぐ。

 大事な話があるけど・・・・・・
 その前に。
 我慢は、体によくないから・・・・・・・・ね






  

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