***キャラメル・ボックス vol.7***



 -tsukushi-

 美作さんに話をしなきゃ。
 そう思いながら家を出たあたしを待ってたのは、西門さんだった。
「西門さん?どうしたの?」
「お前とちょっと話したくてさ。時間あるか?」
「いいけど・・・・・なに?改まって」
「どっか入ろうぜ。俺、昼飯まだなんだ」
 そう言って歩き出す西門さん。
 あたしは、首を傾げつつ、西門さんのあとに着いて行った。


 「お前、類と何か話した?」
 喫茶店に入り、オーダーを済ませて開口一番、そんなことを言うもんだから、あたしは口に含んでた水を吹き出しそうになり、思わずむせてしまう。
「ゴホッーーーな、何、突然」
「・・・・・お前って正直なやつだな」
 呆れ顔の西門さんに思わずむっとする。
「西門さんと違って素直なんです!」
「あっそ。それでその素直なつくしちゃんは、類とどんな話をしたわけ?」
「ど、どんなって・・・・・」
「告白されて、プロポーズされて?ついでにエッチもしちゃった?」
 西門さんの遠慮のない言い方に開いた口が塞がらず、金魚のようにパクパクとさせてしまう。
「・・・・・図星かよ・・・・・本当に正直なやつだな。で、これからあきらのとこもにでも行くつもりだった?」
「・・・・・ムカつく。いちいち人の心理読まないでよね!」
「お前の考えてることなんか手に取るように分かるっつーの。全く単純なやつだよな。司みてえ」
「な・・・・・なんでここで道明寺が出てくるのよ!あいつと一緒にしないでよ!」
 思わず声を荒げるあたしの前に手をかざし、溜め息をつく西門さん。
「まてよ。別に喧嘩しに来たわけじゃねえんだ」
「だって・・・・・」
「お前はお前の思った通りにすればいいと思うぜ。ただ・・・・・このままだとまた、類の時みたくお前はあきらを傷つけたことをずっと気にし続けるんじゃないかと思ってさ」
 あたしは西門さんの言葉にはっとした。
 そうだ・・・・・
 西門さんもずっと、あたしの事を見守ってくれてたんだ。
「最初は、ただ友達としてお前を見守っていただけだったとしても、今のあきらはマジでお前に惚れてる。それは、お前も気付いてるだろ?」
 あたしは俯き、黙って頷いた。
 そんな事・・・・・わかってる・・・・・。


 -soujirou-
 俺の言葉に、辛そうに目を伏せる牧野。
 牧野の、そんな辛そうな顔はもう見たくない。
 だからこそ・・・・・この問題は、俺が何とかしてやりたかった。

 類に言われたとおり、俺は牧野に惚れてる。
 あの、泥酔した日に牧野を介抱したのがあきらじゃなくて俺だったら。
 何度そう考えた事だろう。
 だけど現実に牧野の傷を癒してやったのはあきらだった。
 そして、あきらは俺の親友で・・・・・あきらの気持ちも、俺は痛いほど分かってるつもりだった。
 だから、牧野があきらを選んだのなら、それでもいいと思ってた。

 だけど・・・・・
 同じように、類も俺の親友なんだ。
 そして、類がどれほど牧野の事を思っていて、どれほど辛い思いを抱えて日本を、牧野の傍を去ったのか、それも俺は見てきた。
 その類が帰って来て・・・・・
 婚約してもなお、未だ牧野の事を思っているのを見てしまえば、それを見て見ぬ振りは出来なかった。
 このまままた、辛い思いを抱えたまま結婚してもいいのか・・・・・。
 
 それから牧野。
 類の事を思えばこそ、類との別れを選んだ牧野。
 その方法が正しかったとは思えないが、きっとあのときの牧野にはそうすることしか出来なかったんだ。
 類の婚約を知ったときの荒れようを見れば、牧野の想いの深さは疑いようが無くて。
 何とかしてやりたくて・・・・・。
 それでも何も出来なかった俺は、ただ牧野を見守ってやる事しか出来なかった。
 ずっと牧野の傍に居て、支え続けたあきらの思いに答えようとした牧野を、あきらの愛情に寄りかかってしまった牧野を、誰が責めることが出来る?
 そして、1年ぶりに帰って来た類に、思いの丈をぶつけられて。
 真っ直ぐで純粋な愛を告げられて。
 心の奥底で未だ類の事を思っていた牧野が、類を拒めなかった事を誰が責めることが出来る?

 俺に出来るのは・・・・・
 この3人が何とかして傷つかずに済むようにする事。
 
 「牧野」
 俺の声に、牧野の肩がびくりと震える。
「俺は、牧野の味方だから」
「え・・・・・?」
 牧野が目を見開いて俺を見る。
「俺は、お前の味方だから。だから・・・・・お前が決めた事に、反対はしない」
「西門さん・・・・・」
「俺に、全部話せよ。お前の気持ちも・・・・・これからどうしたいのかも。それから・・・・・2人で、あきらのところへ行こう」
「西門さんと?でも・・・・・・」
「俺は、第3者だから。お前とあきらの橋渡しの役目が出来ると思う。お前は、あきらを傷つけたくないと思ってるんだろう?それを、俺が助けてやる。それから・・・・お前が傷つかないようにしてやるよ」
 俺の言葉に、それでも牧野は不思議そうに目を瞬かせている。
 まあ、それはそうだろう。
 こいつは、俺の思いを知らないのだから・・・・・
「心配するな。お前が気まずくなると俺もこれから先やりづれえから協力するだけだ。お前も、あきらを傷つけたくないと思うなら・・・・・それから、類の事を幸せにしたいと思うなら、俺に協力しろよ」
 
 牧野の性格は把握してる。
 『協力してやる』
 と言われれば反発する。
 『協力しろ』
 と言われれば、断れないんだ。
 そしてそれが、自分の大切な人間の為となればなおの事・・・・・

 「・・・・・分かった・・・・・」
 案の定、牧野はそう言って頷くと、牧野は自分の気持ちを全て俺に話し始めたのだった・・・・・。





  

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