-rui-
このまま、離すつもりはなかった。
一度は離してしまった牧野を。 今度は、絶対に離さない・・・・・・
あきらのことを『好き』と告げようとする牧野の唇をたまらず塞いだ。 あきらの、他の男の名前を聞きたくなかった。 俺だけを見てほしい。 俺のことだけを・・・・・考えて欲しい。
夢中で舌を絡め、その体をかき抱く。 人に見られてたって、関係ない。 もう1秒でも、離れたくなかった。
長い口付けに牧野の体からは力が抜け、膝ががくんと折れる。 俺はその体を支え、唇を離すと、耳元に囁いた。 「・・・・・部屋を、とってある」 その言葉に、牧野が驚き、目を見開く。 「今夜は・・・・・帰さないつもりで、呼んだんだ・・・・・」 「な・・・・・に言ってるの・・・・・そんな・・・・・そんなこと、できるわけない」 「どうして?」 「どうしてって、あたしは美作さんと結婚するんだよ!?」 「させないよ、結婚なんか・・・・・・。決めたんだ。もう、俺は逃げない。牧野を手に入れるまでは・・・・・絶対に諦めない」 ずっと、後悔していた。 どうしてあの時、俺は牧野から離れてしまったのか。 傷ついた牧野を救えるのは、俺じゃなかった。 そう思ったんだ、あの時は。 だけど・・・・・・違う。 俺は、逃げてたんだ。 いつまでも牧野の心を手に入れられないんじゃないかという不安から。 牧野の心は、ずっと他にあると思っていたから・・・・・・ だけど、そうじゃなかった。 あのときの俺には、それすら見えてなかった・・・・・・・。
1年という月日が流れ、意にそぐわない婚約までして、今更何を、と言われても仕方がない。 それでも俺は・・・・・・・
「好きなんだ、牧野が」 「花沢類・・・・・」 「1年もかけて・・・・・・漸く答えが見つかった。俺には、牧野だけだ。牧野のいない世界なんて、考えられない。ずっと一生・・・・・牧野の傍にいたい」 抱きしめていた腕を緩め、牧野の瞳を見つめながら言う。 牧野の瞳には涙が溢れ、頬を伝っていった。 俺は唇でその涙を救う。 「・・・・・ずるい、よ・・・・・・」 切なげに絞り出される、牧野の声。 「・・・・・ごめん・・・・・・」 「どうして・・・・・・」 「好きだから・・・・・・」 「あたしは・・・・・・」 「俺が嫌い?」 牧野の頬に手を添え、その目を見つめる。 牧野が、ゆっくりと首を振る。 「嫌いになんか・・・・・なれるわけ、ない・・・・・・知ってるくせに・・・・・」 「うん・・・・・・だから、あの時俺を振ったんだよな・・・・・・俺のために・・・・・・」 「自惚れないで、よ・・・・・!」 ぐっと両手で胸を押される。 だけど、俺は牧野を離さない。 「自惚れさせて。本当は・・・・・牧野も俺を好きだって。ずっと・・・・・好きだったって・・・・・違う?」 俺が聞くと、牧野はぽろぽろと涙を流しながら、首を大きく振った。 「牧野・・・・・・・・」 「ちがわ、ないよ・・・・・・ずっと、好きだった・・・・・。本当は、道明寺と別れる前から、ずっと・・・・・だけど、そんなこと言えなかった。それを言ったら、それまでのことが全部嘘になるみたいで・・・・・道明寺とのことまで、全部・・・・・。だから、言えなかった・・・・・あの時ちゃんと言えてたら、花沢類のことだって、傷つけずに済んだのに・・・・・・」 俺の胸がずきんと痛んだ。 ずっと、傷ついたのは、俺のほうだと思っていた。 だけど、牧野のほうがずっと傷ついてたんだ。 その傷を、癒したのは俺じゃない・・・・・・。
それでも・・・・・・ 俺はもう、牧野を離せない・・・・・。
「牧野・・・・・・俺はもう、牧野を苦しめたくない。このまま別れたら、きっと後悔する。牧野だって・・・・・そうじゃないの?このままあきらと結婚して・・・・・本当に後悔しない?あきらのこと・・・・・結局傷つけることにならない?」 「花沢類・・・・・・」 「あきらと結婚して・・・・・本当に幸せになれるの?俺は・・・・・牧野が苦しむのを、もう見たくない。それはきっと、あきらも同じ想いだと思うけど・・・・・」 見つめる牧野の瞳が、揺れた。 牧野にとって、あきらが大切な存在なんだってことはわかってる。 傷つけたくないと、思ってるのだろう。 だからこそ、ここで諦めるわけには行かなかった。 俺にとっても、あきらは大事な親友であることは変わらない。 その関係は、ずっと続くものだって信じてる・・・・・。
「あたし・・・・・あたしは・・・・・・」 牧野の気持ちが、揺れているのがわかる。 だけど、その揺れが治まるのを待つ余裕は、俺にはなかった。
俺は、牧野を横抱きに抱えると、そのままホテルの部屋が並ぶ廊下を歩き出した。 「え?ちょ・・・・・花沢類?何して・・・!!」 動揺する牧野に、俺はちょっと微笑んで見せた。 「部屋、とってあるって言ったでしょ?続きは部屋で」 「は!?ちょ、待ってよ!あたしはまだ・・・・・離してってばっ」 「離さないよ、絶対に」 即答する俺を、呆気にとられたように見つめる牧野。 「今夜は、絶対に帰さない・・・・・・」 そう言って・・・・・・
俺は、予約しておいた部屋に、カードキーを差し込んだのだった・・・・・。
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