***キャラメル・ボックス vol.3***



 -tsukushi-

 花沢類が婚約した。

 その知らせにあたしは大きなショックを受けた。
 自分から突き放しておいて、なんて勝手な人間なんだろうと思う。
 それが花沢類の幸せなのだからと自分に言い聞かせても、溢れる涙は止めようがなくて・・・・・

 自分の気持ちを制御しきれなくなったあたし。
 心配して傍にいてくれた美作さんと西門さんに付き合ってもらって浴びるほどにお酒を飲み、気付いたときには美作さんと2人、ベッドの中で寄り添っていた・・・・・。

 呆然とするあたしに、美作さんは言ってくれた。

 「お前のしたいようにすれば良い」

 「俺はいつでも傍にいてやるから」

 「お前が忘れられるまで、待っててやる」

 優しく包み込むように抱きしめてくれた美作さんの腕は暖かくて・・・・・

 この人の傍にいたいって・・・・・・
 そう思ったんだ・・・・・


 花沢類が日本に帰ってくると美作さんに聞いて。
「会いたくないなら、来なくても良いぜ」
 そう言われたけど、
「ううん、大丈夫」
 そう答えた。
 いつまでも美作さんに心配をかけたくなかった。

 だけど実際に1年ぶりに花沢類の顔を見て。
 やっぱり来なければ良かったと・・・・・・・
 会わなければ良かったと、思ってしまっていた・・・・・。

 1年前と変わらない、優しい瞳。
 さらさらの茶髪に、見惚れてしまうほどきれいな顔。
 薄茶色のビー玉のような瞳は、少し切なげにあたしを映していた・・・・・。

 美作さんの隣に座り、西門さんが花沢類を連れて一旦店を出ると、そっと溜息をついた。
 握っていた手に、汗をかいていた。
 知らずに、緊張していたのだ・・・・・。

 「大丈夫か?」
 美作さんが心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「あ、大丈夫・・・・・」
 しっかりしなくちゃ・・・・・
 そう思うのに、やがて戻ってきた花沢類のことを真っ直ぐに見ることが出来なくて・・・・・
 他愛のない会話も、ほとんど頭に入ってこない。
 結局何を話したかも良くわからないうちに時間だけが過ぎていった。

 「牧野、乗れよ。送ってく」
 迎えに来たリムジンに乗り込みながらそう言ってくれた美作さんにも、
「え、いいよ、タクシー拾うから」
 と慌てて答え、呆れられてしまった。
 腕を引っ張られてそのままリムジンに乗り込み・・・・・扉が閉まる瞬間、ちらりと目を向けた花沢類と、視線が合ってしまう。
 その瞬間、まるで電気が走ったような衝撃が走り・・・・・・
 あたしの胸は、ドキドキと苦しいほどの鼓動を打ち始めていた。

 「牧野」
 車の中で、突然美作さんがあたしの手を握った。
 びくりと震える体。
「・・・・・な、なに?」
 普通に答えようとすればするほど、あたしの声はぎこちなく、震えていくようだった。
「・・・・・結婚、してくれないか」

「―――――え!?」

 聞き間違いかと思った。
 だって、そんなこと、考えたこともなかった。

 だけど、見上げた美作さんの顔は、今までにないくらい真剣な表情で・・・・・

「・・・・・俺は、牧野を愛してる」
「美作、さん・・・・・・」
「急にこんな話をして、お前を困らせることはわかってる。でも・・・・・・俺の気持ちを、知っておいて欲しい」
 そう言って、美作さんはあたしの手を握る手に力をこめた。
「・・・・・結婚、してくれないか・・・・・?俺と・・・・・」
「あの・・・・・・あたし・・・・・・」
「一生、大事にするよ。約束する。だから・・・・・結婚、してくれ」

 優しい瞳。
 辛くて、泣くことが出来なくなったあたしを見守ってくれた人。
 辛くて、涙が止まらなくなったあたしを、優しく抱いてくれた人。

 きっと、この人ならあたしを幸せにしてくれる。
 きっと、幸せになれる。
 きっと・・・・・・・

 「・・・・・・はい・・・・・・」
 あたしは小さく頷き・・・・・・そして、瞳を閉じた。
 零れる涙を、美作さんの唇が優しく掬ってくれた・・・・・・。




  

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