***キャラメル・ボックス vol.16***



 -tsukushi-

 「へえ、フランスで挙式か」
 翌日、あたしと類は美作さんに結婚の報告をしようと彼の家に行った。
 そこには既に西門さんも着ていて、あたしたちの報告を待っていた。
「うん。それで・・・・・できれば2人にも来て欲しいなって」
「「もちろん」」
 異口同音に告げる2人に、ほっと胸をなでおろす。
「いいんじゃねえの。フランスだったら静も来るかもな。詳しい日付が決まったらすぐ知らせろよ」
 西門さんの言葉に、類が頷く。
「うん。一応・・・・・司にもメールしたんだけど、相変わらず忙しいみたいで、電話は繋がらなくて」
「あー、あいつはな・・・・・けど、あいつのことだから何とかしてくるんじゃねえの。あいつも・・・・・牧野の幸せを望んでるはずだから」
 美作さんが、やさしく微笑みながらあたしを見る。
 優しすぎる彼の言葉に、胸が熱くなる。
 
 結ばれることはないけれど・・・・・・
 それでもこの1年、あたしを支えてくれたのは間違いなく美作さんだ。
 いつもあたしの気持ちを優先して考えてくれていた美作さん。
 そんな彼がいつも傍にいてくれたからこそ、類とやり直すことが出来た。
 あたしの隣で、そっとあたしの手を握ってくれている類を見て。
 穏やかにあたしを見て微笑んでくれる類。
 握り合う手に、きゅっと力をこめる。

 「もう、離れんなよ」

 美作さんの言葉に、あたしと類は彼のほうを見る。
「今度離れたりしたら・・・・・そん時は俺も、容赦しないからな」
「美作さん・・・・・」
「この1年・・・・・俺にとっても本当にいい時間だったよ。お前は俺にとって、生涯忘れらんない女だよ。これから先もずっと、見守ってるから・・・・・だから、何かあったときには遠慮なく頼って来い。お前のためなら、何でもしてやる」
 力強い言葉に、あたしの目からは涙が零れた。
 どうしよう。
 どう返したらいいんだろう。
 きっと、一生かかっても返しきれないほどの気持ちをもらってる。
「・・・・・今度何かあったら、本当に返してもらえそうにない気がする・・・・・」
 ふっと類が苦笑して言った。
「怖いな・・・・・。でも、俺ももう2度と離さないから。牧野に会いたくなったらい、いつでも会いに来て。でも、絶対に譲らないから・・・・・それだけは、覚えておいてね」
 穏やかに、でも強い意思を持つ瞳でそう宣言する類を見て、美作さんと西門さんは顔を見合わせ、そして笑った。
「それは百も承知。お前だったらきっと、牧野を幸せに出来るよ。てか、お前しかいねえよな、きっと・・・。もし牧野を不幸にしたら、そん時は俺もあきらも黙ってないし」
 西門さんが柔らかい笑みを浮かべてあたしを見る。
 彼に思いを告げられて。
 西門さんもずっと、あたしを見守ってくれていたんだと知った。
 戸惑って・・・・・でも、嬉しかった。
 離れてしまっても、きっと変わらない。
「不幸になんか、しない。牧野の幸せが、俺の幸せだから。ちゃんと、約束するよ。今度こそ、離したりしない。この手を離さない。何があっても・・・・・」
 類の言葉に、2人が満足そうに微笑む。

 こうしてまた、類と一緒にいられる日が来るなんて。
 こんなふうに幸せを感じられる日が来るなんて。

 この幸せを逃しちゃいけない。
 それが、ずっとあたしたちを見守ってくれてきた人たちに出来ること。
 類の思いに応えて、しっかりと手を繋いで生きていくことが、みんなへのお礼なんだ・・・・・・・

 あたしたちはしっかりと手を握り合い、見つめあい・・・・・お互いの思いを確認したのだった・・・・・。


 翌日から類は日本での仕事をこなすべく、忙しく働き始めた。
 その間にあたしは、結婚、渡仏のための準備に追われ、ゆっくり類と話す間もなく日々が過ぎていった。
 会えないことを寂しく思う暇もないくらい、忙しい毎日。
 それでも、必ず1日に1回は電話で類の声を聞いていた。
 それだけで、安心する。
 類も、同じ気持ちでがんばっているんだと知り、嬉しくなる。

 そしてあっという間に時間は過ぎ・・・・・・
 結婚式の日取りも決まり、2人フランスへと旅立つこととなった。

 「向こうへ行っても忙しいんでしょうね。体、壊さないように気をつけてよ」
 空港で、母親が心配そうにあたしの手を握る。
「うん、大丈夫。そっちこそ、張り切りすぎて怪我なんかしないでね。式の日、間違えないでよ」
 父と母を交互に見ると、2人顔を見合わせ、苦笑した。
「そうね、気をつけないと・・・・・」
「類さん、つくしを頼みます。つくしの花嫁姿・・・・・楽しみにしてます」
 父の言葉に、類は微笑んで父の手を握った。
「はい。楽しみにしていてください」
「姉ちゃん、気をつけて」
 進が、心配そうにあたしを見る。
「うん、あんたもね。パパとママを、頼んだよ」
 あたしの言葉に頷く進。
 すっかり頼もしくなった弟。
 あたしの、ここでの役目は終わったんだと悟る。
 これからは、この人と歩いていくんだ・・・・・・・。
 あたしが類を見ると、類もあたしを見て微笑んだ。
「そろそろ、行こうか」
 類の言葉に頷く。
 少し離れたところでわいわいと話し込んでいた、旧友たちを見る。
 西門さん、美作さんに加え、今日は滋さん、桜子、優紀も見送りに来てくれていた。

「つくし、式には絶対行くからね!」
「当日、遅刻しないでくださいよね」
「つくし、おめでとう。良かったね」
 それぞれに笑顔で見送られ・・・・・あたしも、めいいっぱいの笑顔を返した。
「ありがとう。結婚式、あたしもみんなに会えるの楽しみにしてるから・・・・・」
「今度こそ、幸せになってよね。司のためにも・・・・・」
「滋さん・・・・」
「大丈夫ですよ。今の先輩、とっても幸せそうですもの」
「うん、ほんと。その幸せを、逃さないようにね」
「桜子、優紀、ありがとう」
 美作さん、西門さんと話している類のほうを見ると、類もあたしの方を見たところだった。
 お互い、笑顔で頷き合う。


 「いってらっしゃい」
 「気をつけてね」
 「また、向こうで」
 笑顔で手を振ってくれる彼らに手を振り返し、あたしたちは手を繋いで飛行機に乗り込んだのだった。
 2人での、新しい生活を始めるために・・・・・・





  

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