-tsukushi-
「「結婚!?」」 あたしの家で。 類と2人、挨拶に来て・・・・・ 『結婚』という言葉を出した途端に瞳を輝かせるこの反応。 嬉喜とした予想通りのその表情に気が抜ける。 「まああ!それは素晴らしいわ!もちろん反対なんかしませんよ、ねえあなた!」 「そ、そうだねえ」 「あの、それで・・・・・」 類が、珍しく言いづらそうに口ごもる。 「はい?」 「僕の仕事の都合なんですが、来月にはまたフランスに行かなくてはいけなくて・・・・・」 「はぁ。じゃあ、式は帰って来てから・・・・・?」 「いえ、その・・・・・いつこっちに戻れるか分からないんです。だから・・・・・」 「はあ・・・・・」 類が何を言いたいのか理解できず、首を傾げる母親。 「出来れば、つくしさんを一緒に連れて行きたいと思ってます」 「まあ、それは・・・・・」 「でも、さっきも言った通り、今度いつ日本に帰って来れるか分からないので、結婚式は向こうで挙げたいと思ってるんです」 類の言葉に、両親が顔を見合わせる。 「それで、もし良ければ、親族の方達を招待したいと思ってるんですけど・・・・・どうですか?」 「ど、どうですかってそりゃあ、私たちはつくしの為ならどこへだって行きますけども」 「でも、いいんですか?そこまでしてもらって・・・・・」 父の言葉に、類は笑顔で頷いた。 「もちろん。僕の両親もそうしたいと言ってるし―――何より僕が、早く彼女と結婚したいんです」 穏やかな類の笑みに、あたしの両親も顔を見合わせ、頷いた。 「花沢さんがそう言ってくださるなら」 「私たちは喜んで」 その言葉に、あたし達も顔を見合わせ微笑みあった。 「パパ、ママ、ありがとう」 「幸せになるのよ、つくし」 「必ず、幸せにします」 しっかりとそう宣言した類を、父は頼もしそうに見ていた・・・・・。
「良かった、反対されなくて」 家の外まで類を見送りにでて。 ほっと溜め息をつきながらそう言う類に、あたしは驚いた。 「反対されると思ってたの?」 「そういうわけでもないけど・・・・・。もしかしたらって思わなくもなかったし。すごい緊張した」 「類が?」 あたしの言葉に苦笑する類。 「俺だって緊張くらいするよ。せっかくここまで来たのに、牧野の親に反対されたら、またふりだしだろ?それで諦めるつもりはないけど・・・・・また会えなくなったらどうしようって思ったよ」 あたしは何も言えず、類の顔を見つめた。
類が、どれだけあたしのことを思ってくれているかってことを思いしらされる。 この人を、大事にしたい。 あたしがこの人を、幸せにしたい・・・・・
あたしは、黙って類の胸に身を預けた。 「牧野・・・・・?」 「幸せに、なろうね。2人で・・・・・」 あたしの言葉に、類はちょっと目を見開き・・・・・ それから、柔らかい笑みを浮かべた。 「うん。必ず、ね」 そっと抱きしめられる。 その暖かさに幸せを噛み締めながら・・・・・ いろんな人への感謝の気持ちを感じていたあたしだった・・・・・。
「フランスって、季節はどうなの?寒いの?暑いの?」 「いや・・・・・まだ式の日取りも決まってないからなんとも・・・・・」 類を見送り、家に戻ったあたしを待っていたのは母親の質問攻めだった。 「日帰りってことはないわよね。服は何枚持っていけばいいの?」 「てか・・・・・その前にパスポート作らなきゃ」 「そうよね〜。仕事もその日はお休みしなくちゃね。わくわくしちゃうわね〜」 まるで子供のように瞳を輝かせる母に、あたしは苦笑するしかなかった。 「つくし」 父の声に、あたしは振り返った。 「なに?」 「ちょっとそこまで、付き合ってくれないか?」 「良いけど・・・・・」 鼻歌なんか歌いながら上機嫌にテレビを見ている母にチラリと視線をやって、父と一緒に家を出た。
「よかったな」 父と2人、外をぶらぶらと歩きながら、父が微笑んで言った。 「類くんと結婚が決まって・・・・・・これほどうれしいことはないよ」 「パパ・・・・・」 「これでも、ずっと心配してたんだ。去年、類くんと別れてしまってから・・・・・ずっと元気がなかったからね。それで・・・・・美作さんとは?」 「うん・・・・・ちゃんと別れたよ。でも・・・・・美作さんとはずっと友達。大切な、人なの」 「そうか・・・・・・。パパは、お前が幸せならそれでいい。いつも、望むのは家族の幸せだよ。類くんならきっと、お前を幸せにしてくれる。だからお前も、類くんを信じて、着いて行きなさい。疑ったり、隠し事をするのは・・・・・お互いを、不幸にすることになるからね」 「うん・・・・・・。わかってる。ありがとうパパ。それから・・・・・いつも心配させてごめんね・・・・・」 あたしは、隣を歩くパパの手を握った。 パパも、あたしの手を握り返してくる。 2人で、手をつないで歩く・・・・・・・。 パパと手をつないで歩くのは、たぶん子供のとき以来。 子供のころは、とっても大きく感じたパパの手。 今もやっぱりあたしの手よりは大きいけれど・・・・・ それよりも、パパの手はこんなに暖かかったんだと実感して、胸が熱くなった。 涙が溢れてきて・・・・・握る手に、力をこめた。
「パパ・・・・・あたしをずっと見守ってくれてありがとう・・・・・」
パパは無言で・・・・・ただ、あたしの手をそっと、握り返してくれた・・・・・。
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