***キャラメル・ボックス vol.17***



 -rui-

 良く晴れた日だった。
 協会で俺は、花嫁が現われるのを待っていた。
 漸くこの日が来た。
 ずっと・・・・・何年も前から、待っていた気がする。
 俺の隣に、牧野が来てくれるのを・・・・・

 キイ、という金属のこすれるような音が微かに聞こえ・・・・・・
 協会の扉が開くと、教会に集まっていた人々が一斉にそちらを見る。

 「つくし・・・・・・きれい」
 「見違えるな」
 
 皆が見惚れ、溜息が漏れる中、牧野は父親の腕にそっと手を添え、ゆっくりと歩いてきた。

 牧野の表情はベールの下で見えないが、父親の方は真っ赤になってとても緊張しているんだろうということが手に取るようにわかった。
 それでもしっかりと俺の傍まで歩いてくると、俺のほうを真っ直ぐに見据えた。
「類くん・・・・・・」
「お父さん・・・・・ありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちの方です。こんなにきれいな娘の花嫁姿を見せてもらって・・・・・・本当にありがとう。これからも・・・・・2人で、幸せになってください」
「はい・・・・・・必ず・・・・・」
 牧野が顔を上げ、ベール越しに俺のほうを見つめるのがわかった。
 父親からすっと手を離し、その手を俺の腕に絡める。
 そして父親の方を見ると、微かに微笑んだ。
「パパ・・・・・ありがとう。あたし、幸せになるからね・・・・・・」
 牧野の言葉に父親は涙ぐみ、そして大きく頷くと、最前列に並んで座っていた母親と、進の隣に並んだ。

 
 牧師の、静かな言葉が協会に響く。
 厳かな雰囲気の中、誓いの言葉を紡ぎ、指輪の交換をして・・・・・
 牧野のベールをゆっくりと持ち上げた。
 涙で潤んだ瞳。
 その瞳には、俺の姿だけが映されていた。

 俺は静かに唇を重ね、誓いのキスをした。

 自然に周りから拍手が巻き起こり、牧野は恥ずかしそうに頬を染めた。
 髪が伸び、きれいにメイクもしてすごくきれいになっても、やっぱりこういうところは牧野だと思う。
 俺はちょっと笑って、牧野の髪に触れた。
「もう・・・・・牧野って呼べないね」
「うん・・・・・でも、呼んでも良いよ。類に牧野って呼ばれるの、好きだったから」
 そう言って、ふわりと微笑む。
「そうだね。たまには呼んじゃうかも。でも・・・・・やっぱりこれからはつくしって呼びたい。漸く、手に入れたから・・・・・」
「ん・・・・・」
 嬉しそうに微笑むつくしが・・・・・・
 とてもきれいだった・・・・・・。


 -tsukushi-

 「おめでとう!すごくきれい!」
 式が終わり、その後皆でこれからあたしと類が住むことになってる新居へと移動して。
 そこの中庭で、ガーデンパーティーを行っていた。
 優紀、桜子、滋さんがあたしのところへ来てくれる。
「ありがとう。なんか緊張しちゃって・・・・・。やっと気が抜けた感じだよ、今」
「あはは、つくしらしい。でも本当にきれいだよ。あたしも早くウェディングドレス着たいなあ」
 滋さんが羨ましそうに言う。
「着れるんじゃないですかあ」
 と、桜子がニヤニヤと笑いながら滋さんを見る。
「最近、日本に帰ってきた道明寺さんとしょっちゅう会ってるって話じゃないですか。知ってるんですよ」
 その言葉に、あたしも驚く。
「え、そうなの?」
「え、いや、それは・・・・・・でもまだ付き合ってるわけじゃないし・・・・・」
 そう言いながらも、滋さんの頬が赤く染まる。
「滋さん・・・・・あたし、応援してるから」
 そうあたしが言うと、滋さんはちょっと照れくさそうに、でもどこか嬉しそうに微笑んだ。
「うん。ありがと・・・・・・あたしもつくし見習って、がんばろうかなって思ってるの」

 「つくし」
 ふと見ると、久しぶりにF4全員が並んでこっちへ歩いてくるところだった。
「・・・・・・なんだか、高校時代を思い出しちゃう。懐かしい」
「だろ?俺らもそう話してたとこ」
 西門さんがにやりと笑う。
「牧野―――と、もう牧野じゃねえか。どう呼んだらいい?つくしで良いか?」
 美作さんが、ちらりと類の方を見て言うと、類がちょっと眉を顰める。
「牧野でいいよ。なんか、お前らにはつくしって呼んで欲しくない」
 類の言葉に、F3が笑う。
「んじゃ、牧野って呼ぶわ。牧野・・・・・きれいになったな」
 道明寺が、その端正な顔に柔らかな表情を浮かべる。
「道明寺・・・・・ありがとう。忙しいのに、きてくれて・・・・・・すごくがんばってるんだね」
「ああ、まあな。でも・・・・・最近は、ちょっと気持ちに余裕が出来てきた。お前には・・・・・感謝してるよ」
「道明寺・・・・・」
「幸せになれよ」
「うん」
 自然と、握手を交わす。
 そして、身を屈めるとあたしの頬に軽くキスをした。
 ちょっと驚いて・・・・・でも、類の方を見ると、仕方ないというように肩を竦めるだけで。
 それを見て、あたしもほっとした。

 その横から、西門さんがあたしの頭にぽんと手を乗せる。
「きれいになったな。見違えたぜ・・・・・」
「西門さん」
「お前がいないと、日本も静かだよ。また・・・・・戻って来いよな。いつでも、おいしいお茶立てて待っててやるから」
「うん・・・・・ありがとう」
 西門さんもまた、あたしの頬に軽くキスをする。
「幸せになれ」
 耳元に囁かれた言葉が、暖かかった。

 「やっぱり、牧野だよな」
 美作さんが、あたしを見つめてやさしく微笑む。
「何年もその呼び方だったから。きっとこの先も・・・・・・・ずっと牧野としか呼べないな。でも、牧野って呼べば、時間も戻せるような気がするよ。お前との関係は・・・・・ずっと変わらないから」
「ん・・・・・。美作さんも、忙しくなるね。たまには、会えるかな・・・・・」
 ずっとあたしを支えてくれた人。
 会えなくなってしまうのは、やっぱり寂しい。
 すると、美作さんはにっこりと笑って、
「ああ、会えるよ、すぐに。来月はこっちに仕事で来る予定だしな」
「え、ほんと!?」
「ああ。そん時はよろしくな、類」
 そう言われ、類はちょっと複雑そうに微笑んだ。
「ん・・・・・家に来るのは、俺がいるときにしてね」
 その言葉に、美作さんが笑った。
「了解。考慮するよ。牧野、苦労するな」
 そう言って、くすくす笑いながらあたしの頬にキスをする。
「幸せにな。いつでも、力になるから・・・・・」
 その声色はやっぱり優しくて。
 この人が、傍にいてくれて良かったと改めて思った。
 何度お礼を言っても足りないくらい、感謝してる。

 もう、抱えきれないほどの幸せを、この人たちからもらってる。
 その幸せをこれからも・・・・・・
 あたしからも、みんなに幸せをあげられるような人間になりたい・・・・・。

 類があたしの肩を優しく抱いてくれる。
「幸せに、なろう」
「うん・・・・・」
 顔を上げれば、そこには類の笑顔。
 あたしを一番幸せにしてくれる笑顔。
 その笑顔を見たいから・・・・・・
 あたしも、いつも微笑んでいられるように、がんばりたい・・・・・・

 自然に唇をあわせ、瞳を閉じる。
 幸せなキス。
 この温もりを、決して忘れないように・・・・・・・

 幸せになろうね・・・・・・・


                            fin.








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