「つくし!早速来たよ〜!」 滋さんの元気な声が聞こえ、あたしはあわてて店の入口に出た。 「いらっしゃい!・・・って、あれ?美作さんも一緒?」 メールでは、女の子3人で来るってことだったと思ったけど・・・ 「そこで会ったの。あきら君もここに来ようとしてたみたいだから、どうせなら一緒にと思ってさ」 滋さんの言葉に、美作さんはどこか照れくさそうに頭をかいている。 「そうだったんだ。美作さん、仕事終わったんだね」 「あ、ああ。ちょうど近く通って思い出したからさ・・・」 「そうなんだ。じゃ、約束通りお酒ごちそうするね」 とあたしが言うと、聞いていた桜子と優紀があたしの傍に来る。 「ちょっと先輩、どういうことですか?」 「へ?どういうことって・・・」 「約束って何のこと?」 と優紀。 「それになんだか美作さんが今日仕事だったって知ってたみたいじゃないですか?大学行ってないのに、美作さんと会ってるんですか?」 桜子がじと目で責めてくる。 「あ、あのね、今日昼間、バイト先で偶然会って話したの。そのときにご飯ごちそうになっちゃったから、お礼に今度お酒ごちそうするって約束・・・あ、それよりも席に案内するから」 店長がちらちらとこちらの様子を伺っているのがわかり、あたしは慌てて4人を席に通した。 席に案内すると飲み物のオーダーを取り、一度厨房に引っ込もうとするが、桜子に腕をがしっと掴まれ、引きとめられる形に。 「ちょっと先輩!その前に聞かせてくださいよ!」 「な、何を?」 桜子の勢いに、思わずのけぞる。 「花沢さんと付き合い始めたって、本当ですか?」 「・・・・・うん、本当」 あたしの言葉に、桜子はふうっと溜息をついた。 「じゃあ・・・道明寺さんのことは、もういいんですか?」 「・・・・うん。道明寺には、今度ちゃんと話そうと思ってる」 「そうですか・・・。あの、わたし責めてるんじゃないですよ。むしろ良かったと思ってるんです。遠恋はやっぱり大変だし。先輩が幸せになれるんだったら、それで良いんです。ただ、もし離れてる寂しさからそういう結論を出したんだったら先輩も花沢さんも辛いかなって思ったから・・・でも、そうじゃないんですよね?」 心配そうにあたしの顔を覗き込む桜子に、あたしは精一杯の笑顔を見せた。 「もちろん!道明寺と別れたのも、類と付き合うことにしたのも、ちゃんとあたしの本心だから。後悔なんかしてないし」 あたしの言葉に、桜子は漸く安心したように笑った。 それを見ていた優紀も優しく微笑んでいる。 「つくしの出した結論なら、間違いないよ。あたしも、応援するから」 「優紀、ありがと。じゃ、悪いけどあたし仕事中だから一旦戻るね。また後で」 「がんばってね〜!」 と滋さんが笑顔で手を振ってくれる。
そしてあたしが厨房に戻った後、桜子は何か思いついたように携帯を取り出して、どこかにかけ始めた。 「おい、どこにかけてるんだ?」 美作さんが聞くと、桜子は何もいわずにやりと笑った。 「あ、もしもーし、三条です。―――今、どこにいると思います?―――ふふ、なんと牧野先輩のバイト先の居酒屋なんです。滋さんと優紀さん、美作さんも一緒なんですよ。―――店の前で会ったんです。それより、これから出てきません?場所、知ってるんですよね。―――ハーイ、じゃあ」 桜子の話し方で、美作さんは電話の相手が誰なのかがわかったようだ。 「総二郎か」 「ええ。美作さんも男1人じゃ寂しいでしょうし」 そういいながら、桜子はまたどこかにかける。 「今度は誰だ?まさか―――」 美作さんの言葉に、桜子はまたも不敵な笑みを浮かべ―――
「ドリンクお待たせしました〜」 そう言ってあたしが全員の飲み物を持っていくと、ちょうど桜子が携帯を閉じるところだった。 なんだか楽しそうにくすくす笑っている。 「あ、先輩」 「何?ずいぶん楽しそうだね」 「ふふ。花沢さんって面白いですね」 「は?」 何で類? 「今ね、花沢さんも呼ぼうと思って電話したんです」 「な!!」 「そしたら・・・」
「もしもし、三条です」 『・・・・・誰?』 「三条です、三条桜子」 『ああ・・・・・何?』 「今、女の子3人と美作さんで飲んでるんですけど、花沢さんも来ません?これから西門さんも来るんですよ」 『・・・・・めんどくさい・・・・』 「そんなこと言わずに・・・あ、ちなみに牧野先輩のバイト先で飲んでるんです」 『・・・・・・・行く』
そのときの話をしながら、桜子がげらげら笑っている。 「ほんっと、ベタぼれって感じよね〜うらやましい」 滋さんもニヤニヤ笑いながらあたしを見ている。 「もう・・・・・」 あたしは何も言えず、ただ火照った頬を隠すことも出来ず立っているしかなかった。 「あいつ、出不精だからなあ。けど牧野と付き合ってたら外に出ることも多くなんじゃねえ?」 「・・・・・で、結局西門さんも来るのね?料理のオーダー、先にする?」 美作さんの言葉を無視してあたしが言うと、 「あ、何でもいいから適当に持ってきてよ」 と滋さん。桜子も 「おいしいものお願いしますね〜」 と手を振る。 「・・・・わかった。適当に、ね」 ―――ここの料理、この人たちの口に合うのかな・・・ 一抹の不安を抱えながら、あたしは厨房に向かった・・・・・。
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