「おっす」 桜子の電話から15分後、総二郎がやってきた。 「おお、早かったな。お前、家にいたの?」 俺の言葉に総二郎は頷いた。 「ああ」 「グッドタイミングでしたよね〜。電話にもすぐ出られましたし」 桜子の言葉に、俺はちょっと首を傾げる。 「・・・なんだよ、あきら。なんか言いたいことでも?」 「いや。珍しいなと思っただけだよ。この時間に家にいるなんて。いつもだったらクラブに顔出してるか、女と会ってるか・・・」 そう言うと、総二郎は気のない様子で肩をすくめた。 「たまには家にいる時だってあるだろ。気が乗らなかったんだよ。それより、お前は何で1人でこの店に来ようとしてたわけ?牧野に用でもあんのかよ?」 総二郎の言葉に、話を聞いていた桜子が身を乗り出してくる。 「わたしもそれ、気になったんですけどお。美作さんが1人で居酒屋に、なんてぜんっぜん似合わないじゃないですか。ひょっとして先輩に会いたかった・・・とか?」 いつの間にか滋や優紀ちゃんまでが耳をそばだてている・・・。 「ば、バカ言ってんじゃねえよ。たまたま近くを通りかかったんだよ。で、今日牧野とちょうど話したとこだったから顔でも見て行こうかと思っただけで・・・・」 「へえ。牧野の顔が、見たかったわけだ」 総二郎が意地の悪い目で俺を見る。 「総二郎、お前なーーー」 「牧野が、どうしたって?」 突然後から声がして、驚いて振り向くとそこには類が立っていた。 「よお、類。ーーーいや、あきらのやつがわざわざ牧野の顔見に、1人でここに来てたっていうからさ」 「総二郎!」 「・・・・あきらが?」 途端に類の顔色が変わる。 げ。こいつってこんな表情するやつだったか? 前から牧野に関わると人が変わるとは思ってたけど・・・。 幼馴染の俺たちでさえ、今まで見たこともない顔をする。 「誤解すんなよ。たまたま近くまで来たから寄っただけだって。昼間、牧野に会ったんだよ。あいつが今バイトしてる清掃会社の派遣先ってのがおれんとこが出資してる会社が入ってるビルだったんだ。そこで、今日は夜、ここでバイトだって聞いたから・・・」 なんとなく言い訳がましくなってしまう俺の話を聞きながら、それでも類は一応納得したようだった。 その光景を、総二郎のやつがニヤニヤしながら見ている。 俺はちらりと総二郎を睨み・・・ さっきから頭に引っかかっていることを思い出していた。
最近の総二郎はどこかおかしい気がしていた。 どこが?と聞かれるとうまく説明できない。 遊びに誘えば出て来るし、相変わらず何人もの女と付き合ってる。 それは前と変わらないのだが・・・・。 なんとなく・・・そう、気が入ってないのだ。 酒を飲んでても、女と遊んでいても、どこかつまらなそうな顔をしている。 いつからそんな風になったのか、はっきりとは覚えていないが・・・司と牧野が別れてから、だったような気がする。 「あ、類、きてたんだ。西門さんも。飲み物、どうする?」 牧野が料理を持ってきて、2人に気付く。 類の表情が、一気に和らぐ。 それから、総二郎の顔も・・・・。
「あー、俺あれがいいわ。ワイン。ここのカクテルは薄くて飲めねえ。良くあんなもの飲めるな」 総二郎の言葉に、牧野がくすくすと笑う。 「ジュースと変わんないかもね。でもしょうがないでしょ。美作さんが作ってくれるカクテルとは違うよ。類は?」 「俺もワインで良い」 類の言葉に頷くと、牧野はまた厨房へと戻っていった。 「先輩、がんばってますね」 桜子が感心したように言う。 「ほんと。あたしも今度、バイトしてみようかな」 滋の言葉に、桜子が苦笑いして首を振る。 「滋さんには無理無理。1日・・・ううん。1時間で根を上げますよ、きっと」 「同感。お前も根っからのお嬢だからな」 総二郎にも笑われ、滋が頬を膨らませる。 「何よお、にっしーまで。自分だって根っからのお坊ちゃんじゃないの」 「アホか。俺がこんなとこでバイトするかよ」 「うわ、にくったらしい」 「はい、ワイン持って来たよ〜」 2人分のワインボトルとグラスを持って牧野が来た。 「お前、それが客に対する態度かよ」 総二郎のあきれた口調に牧野は肩をすくめる。 「あんた達が客って言われてもねえ。あ、それからこのワインもあんた達が飲んでるような高級ワインじゃないからね」 その牧野の言葉に、類は軽く頷き「ん。わかってる。期待してないし」 と笑う。 「なんか憎たらしい・・・。安物だって、おいしいものはあるんだから」 頬を膨らませ、すねたように言う牧野の表情がかわいらしい。
やっぱり類が相手だと、牧野も女の子の表情になるんだな。
それがなんとなくおもしろくなくて、2人の姿を視界から外すように横を向くと、同じようにおもしろくなさそうな顔をした総二郎の横顔が目に入る。 やっぱり・・・・・
そんな思いが、俺の中に湧き上がる。 総二郎も、俺と同じなんだ・・・・・。
|