店を出たところで、俺たちは解散した。 「類は牧野送ってくんだよな」 あきらの言葉に頷く。 「じゃ、また大学でな」 「ああ」 それぞれの姿が見えなくなったころ・・・ 牧野が、店から出てきた。 「類、お待たせ。もうみんな帰った?」 「ん。おつかれ」 牧野と2人、並んで歩き出す。 今日はアルコールが入ってるから車ではなく歩きだ。 春とはいえ、まだまだ夜は冷える。 牧野の手を握ると、牧野も握り返してくる。 寄り添って歩くだけで、温まる感じがした。
「今日、あきらと会ったんだって」 「うん、昼間ね。びっくりしちゃった。にしてもあれよね、ああいうとこで会うと普段とは違う印象っていうか・・・意外とちゃんとやってるんだなって思った」 牧野の言葉に、思わず噴出す。 「それ、あきらが聞いたら怒るよ」 「あはは、だって本当にそう思ったんだもん。西門さんもそうだけど、みんな2つの顔をもってるんだなって思ったの」 「ふ〜ん。俺も?」 そう聞いてみると、牧野はちょこっと首を傾げた。 「う〜ん・・・類はちょっと違う感じ」 「違うって?」 「なんていうか・・・仕事してるところを見たことないからかもしれないけど、スーツ着てても、ラフな格好してても、類は類っていうか・・・うまく言えないけど」 照れくさそうにそう言う牧野がかわいい。 なんとなく、愛されてるって感じがしてうれしくなる。 「牧野」 「え?」 牧野が俺のほうを見上げる。 その瞬間に、唇を重ねる。 ほんの一瞬で離すと、牧野の頬が赤く染まっていくのがわかり、その表情に満足し、また唇を重ねる。 腰を引き寄せ、片手を牧野の頬に沿え、そのやわらかい感触を確かめるように唇を味わい、徐々に深く口付ける・・・・・。 やがてそっとその表情を盗み見ると息苦しそうに眉間にきゅっと皺が寄っているのがわかり、その唇を開放した。 「・・・・・・はぁ」 瞳が潤み、高潮している頬。 濡れて光る唇が扇情的で、俺の胸が高鳴る。 「牧野、かわいい」 「・・・バカ」 照れてうつむく牧野の髪に指を通す。 ピクリと牧野の体が反応し、上目遣いで俺を見上げるその表情にまた煽られる。 「・・・そういう顔、誰にも見せたくない」 「またそういう事・・・あ、そういえば美作さんに・・・・」 「あきら?」 突然あきらの名前が出て、俺は顔をしかめる。 何で今、あきらの名前? 「なんか似たようなこと・・・そういう顔がなんとかって・・・・なんだっけ」 俺の表情には気付かず、牧野が眉間に皺を寄せて考える。 「えーと、そういう顔、俺に見せたら類が妬くとか何とか・・・意味分かんなかったけど」 「・・・・・・・・どんな顔してたの」 「別に、普通だよ。美作さんがね、あたしと類が付き合い始めたのを良かったって言ってくれて・・・あたしには幸せになる権利があるって言ってくれたの。だから、ありがとうって。それだけ」 「・・・ふうん・・・」 本当に普通の顔してたら、そんなこと言わないだろう。 ていうか、牧野のことを見てそんな風に思うってことのほうが問題だ。 今日だって1人で牧野の店に行ってみたり・・・どうも気になる。 俺といるときのあきらは、別に変わった様子もないしいつもどおりに見える。 だけど、何かが引っかかる・・・。
急に黙ってしまった俺を、牧野が不思議そうに見る。 「類?どうかした?」 「あ、いや・・・。牧野、今度いつ休み?」 「えーと、あさっては1日休みになってる」 「じゃ、デートしよ」 「え・・・・・」 牧野の頬がほんのりと染まる。 「嫌?」 「い、いやじゃない!」 「じゃ、決まり。朝、迎えに行くから」 「うん」 うれしそうに微笑む牧野。 ちょうど、牧野の家の前に着く。 「じゃ・・・おやすみ」 「うん」 別れ際、もう一度軽くキスをすると、牧野がまたおもしろいように赤くなる。 「くっ・・・・牧野、おもしろい」 「だ、だって、恥ずかしいから・・・」 「かわいいからいいけど」 という言葉にまた赤くなる。 「・・・誰にも、渡さないから」 「え?」 「・・・・牧野は、俺だけのだから・・・誰にも、渡さない」 そう言って笑った俺の顔を、牧野は不思議そうに見つめていた・・・・・
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