「よォ」 突然目の前に現れたその人の笑顔に、あたしはたっぷり10秒は固まっていたと思う。 「おい、何固まってんだよ」 「だって・・・なんで西門さんがここにいるの?」 今日もあたしは清掃会社のアルバイトで、例のビルに来ていた。 そのバイトが終わり、着替えて外に出てみると、なぜかビルの従業員用出入り口の前に西門さんが立っていたのだ。 「暇なんだ。お茶くらい付き合えよ」 「・・・って、何であたしと?彼女でも誘えばいいじゃない。たくさんいるんでしょ?」 「・・・・・今日はそういう気分じゃない」 そう言って視線を落とす様子がいつもの西門さんらしくなく、少し気になってしまった。
「5時から居酒屋のバイト入ってるの」 「じゃあその前に送る。車あるから」 近くの喫茶店に入り、向かい合わせに座る。
「何かあったの?」 あたしが聞くと、西門さんは不思議そうにきょとんとする。 「何で?」 「だって・・・いつもと違うし。大体、あたしに会いに来るなんて」 「そんなに意外かよ?」 「うん」 「はは・・・・」 思いっきり頷いたあたしに、西門さんは半目で乾いた笑いを送ってくる。 「あのさ・・・」 「なんだよ?」 「間違ってたらごめん。もしかして・・・・優紀に彼氏ができたこと、気にしてる・・・とか?」 とあたしが言うと、西門さんは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔になった。 「は、まさか」 「関係ない?」 「関係ねえよ、全然。彼女のことは、本当に良かったと思ってるんだぜ。いい恋愛してるみたいだしな」 その言葉に、あたしもほっとして頷いた。 「うん、あたしもほっとしてる。優紀には、いい恋愛してほしかったら」 「俺とじゃ、いい恋愛できねえもんな」 「そんなこと、ないと思うけど」 あたしの言葉に、西門さんは目を瞬かせる。 「あ、優紀とって意味じゃなくてね。西門さんのこと」 「俺?」 「うん。優紀には合わないと思うけど。優紀には、今の彼みたいな・・・歩調の合ってる人が合うと思うし」 「ああ、俺もそう思うよ」 「優紀は、言うときははっきりいう子だけど、人に・・・特に好きになった人に合わせようとするとこあるし、人の気持ちがわかる子だから。もし西門さんと付き合ったら、辛くなるんじゃないかなあと思ったの」 「・・・当たってるな。俺はいいやつじゃないから」 「そういうことじゃなくって」 「じゃ、どういうことだよ?」 「西門さんは・・・ちゃらんぽらんだし女たらしだけど」 「・・・・あのな・・・・」 「でも、それってきっと西門さんなりの優しさでしょ?」 「優しさ?」 「うん。誰にも執着しないことで、後腐れないようにしてる。軽薄な振りして、本当は結構まじめだし優しい人だし」 「・・・なんかお前に褒められるとキモ」 西門さんが大袈裟に体を震わせて見せるので、あたしはじろりと睨んでやった。 「もう。だからね、もし優紀と付き合ったら結構優紀に合わせようとして気を使ったりして、無理しちゃうんじゃないかなあと思ったの」 「・・・・・・」 「西門さんには・・・もっとばしばし西門さんのこと怒れて、本音をぶつけられるような人が合ってるかなって。西門さんが、自然体でいられる人がいいんじゃないかなあと思ってね。余計なお世話でしょうけど」 「・・・・・・ああ、ほんと・・・。余計なお世話・・・・・」 そう言って西門さんは、あたしから目を逸らした・・・・
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