都心に建つ超高層ビル。 今日からここが仕事先。 と言っても、ここに入っている清掃会社でアルバイトをしているだけだけど。 「すごいビルですよねえ・・・」 外から上を見上げてぽかんと口を開けてるあたし。 「ちょっと牧野さん!何バカ面してるんだい、さっさといくよ!」 同じ清掃会社の先輩であるおばさんがあたしの腕を引っ張る。 「ここの70階から上がうちらの担当。何せ広いからね、てきぱきやらないと日が暮れちまう。まあ、あんたなら大丈夫だとは思うけど、気ィ抜くんじゃないよ」 「はい」 あたし達はエレベーターで70階まで上がり、早速掃除に取り掛かったが・・・
漸く半分が終わったころには既に昼近く。 そろそろ休憩しようかと思っているときだった。 「あれ?牧野?」 聞いたことのある声に振り向くと、そこには美作さんがスーツ姿で立っていた。 「美作さん!何でここに?」 「そりゃあこっちのセリフ。ここ、俺んとこが出資してる会社だぜ」 そう言って人差し指を下に向ける美作さん。 ここ、とは70階から80階までを使ってる、このビルに入っている会社の中でも一番大きな会社のことだろう。 「ええ!?そうだったの?」 「ちょ、ちょっと牧野さん、知り合いかい?」 一緒にいたおばさんが驚いたように声を潜めて聞いてくる。 「あ、はい、友達で・・・」 あたしが言いかけるのを、美作さんが遮る。 「牧野、休憩は?」 「あ、これからだけど・・・」 「なら、この上のレストランで待ってろよ。俺もすぐ行くから」 「は?ちょ、ちょっとまって」 この上のレストランって・・・まさかあの高級そうな最上階のレストラン!? てか、このビルのレストランっつったらそれしかない・・・。 慌てて止めようとするあたしの言葉を無視して、美作さんは待たせていたらしい重役らしい初老の男性の元へといってしまった。 口をパクパクさせているあたしに、おばさんが溜息混じりに言う。 「はあ・・・・・住んでる世界が違う人たちだと思ってたけど、結構身近にいるもんなんだねえ・・・牧野さん。あんた、偉い人と知り合いなんだ」
「よ、悪いな、待たせて」 そう言って美作さんが来たのはあたしがレストランに入ってから10分後だった。 「本当だよ。あたしこんな格好なのにさ。みんなにじろじろ見られて居心地悪いったら」 思わず文句を言ってしまう。 入ったこともないような高級レストラン。 そこへ1人で来てVIP席へ案内されたのが清掃会社の作業着を着たあたしのような女で。 そりゃあ、注目の的にもなるっつーもんだわ。 「はは、ワリイワリイ」 状況を察して楽しそうに笑う美作さんに、余計に腹が立つ。 「全くもう・・・それにしても、今日は仕事?」 スーツ姿の美作さんを改めて見る。 こうしてみると、さすがF4。ブランド物の高級なスーツをスマートに着こなし、このレストランの高級な雰囲気にもマッチしていて思わず見惚れそうになる。 「見惚れんなよ」 にやりと笑ってあたしを見る美作さん。 「バカ、何言ってんのよ。西門さんみたい」 「あいつよりも俺のがイイ男だぜ」 全くこの人は・・・でも言うとおり、見惚れるような美形には違いない。 レストランにいる女性客は皆、美作さんのほうをちらちらと見てはため息をついている。 ついでに「何であんなのと」と言った風にあたしには鋭い視線が突き刺さっていた。 「仕事っちゃあ仕事。視察を兼ねたあいさつ回りみたいなもんだよ。最近こんなのが多い」 「なるほど・・・ジュニアも大変ね」 あたしにはさっぱりわからないけれど・・・ 「お前、類と付き合いだしたんだろ?」 「な、何突然」 前触れもなしに聞いてくるから心臓に悪い。 またどもってしまった・・・。 「ぶっ。どもんなよ。いや、良かったなと思ってさ、これでも心配してたんだぜ。類の気持ちは知ってたけど、お前超のつく鈍感女だからさ」 「ひっど・・・」 「お前には・・・幸せになってほしいと思ってるんだぜ」 突然、優しい笑みを向けられて、思わずどきどきする。 「な、何急に・・・」 「いや、いろいろあったしな。司のこととか・・・お前くらいその若さで苦労してるやつも珍しいし。幸せになる権利があるって思ってるんだよ」 「美作さん・・・・」 「司のことは、また大変かも知れねえけど俺や総二郎も力になるし。相手が類なら安心だろうけど・・・何か困ったことがあったら言えよ。俺に出来ることなら何でもしてやる」 美作さんの優しい言葉に、胸が熱くなる。 ふいに涙が零れそうになって、ぐっとそれを堪えるように、言葉を絞りだす。 「・・・ありがと、美作さん・・・」
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