「よォ、類。おめでとさん」 大学に行くと、あきらが俺を見つけて近づいてきた。 「なんだよ、あからさまにめんどくさそうな顔すんなって。総二郎から聞いたぜ。牧野と付き合い始めたって?何でいわねえんだよ、水くせえ」 「別に・・・わざわざ言うこともないかと思って」 「はあーやだねえ、親友だってのに隠し事かよ」 「別に隠してないし」 「ったく・・・まあ、良かったじゃん。お前の想いも報われたってことだろ。・・・司には?」 「・・・まだ・・・・。司には、できればちゃんと伝えたいと思ってるけど・・・・」 「あいつも忙しいだろうからなあ」 と、あきらが少し遠い目をする。
司・・・・・俺と牧野のことを知ったらどうするだろう? 「道明寺とは、友達に戻ったから。これからは大切な友達として、付き合っていけたらいいなと思ってる・・・。すぐには、難しいかもしれないけど・・・」
そう言っていた牧野。 牧野のことは信じてる。 でも、2人がどれほどお互いを想っていたかを俺は知ってる。 もし・・・・まだ司が牧野のことを好きだったら? それでも俺は、もう牧野を手放すつもりはなかった。 以前よりも強いこの想い。 他の男に、渡せるはずない・・・・・。
司には、近いうちにちゃんと俺から話が出来たら・・・・ そう思っていた。
「そういや総二郎のやつ、優紀ちゃんの大学のサークルに顔出してるんだって?」 「うん。そう言ってた」 「あいつ、優紀ちゃんと付き合ってんのかね。ああいう子は相手にしないと思ってたけど」 「付き合ってなんかねえよ」 突然後から声が聞こえたかと思うと、2人の間に総二郎が割り込んでくる。 「おう、なんだ今日はおせえな」 「今週末の茶会の準備で忙しくてな。ちょっと抜けてきたけど。それより俺がいない間に何勝手な話してんだよ」 「いや、だってよ、今までどの女にも執着しなかったお前がことあの子に関しちゃ特別って感じじゃん?」 あきらの言葉に、総二郎は肩をすくめた。 「特別だよ。あの子は友達だからな。大体彼女、男いるんだぜ」 「は、そうなの?」 「同じ大学の先輩だって。昨日、俺もはじめて知って、紹介されたよ。なんか人の良さそうな男。優紀ちゃんにはああいう男が合ってるよ」 そういった総二郎の顔は、無理をしているわけでもなく、安心したような笑顔だった。 「へえ。ま、お前にはあわねえと思ってたけどな。けど、そろそろ1人に決めるとかねえの?」 とあきらが言うと、総二郎は一瞬ちらりと俺を見たかと思うと、すぐにあきらに視線を戻し、にやりと笑って言った。 「ないね。俺はみんなのものだから」 そしてくるりと背を向けると、軽く手を振ってそのまま行ってしまった。
「あいつって・・・本気の恋愛に関しちゃ、ある意味司よりも不器用なやつかもな」 あきらがポツリと1人ごとのように呟いた。
ざわり。 なんとなく、胸騒ぎがした。 何でだかわからない。 一瞬だけ俺を見た、総二郎の視線が気になった。 きっと、気のせいだ。 そう思うのに、胸騒ぎは治まらなかった。 これから良くないことが起こりそうな・・・ そんな気がしてしようがなかった・・・・・。
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