-tsukushi- 西門さんの口から美作さんの名前が出たとき、ドキッとしてしまった。 やっぱり、聞いてるのかな・・・・・
「ここで良いか?」 西門さんの声に、はっと顔を上げる。 いつの間にかあたしたちは、この間西門さんが連れて来てくれたイタリアンレストランについていた。 「あ・・・うん。あたしは、どこでも・・・・」 「じゃ、入ろうぜ」 そう言って西門さんは先に立って店に入っていく。 あたしは慌ててその後についていった・・・・・。
「・・・・あきらに、聞いた」 食事を終えるころ、飲み物がテーブルに置かれるのを待って西門さんがそう切り出した。 「・・・・・そ、う」 どういって良いかわからない。 「お前は、あきらのことどう思ってんの」 「ど、どうって・・・・・。友達、だと思ってるけど・・・・・」 「男としては?」 「・・・・・正直言って、よくわからないよ。今までずっと友達だと思ってたし・・・・・。美作さんは優しいし、頼りになるし、頭も良いし、一緒にいて楽しいと思う。だけど・・・・それは男としてっていうのとはちょっと違うでしょう?ただ・・・・・」 「ただ?」 「・・・・・今回のことで、気まずくなったり、会えなくなったりするのはやだなって思う。あたしのわがままかもしれないけど・・・・美作さんとはずっと、友達でいたい。いつも頼ってばっかりだけど・・・・迷惑もかけてると思うけど・・・・でもずっと、傍にいて欲しい」 「・・・・・・牧野・・・・・」 西門さんの声に、はっとする。 うあ、あたしってば何言ってんだろ! 「あ、い、今の美作さんには内緒ね。都合よすぎるよね、そんなの。ずっとだなんて、美作さんだっていつかは結婚だってするだろうし仕事だってあるのに」 「いや・・・・あいつがそれ聞いたら喜ぶだろうけどさ・・・・。ふ〜ん、そっか・・・・・」 「え?喜ぶ?ってか、そっかって、何?」 西門さんの、何か含んだような表情が気になる。 「・・・・・お前にとってのあきらの位置が、よくわかった」 「い、位置って・・・・・」 「結局のところ、あきらのことを男として見れたとしても、恋人になることはない、ってことだろ?」 はっきりと言葉にされ、あたしは一瞬息を呑む。 でも・・・・・ 「うん・・・・・」 あたしはゆっくり頷いた。 「美作さんの気持ちは、うれしいの。本当に・・・・・だけど、あたしはやっぱり―――」 そのとき、あたしの言葉を遮るように西門さんの大きな掌が目の前に現れた。 「ちょっと待った。その先、言う前に俺の話を聞いてくれるか?」 「へ・・・・・?」 あたしが目をぱちくりさせていると、西門さんは軽く溜息をついた。 「あのな、人が真剣に話そうって時に、そういう間抜けな声だすなっつーの」 「あ、ご、ごめん」 あたしは思わず頭をかいた。 そして改めて話を聞こうと、西門さんのほうを見ると―――
本当に真剣な、今までに見たことのない表情をした西門さんと目が合った。
「あ、の・・・・・」 「単刀直入に言う。俺は、お前が、好きだ」
頭が、真っ白になった。 今、この人、なんて言った・・・・・?
「言っとくけど、本気だから」 「うそ・・・・・・」 「嘘じゃねえよ」 「だって・・・・・ありえない、そんなの・・・・・大体、西門さんには彼女がたくさん・・・・」 「別れた。全部」 「は!?」 「お前、気付かなかった?俺が最近全然遊んでないの。今まで付き合ってた女とは、全部切れたよ。お前に惚れちまったら、何人もの女と付き合うなんて余裕、なくなる」 そう言って、西門さんは軽く笑った。 あたしは、開いた口が塞がらない。 だって、あの西門さんだよ? プレイボーイで、真剣な恋愛なんて面倒くさがってた・・・・・ その人が、あたしを好き・・・・・・・? そんなの、信じられるわけ、ない・・・・・・・ でも・・・・・ 「何で惚れたか、なんて聞くなよ?俺にもわからねえんだから。ただ、気づいたらどうしようもなく好きになってた。お前が類とくっついて・・・・・お前の口から類のこと聞くたんび、2人が一緒のところを見るたんびに俺がどんだけ嫉妬してたかしらねえだろ」 「し・・・らないよ・・・・嫉妬って、そんな・・・・・」 「してたよ。あきらにもしてた。昨日のこと聞いて・・・はらわたが煮えくり返るかと思った」 次々と、西門さんとは思えないようなことを言うから、あたしの頭の中はパニックだ。 いつもどこか冷めてるような、恋愛をバカにしているような感のあった西門さん。 だけど今目の前にいる西門さんは、見たことのない熱い眼差しをあたしに向けていた。 その目があまりにも真剣で、あたしは動くことが出来なくなってしまった・・・・・。
「さっきと同じ質問、していいか?・・・・・俺のことは、どう思ってる?」 しばらくの沈黙の後、西門さんがあたしを見つめたままそう言った。 「正直に言えよ。俺も伊達にいろんな女と付き合ってねえから、お前の言ってることが本当かどうかくらい見抜く力はある」 「・・・・・・わかってる。うそなんて、つかないよ」 「だろうな」 そう言って、西門さんがやさしく笑ってくれたから。 少しだけ、気持ちが楽になったような気がした。
「あたしにとって、西門さんは、友達だよ」 西門さんは、黙って聞いていた。 「友達、って言葉だけで片付けるのはもったいないくらい、大切な友達だと思ってる。あたしのいいとこも悪いとこも全部知ってて、それをちゃんとあたしに伝えてくれる。注意してくれる。あたし、今まで西門さんにいっぱい助けてもらったと思ってる。まさか・・・・あたしのことを好きでいてくれたなんて、思いもしなかったけど・・・・すごく、うれしいよ。本当に・・・・・美作さんといい、西門さんといい、何であたし・・・・・?もったいなさ過ぎ・・・・・信じられないよ・・・・・」 知らないうちに、あたしの目には涙が浮かんでいた。 「・・・・・泣くなよ・・・・・・」 西門さんは優しい声でそう言うと、指であたしの涙を拭ってくれた。 「・・・・・泣いてないもん。汗だよ、ただの」 あたしの言葉に、西門さんがくっと笑う。 「かわいくねえ女」 「・・・・・・ごめん」 「・・・・・謝るな」 「・・・・・あたし、やっぱり、類が・・・・・・・」 そう言い掛けたあたしの口に、西門さんのきれいな指が触れる。 「今は、その先言わないでくれ。わかってるから・・・・・わかってるけど、今聞くのは堪える」 「・・・・・・・・」 「今日は、帰るんだろ?花沢の家に」 「うん・・・・・」 「静のこと、ちゃんとはっきりさせとけよ。それから・・・・お前の思ってることも、全部ぶちまけて来い。それでもしまた泣きたくなったら・・・・・俺のとこに来い。いつでも拾ってやっから」 そう言って西門さんは、いつものようににやりと笑った。 あたしは、涙を拭いながら、笑って言ってやった。 「美作さんのとこでもいい?」 西門さんは半目になり、あたしのおでこをピンとはじく。 「アホ。言っとくけどあきらにだけはお前を譲るつもりねえからな。ま、類にも譲りたくねえんだけど・・・・お前の気持ちは尊重してやるよ」 最後にはそう言って笑ってくれるから・・・・・ あたしは、漸く気付いた。
この人は、こうやっていつもあたしを守ってくれてたんだ・・・・・。 冗談を言ったり、怒ってくれたり・・・・・ あたしをいろんなものから守る為、あたしが気付かないような方法で・・・・・。 本当は涙が止まらなくなりそうだった。 西門さんの大きな愛に。 それに気付かなかった自分の不甲斐無さに。 でも泣いてしまったら、また西門さんはあたしを守ろうとしてくれるだろうから。 だから、泣かない。
類に会わなきゃ。 会ってちゃんとあたしの気持ちを伝えなきゃ。 美作さんと、西門さんの気持ちが、あたしに勇気をくれたみたいだった。 きっと、今なら何でもできる。 そんな気分。
そうしてあたしは、西門さんと別れた後、真っ直ぐに花沢の家に向かった・・・・・・・。
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