類の、冷たい唇があたしの唇を捉える。 一体何が起こったのか。 あたしはすぐにそれを理解することが出来なかった。 突然のキスは冷たく、でもとてもやさしかった。
しばらくして漸く唇が解放され、あたしは思わず大きく息をついた。 「なんで・・・・」 「牧野が、無防備すぎるから」 「無、無防備って・・・!」 「・・・俺は・・・司だから、諦めようとしたんだ」 類の、普段とは違う強い視線にあたしは釘付けになる。 「司だから・・・司だったら牧野を任せられると思って・・・!そう思ったから、俺は2人を見守っていこうと思ったんだ。あんな男に取られるくらいなら・・・!」 そう言うと、類はあたしの体を引き寄せ強く抱きしめた。 類に抱き寄せられ、あたしの胸の鼓動が大きく波打つ。 「好きだ・・・・。もう、誰にも渡したくない・・・・」 類の、甘く低い声が耳元で響き、あたしは息をするのも忘れ類の胸のぬくもりを感じていた。 「牧野・・・俺と、付き合って・・・」 「類・・・・・」 「・・・それとも、他に好きなやつ、いる・・・・?」 不安げな類の声に、あたしは思わず大きな声を出した。 「い、いるわけないじゃない!」 体を離し、類があたしの顔を覗き込むように伺う。 ビー玉のようなきれいな瞳があたしを捕らえ、大きく胸が高鳴る。 「き、緊張するから、あんまり見ないで・・・・」 「緊張?何で?」 「な、何でって・・・そりゃあ・・・・類が目の前にいるから・・・」 「何で俺が目の前にいると緊張するの?」 どんどん類の顔が近づき、あと数センチで唇が触れそうな距離にそのきれいな顔が迫り、あたしは思わず下を向いてしまった。 「牧野・・・こっち見て・・・・」 耳元で囁かれ、余計に顔が上げられないあたし。 どうしよう・・・すごくどきどきする・・・・・。 「牧野・・・・・?」 「・・・・・き・・・・なの・・・・・」 「え?」 「・・・・・好き、なの、あたしも・・・・類のこと・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 類は、何も言わない。 あたしの胸はうるさいくらいに鳴り響き、類にも聞こえてしまうんじゃないかと思った。 「・・・・・もう1回、言って・・・・」 漸く口を開いた類。 「も、もう1回って・・・無、無理だよ、もう、いっぱいいっぱい・・・」 きっと、今あたしの顔は真っ赤だ。それがわかるほど顔が熱くて、余計に類の顔が見られない。 「ちゃんと、顔見て・・・じゃないと、信じられない・・・・。もしかしたら、聞き間違いかもって思うから」 そう言いながら、類があたしのことを見つめているのが分かる。 その腕はしっかりとあたしの肩に置かれ、あたしが何か言うまでは離してくれそうもなかった。
あたしはそっと目を瞑り、小さく息を吸い込むと、思い切って顔を上げ、類の顔を見上げた。 ビー玉のような瞳が、あたしを真っ直ぐに見つめている。 あたしは覚悟を決め、類の瞳を見つめ返しながら、口を開いた。 「あたしは、類が好き。誰よりも・・・・好きなの」 その言葉を言い終わらないうちに、あたしの体はまた類の腕に抱きしめられていた。 「牧野・・・・・!」 「類・・・・・」 「それ・・・・本心だよな・・・・あとで取り消そうとしたって、もう受け付けないよ」 「取り消したり、しないもん・・・本心だよ・・・」 「・・・信じて・・・いいんだよな・・・・」 「ん・・・・・信じて・・・・」 類は少しだけ腕の力を緩めると、片手をあたしの頬に当て、そっと唇を重ねた。 さっきよりも優しく、いたわるようなキスだった。 何度も啄ばむように繰り返し、確かめるようにキスを繰り返す。 そのうちに息が上がって立っていられなくなったあたしの腰を、崩れる前に類が支えてくれた。 そのままあたし達は、おでこをこつんとくっつけ見つめあった。 「牧野、顔真っ赤」 類がおかしそうにくすくすと笑う。 「何よ!しょうがないじゃない・・・めちゃくちゃ緊張したんだから」 「・・・・そう言う顔、他のやつに見せちゃダメだよ」 そう言って、類は優しく笑った。 その笑顔がとろけそうなほど優しくって・・・あたしはますます顔の熱が上がるのを感じていた。 「類・・・・・」 「ん・・・・?」 「大好き・・・」 思わずあたしの口から零れたその言葉に、類は驚いたように目を見開いた。 そして、次の瞬間にはまた抱きしめられていて、類の顔を見上げようとすると掌で目を隠された。 「??類?」 「見ちゃダメ」 「な、何で?」 「俺今、真っ赤な顔してる気がするから・・・」 「!!」 「・・・・・そういうの、反則・・・。うれしすぎる・・・・・」 その声が、本当にうれしそうで・・・あたしの胸がまた大きく高鳴り始めた。 「明日・・・会える?」 「明日は、バイトが・・・」 「何時に終わる?迎えに行くから」 「え、いいよ、そんな・・・」 「ダメ」 有無を言わせぬ口調に、思わず顔を上げる。 そこには拗ねたような表情の類。 「俺が迎えに行くから。断るのはなしだよ」 「・・・って、あたしに選択権は・・・」 「ない」 きっぱりと言い切られ、あたしは思わず絶句する。 この人って、こんなに強引だったっけ・・・・・?
今まで長い付き合いだと思っていたけれど・・・・まだまだ知らないことがありそうで・・・ 期待と不安に、どきどきが治まらないあたしだった・・・・・。
|