***ブランコ vol.4***



 類の、冷たい唇があたしの唇を捉える。
 一体何が起こったのか。
 あたしはすぐにそれを理解することが出来なかった。
 突然のキスは冷たく、でもとてもやさしかった。

 しばらくして漸く唇が解放され、あたしは思わず大きく息をついた。
「なんで・・・・」
「牧野が、無防備すぎるから」
「無、無防備って・・・!」
「・・・俺は・・・司だから、諦めようとしたんだ」
 類の、普段とは違う強い視線にあたしは釘付けになる。
「司だから・・・司だったら牧野を任せられると思って・・・!そう思ったから、俺は2人を見守っていこうと思ったんだ。あんな男に取られるくらいなら・・・!」
 そう言うと、類はあたしの体を引き寄せ強く抱きしめた。
 類に抱き寄せられ、あたしの胸の鼓動が大きく波打つ。
「好きだ・・・・。もう、誰にも渡したくない・・・・」
 類の、甘く低い声が耳元で響き、あたしは息をするのも忘れ類の胸のぬくもりを感じていた。
「牧野・・・俺と、付き合って・・・」
「類・・・・・」
「・・・それとも、他に好きなやつ、いる・・・・?」
 不安げな類の声に、あたしは思わず大きな声を出した。
「い、いるわけないじゃない!」
 体を離し、類があたしの顔を覗き込むように伺う。
 ビー玉のようなきれいな瞳があたしを捕らえ、大きく胸が高鳴る。
「き、緊張するから、あんまり見ないで・・・・」
「緊張?何で?」
「な、何でって・・・そりゃあ・・・・類が目の前にいるから・・・」
「何で俺が目の前にいると緊張するの?」
 どんどん類の顔が近づき、あと数センチで唇が触れそうな距離にそのきれいな顔が迫り、あたしは思わず下を向いてしまった。
「牧野・・・こっち見て・・・・」
 耳元で囁かれ、余計に顔が上げられないあたし。
 どうしよう・・・すごくどきどきする・・・・・。
「牧野・・・・・?」
「・・・・・き・・・・なの・・・・・」
「え?」
「・・・・・好き、なの、あたしも・・・・類のこと・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 類は、何も言わない。
 あたしの胸はうるさいくらいに鳴り響き、類にも聞こえてしまうんじゃないかと思った。
「・・・・・もう1回、言って・・・・」
 漸く口を開いた類。
「も、もう1回って・・・無、無理だよ、もう、いっぱいいっぱい・・・」
 きっと、今あたしの顔は真っ赤だ。それがわかるほど顔が熱くて、余計に類の顔が見られない。
「ちゃんと、顔見て・・・じゃないと、信じられない・・・・。もしかしたら、聞き間違いかもって思うから」
 そう言いながら、類があたしのことを見つめているのが分かる。
 その腕はしっかりとあたしの肩に置かれ、あたしが何か言うまでは離してくれそうもなかった。

 あたしはそっと目を瞑り、小さく息を吸い込むと、思い切って顔を上げ、類の顔を見上げた。
 ビー玉のような瞳が、あたしを真っ直ぐに見つめている。
 あたしは覚悟を決め、類の瞳を見つめ返しながら、口を開いた。
「あたしは、類が好き。誰よりも・・・・好きなの」
 その言葉を言い終わらないうちに、あたしの体はまた類の腕に抱きしめられていた。
「牧野・・・・・!」
「類・・・・・」
「それ・・・・本心だよな・・・・あとで取り消そうとしたって、もう受け付けないよ」
「取り消したり、しないもん・・・本心だよ・・・」
「・・・信じて・・・いいんだよな・・・・」
「ん・・・・・信じて・・・・」
 類は少しだけ腕の力を緩めると、片手をあたしの頬に当て、そっと唇を重ねた。
 さっきよりも優しく、いたわるようなキスだった。
 何度も啄ばむように繰り返し、確かめるようにキスを繰り返す。
 そのうちに息が上がって立っていられなくなったあたしの腰を、崩れる前に類が支えてくれた。
 そのままあたし達は、おでこをこつんとくっつけ見つめあった。
「牧野、顔真っ赤」
 類がおかしそうにくすくすと笑う。
「何よ!しょうがないじゃない・・・めちゃくちゃ緊張したんだから」
「・・・・そう言う顔、他のやつに見せちゃダメだよ」
 そう言って、類は優しく笑った。
 その笑顔がとろけそうなほど優しくって・・・あたしはますます顔の熱が上がるのを感じていた。
「類・・・・・」
「ん・・・・?」
「大好き・・・」
 思わずあたしの口から零れたその言葉に、類は驚いたように目を見開いた。
 そして、次の瞬間にはまた抱きしめられていて、類の顔を見上げようとすると掌で目を隠された。
「??類?」
「見ちゃダメ」
「な、何で?」
「俺今、真っ赤な顔してる気がするから・・・」
「!!」
「・・・・・そういうの、反則・・・。うれしすぎる・・・・・」
 その声が、本当にうれしそうで・・・あたしの胸がまた大きく高鳴り始めた。
「明日・・・会える?」
「明日は、バイトが・・・」
「何時に終わる?迎えに行くから」
「え、いいよ、そんな・・・」
「ダメ」
 有無を言わせぬ口調に、思わず顔を上げる。
 そこには拗ねたような表情の類。
「俺が迎えに行くから。断るのはなしだよ」
「・・・って、あたしに選択権は・・・」
「ない」
 きっぱりと言い切られ、あたしは思わず絶句する。
 この人って、こんなに強引だったっけ・・・・・?

 今まで長い付き合いだと思っていたけれど・・・・まだまだ知らないことがありそうで・・・
 期待と不安に、どきどきが治まらないあたしだった・・・・・。



  

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