居酒屋のバイトが終わり、車で待っていた類の元へ行く。 「お待たせ」 「ん。おつかれ」 いつもと変わらない類の笑顔。 この笑顔を見ると、バイトの疲れも吹っ飛んでしまうようだ。 類の隣で、彼の空気に包まれる。 できればずっと、こうしていたいと思うくらい、安心する空間だ・・・・・。
「牧野」 「え?」 ふいに類に呼ばれ、あたしは我に返る。 「疲れてる?」 「少しね。でも大丈夫」 「・・・・これから、うちに来ない?」 類の言葉に、あたしは「え」と驚いてその顔を見る。 「これからって・・・・これから?」 あたしの間抜けな問いかけに、類はくすくすと笑い出す。 「そう言ってる」 「あ、あのでも、こんな時間に、迷惑じゃ・・・・」 「大丈夫。俺以外には家政婦しかいないし、この時間はもう休んでるから、遠慮しないでいいよ」 「で、でもあの・・・・・」 「牧野」 「はい」 「いやなの?」 「・・・・・・そんなはず、ない」 薄茶色のビー玉のような瞳でじっと見つめられたら、もう何も言えなくなる。 そういうこと、きっと類は分かっててやってるんだって思うのは考えすぎかな? 「じゃ、行こう」 そう言って満足そうに微笑むと、類はまた前を向き、運転することに集中した・・・・・。
「類って、こうと決めたら絶対曲げないよね」 類の部屋に通されて。 あたしは思ってたことを言ったら、類はくすりと笑った。 「それは牧野でしょ。あんたみたいに頑固な女、見たことないってみんな言ってるよ」 「ふーんだ。どうせ、かわいくないですよ」 ベッと舌を出すと、類は楽しそうに笑った。 子供のように無邪気な笑顔。 そういう笑顔、大好き。 「そんなこと言ってないよ。俺にとってはどんな牧野だってかわいい」 照れもせず、そんなことさらっと言ってくれるもんだから、あたしはとっさに何も言えなくなってしまう。 「・・・・・ずるいんだから」 「何が?」 そう言いながら類はあたしの手を引き、ベッドに座った。 軽く引っ張られ、あたしもその横に座る。 そのまま類があたしの顔を覗き込むから・・・・ 息がかかるほどの近い距離に、どきんと胸がなる。 「な、何?」 「・・・・・・・・・聞きたいことが、あるんだけど」 「え・・・・・」 何?と聞こうとして。 その前に、唇を塞がれる。 あたしの肩を引き寄せ、もう片方の手を頬にそえる。 それはすぐに深いキスに変わり、あたしの頭の中心がジンと熱くなる。 「・・・・・・っん・・・・・・・」 息苦しさに少し身を捩ると、ようやく類はあたしの唇を解放してくれた。 「・・・・・・・昨日、どうしてた?」 あたしの眼をじっと見つめながら、息のかかる距離で聞かれる。 「昨日・・・・って・・・・・」 「居酒屋のバイト、休んだでしょ?ファミレスのバイトの後、すぐに家に帰ったの?」 ドキン。 ―――類には、言うなよ 西門さんの顔が頭に浮かぶ。 「あ・・・当たり前・・・でしょ。何?急に・・・」 嘘をつく後ろめたさに胸苦しさを感じながらも、あたしはそう言った。 「・・・・・・・・本当に・・・・・?」 疑っているような類の目。 もしかして・・・・知ってる・・・・・? 「何でそんなこと聞くの?あたしが・・・・嘘ついてるって思うの?」 「・・・・・そうじゃないけど・・・・・」 あたしの言葉に、類はちょっと躊躇するような様子を見せたが・・・・・ 次の瞬間、あたしはベッドの上に押し倒されていた。
「類・・・・・?」 「牧野のことは、信じてるよ」 「じゃ、どうして・・・・・」 「・・・・・・・心配だから」 「何が・・・・?」 その問いには答えず、類はそのまま唇を重ねてきた。
冷たくて、気持ちのいいキス・・・・。
少し開いた隙間から、暖かい舌が浸入してきて、口内を徘徊する。
そのキスの心地よさにあたしの頭はポーっとしてきて、思考回路が麻痺してしまう・・・・・。
類の片手が、カットソーの上からあたしの胸に触れる。
体が勝手にピクリと反応してしまう。 それが恥ずかしくて身を捩ろうとするけど、類は許してくれない。
「牧野、教えて・・・・・」 「な・・・・に・・・・・」 耳元をくすぐる類の息遣いが、くすぐったい。 「どうして・・・総二郎があそこに毎日来てるって、言わなかったの?」 「ん・・・・・・別に・・・・・忘れてた、だけ・・・・・」 「忘れてた・・・・・?」 「・・・・・だって・・・・・類と会える時間、少ないから・・・・・たくさん話したいし・・・・類のこと、たくさん聞きたい、から・・・・・」
-rui- それは反則。 いきなり、こっちがうれしくなるようなこと言うから・・・・ 思わずぴたりと手を止める。 「類・・・・・?」 牧野のそういうところは、計算されているものじゃないから余計に始末が悪い。 こっちの懐のど真ん中にストレートに響いてくる。 「・・・・じゃ、他に言ってないことは・・・・?」 「他に・・・・・?」 俺は、愛撫の手を休めずに聞く。 牧野の体から徐々に力が抜け、唇からは甘い吐息が漏れ始める。 「・・・・・昨日・・・・居酒屋のバイトを休むって、総二郎に言った・・・・・?」 「う・・・・ん・・・・・・それが・・・?」 やっぱり・・・・・。 確証はなかったけど・・・・・ずっと小さなころから一緒だったんだ。 嘘をついているかどうかくらい、わかる。 「で・・・・・どこに行ったの・・・?2人で・・・・・」 その言葉に、牧野ははっとして起き上がろうとした。 「おっと。逃がさないよ」 俺は牧野の体を再びベッドに押し付けた。 ・・・・・嘘がつけない性格っていうのは、ときに罪だよな・・・・と思う。 「あの、類、それは・・・・・」 「総二郎に、口止めされた?」 「・・・・・!!」 驚きに目を見開く牧野。 全くわかりやすい・・・・・。 そんなところも愛しくはあるけれど。 「あの、みんなでね、食事をするはずだったの。でも、みんな忙しかったみたいで、集まらなくて・・・結局、あたしと西門さんだけで食事したんだけど・・・でも別に、やましいことは何もしてないよ?」 「・・・・・・・・」 みんな忙しかった、ね・・・・・。 総二郎の言葉をそのまんま信じちまう牧野にちょっと不満はあるが、やっぱりこの場合責めるべきは総二郎だろう。 「牧野・・・・・」 「なに?」 「今度から、そういうことがあったら、俺に連絡して」 「いいけど・・・・・」 少し不満そうな牧野。 「・・・・・俺、あんたと付き合ってから、性格悪くなったかも」 「何で・・・・・」 「あんたに近づくもの全て、遠ざけたくなる。総二郎もあきらも・・・・きっとあんたの弟にだって嫉妬するよ」 「進?」 「あんたに関わるもの全て、気になってしょうがないよ。こんなにヤキモチばかり妬いてたら、そのうち頭がおかしくなりそうだ」 「・・・・・・でも、あたしはうれしい」 そう言って、本当にうれしそうに笑うから。 俺はますますいかれてく。 どこまで夢中にさせるのか。 どこまでも落ちていくよ。 あんたと一緒にね・・・・・
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