翌日、ホテルに帰ったあたしを待っていたのは何もかもわかっちゃってるような顔で出迎えた桜子と、完全に2日酔いで昨日のことを全く覚えていない滋さんだった。 「花沢さん、優しくしてくれました?」 ニヤニヤしながら耳元で聞いてくる桜子。 「う、うるさい!」 そう言ってしっしっとやるけれど、耳まで真っ赤になってしまっているのが自分でもわかり、恥ずかしくって仕方ない。 『飛行機の時間までに合流すれば良いよ』 と言っていた類の言うことを聞いておけば良かったと思った。 朝帰りなんかしたら、みんなに心配かけちゃうと思って、早く帰ってきたのが間違い・・・。
きっと美作さんや西門さんにもからかわれるんだろうなーと覚悟していたんだけれど。 「それはどうですかね?どんな顔するか楽しみですけど」 と言ってまたにやりと笑う桜子。 首を傾げながらも、その後合流するためにロビーへ行くと・・・・・ 「よお、鉄のパンツ、ようやく脱げたな」 と、にやりと笑う西門さん。 「おめえら、帰ってこねえなら連絡くらい入れろよな」 と美作さんにはおでこをこつんとはじかれ。 それでおしまい。 ・・・・・・なんとなく・・・・いつもと違うような・・・・・? でも2人ともあたしより大人だから。 こんなことでいちいちからかったりしないのかな。 そんなことばかり気にして身構えてた自分が馬鹿らしくなって、その後はいつもの調子を取り戻して優紀たちとお土産を買いに行ったりして残りの時間を過ごした。 「N.Y.の土産なんて、なに買うんだよ」 なんて文句を言いながらも、西門さん達まであたし達に付き合ってくれて。 「何にも買わないのにぞろぞろついてきて・・・・やることないのかな」 とあたしが言うと、優紀がくすくす笑いながら 「西門さんたちにとっては、ここって渋谷とかと変わらない感覚なんだろうね。でも・・・・きっと心配なんだよ」 と言った。 「心配?何が?」 「つくしが」 「は?何であたし?それに西門さんと美作さんだよ?」 と言うと、優紀はまたくすくすと笑った。 「大変そうだなあ」 「何が??優紀ってば、何1人で結論出して納得してんのよ。あたしにはさっぱりわかんないんだけど!」 「わかんなくて良いよ。つくしはそのままで・・・・」 「はあ?もう・・・・・訳わかんない・・・・・」 その後あたしと優紀は家族へのお土産にお菓子なんかを買い、残った時間はみんなでお茶をして、その後空港へ向かったのだった・・・・。
あっという間に過ぎてしまったけれど。 なんだかこの3日の間にいろんなことがあった気がする。 道明寺と会って、類とのことを話して。 もう当分、道明寺と会うことはないんだろうな。 そう思うとやっぱり少し寂しくて・・・・。 でも、あいつとは友達だから。 きっと、また会えるよね・・・・・。
それから、類との初めての時間。 緊張したし、すっごく恥ずかしかったけど・・・・・ 後悔は、してない。 類はあの後も全然いつもと変わらなくて。 あたしばっかり青くなったり赤くなったりしてたのが、なんだかちょっと悔しいけど・・・・。 でも、あせったってしょうがないし。 あたしはあたし。 そう思うことにした・・・・・
-rui- ホテルに帰ると、既に2人は起きていて―――と言うか寝てない?―――不機嫌さを隠そうともしない目で睨まれた。 「やってくれたよな、類くんは」 総二郎が肩をすくめる。 「・・・マンションに行ってたのか?」 あきらに聞かれ、頷く。 「・・・・ったく・・・・・一言くらい言ってけよな」 「言ったら、邪魔したでしょ」 と俺が言うと、総二郎が大きな溜息をつく。 「そりゃ、邪魔くらいするっての。けど、結局は牧野が決める問題だからな。牧野が行くっつーんなら止めらんねーだろ」 「そういうこと。言っただろ?俺らは牧野を幸せにしたい。泣かせるようなことはしたくねえんだ。お前らを無理に引き裂くようなことはしねえよ」 「・・・・・・・・・・・・」 それを聞いて、すっかり安心できるなんてこと、あるわけない。 2人の目を見れば、まだ牧野のことを諦めてないってことくらいわかるし。 この2人に、隙なんか見せられるわけない・・・・・。
-tsukushi- 空港に着き、あたし達は搭乗までの時間をロビーで過ごしていた。 そのとき・・・・・・・・・・・・ 「おい!!」 聞き間違えようのない、よく通る大きな声が聞こえてきて、あたし達はびっくりして声の方を振り向く。 「ど、道明寺!?」 そう、そこには、あの道明寺が息を切らしながら額に汗を浮かべて立っていたのだった。 「はあ。何とか間に合ったな」 「司!!」 呆気にとられていたあたしたち。 いち早く行動に出たのは滋さん。 嬉しそうに道明寺に駆け寄り、その腕を取った。 「来てくれたのね!良かった・・・・せっかくここまで来たのに、一度も会えないで終わっちゃうのかと思ったよ!」 「悪かったな、滋」 道明寺が滋さんに笑顔を向ける。 「道明寺さん!わたしも会いたかったです!」 一歩で遅れて、桜子が滋さんの横に並ぶ。 「おう、久しぶりだな」 そう言って桜子にも笑いかけた後、道明寺はあたし達の方を見た。 「なんだよ、呆けてんじゃねえよ。せっかく見送りに来てやったのに」 「だ、だって・・・・そんなこと一言も言ってなかったじゃん」 「だよなー。驚かせやがって・・・時間、大丈夫なのかよ」 美作さんが、相変わらずの気使いを見せる。 「ああ、何とか無理やりねじ込んだんだ。またしばらくは会えねえし・・・。せっかくここまで来てくれたんだしよ。ダチの見送りぐれえしてえよ」 「司・・・・・」 さすがの類も驚いて、言葉がない様子だった。 道明寺は、類の傍まで行くと、真剣な目で類を見た。 「・・・・類。お前には、1つ言い忘れたことがあったんだ。たぶん、わかってるとは思うけどな・・・・・」 「・・・・何?」 「いつか・・・・きっと近い内にお前にも、苦しい選択を強いられるときが来る。それは俺たちジュニアの宿命だ」 静かだけど、重みのある道明寺の言葉に、あたしははっとして類を見る。 類は静かに道明寺を見つめていた。 「お前のことだから、大丈夫だろうとは思う。絶対牧野を離したりはしねえだろうってな。けど・・・・お前は、言葉が足りないところがあるから。自分ひとりで考えて、牧野に余計な心配かけるようなこと、するな。考えてることはちゃんと牧野に言え。どんなに好き合ってても、言葉にしなきゃ伝わらないことがあんだ」 「司・・・・」 「道明寺・・・・・」 胸が、痛かった。 道明寺の瞳に、切なさが滲んでいる。 「俺は・・・・もう牧野が悲しむ姿を見たくねえ。散々俺が泣かしといて言うセリフじゃねえけどよ。だけど・・・いつものわがままと思って聞いてくれ。牧野を悲しませるな。必ず・・・幸せにしてくれ」 道明寺の言葉に、類は優しく微笑んで頷いた。 「・・・わかってるよ。必ず、幸せにするから・・・・」 その類の言葉に、道明寺はほっとしたように微笑むと、今度はあたしの方へ向かった。 「牧野」 「道明寺・・・・ありがとう」 「礼なんか言うな。俺は今まで散々お前を振り回してきたんだ。いつか・・・罪滅ぼししなきゃいけないと思ってた。こんくらいのことじゃ全然たんねえくらいだ」 「罪滅ぼしって・・・・あたし、道明寺のこと恨んだりしてないよ?」 「わかってる。けど、俺の気がすまねえんだ。それに・・・・」 「それに?」 あたしが先を促すと、道明寺はちょっと笑って首を振った。 「いや、何でもねえ。・・・・・いろいろ言いたいことはあるんだけどよ。きっと今言ってもお前にはわかんねえだろうし」 「な、何よそれ!?」 「何つーか・・・まあ気をつけろってことだ。自分の周りの人間にも、な」 そう言って、道明寺はちらりとあたしの背後に視線を移した。 あたしの後ろにいるのは・・・美作さんと、西門さん? 不思議に思ってあたしがその視線を追おうとすると、そんなあたしの頭を道明寺の大きな手が捉え、ぐいっと正面を向けられた。 すぐ間近に道明寺の笑顔。 わかってたことだけど・・・・・やっぱりこいつ、とんでもない美形だわ。なんて思って一瞬ドキッとしてしまった。 「見惚れんなよ」 「な!何言って―――!」 カッとなって反論しようとした瞬間、道明寺の顔が近づき、唇に暖かい感触を感じる。 それはほんの一瞬の出来事―――
今のは・・・・何・・・・・?
状況が飲み込めず固まってしまったあたしの肩が、すごい力で引っ張られる。 「司!何してんだよ!」 後ろからがっちりあたしを抱きしめたのは、珍しく焦った様子の類だった。 道明寺はにやりと笑い、その場から一歩後ずさると、あたしに向かって言った。 「牧野、類に飽きたらいつでも俺が引き取ってやるから!遠慮なく言って来いよ!」 「はあ!?」 あたしが何か言うよりも先に。 道明寺は高らかに笑いながら、走っていってしまった・・・・・。 道明寺が走って行く先に。あの、秘所の男性の姿があった。 なんだか、あたしが知っている道明寺の姿ではないような気がした。 秘書とともに空港を悠然と歩くその姿は、もう以前の「道明寺」ではなくなっていた・・・・。
なんて、ちょっとセンチメンタルな気分に浸っていると、周りから殺気にも似たオーラを感じ、背中を悪寒が走る。 「・・・・・牧野」 後ろからあたしを抱きしめていた類の、低い声。 怖くて振り向けないけど・・・・絶対怒ってる! 「あ、あの、類?い、今のは・・・不可抗力だよ?」 「・・・・にしては、あいつのアップに見惚れてなかった?つくしちゃん、案外美形に弱いよな〜」 そう言いながら、西門さんがあたしに顔を近づけてくる。 西門さんも美形だけど。っつーか、何で西門さんまで怒ってるの!? 「近寄んな、総二郎」 類が西門さんの頭をぐいっと押しやる。 「それに、キスも嫌がってる感じじゃなかったよな〜」 西門さんとは反対側から、美作さんが近づく。 半目になって口の端をちょっと上げてるその表情は、笑っているように見えるのに怖いんですけど!? 「あきら、来んなよ!」 その美作さんの顔も容赦なくぐいっと押しやり、類があたしを抱きこむ。 「ちょ、ちょっと類!」 「・・・・・・・・浮気もの」 「なな、何で、浮気・・・・!?」 反論しようとするその前に。 あたしの唇は、類の唇によって塞がれていた。 息着く間もないくらい・・・・・眩暈を感じるほどの激しいキスを降らせながら、類はあたしを強く抱きしめた。 周りに人がいるのに。 そんなことも忘れてしまうくらい濃厚なキスに、時間まで忘れそうになり・・・・
漸くキスから開放されたときには周りに誰もいなくなっていて。 あたしは慌てて・・・・類は面倒くさそうに、搭乗ゲートへと向かったのだった・・・・・。
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