「ここ・・・・・」 タクシーで着いた先は、あの、類のマンションだった。 「わかった?」 類がにっと笑って言う。 「うん!うわあ、懐かしい」 いつまでも外から眺めて感激しているあたしの腕を取り、類は中に入っていった。
部屋の中も、あのころと変わらない。 懐かしさと、あのころの切ない思い出があたしの胸によみがえってくるみたいだった。 「・・・牧野?」 「ん?」 「・・・大丈夫?」 あたしの気持ちを察してか、類が心配そうにあたしを見つめる。 「もちろん。あのころとは違う・・・・。今、こうして類とまたここへ来ることができて、うれしい。類、ありがとう」 あたしの言葉に安心したように、類が優しく微笑んでくれる。 「あんたのありがとうは聞き飽きた・・・。良かった。牧野が、元気で・・・・・」 そう言って、ふわりとあたしを抱きしめてくれる類。 空気のようにあたしを包む優しいぬくもりに、胸があったかくなっていくような気がした。
しばらくそうやって抱き合っていたが・・・・・ 類が、あたしの耳元に顔を近づけると、そっと囁いた。 「約束、覚えてる?」 耳にかかる吐息がくすぐったくて、身を捩りながら類のほうを振り返る。 「や、約束・・・って?」 「・・・・・やっぱり忘れてる。けじめをつけたら・・・って言ったよね」 類のすねたような口調に・・・・ あたしの顔からサーッと血の気が引いた。
―――そうだ。あたし・・・・・
道明寺にちゃんと話をしなくちゃって、そればっかり気になっちゃって・・・ 終わってからも、漸くこれでけじめがつけられたって、ほっとしちゃって・・・・ すっかり、忘れてた・・・・・
「ずっと2人きりになりたかった」 「だって・・・・クラブに行くって言ったのは類のほうだよ」 「そりゃ、邪魔されることがわかってたから」 そう言って類は肩をすくめた。 「邪魔?」 「そう」 類は頷いたけど・・・あたしは訳がわからない。 「そんなこと、もうどうでもいいよ。今、やっと2人きりになれたんだから・・・・」 そう言って類はあたしの腰を引き寄せ、そっとキスをした。 キスはすぐに深いものに変わり、腰に回った腕に力がこもった。 息苦しさに、ほんの少し開いてしまった唇の隙間から、類の熱い舌が滑り込んでくる。 その熱さにあたしの体がびくりと震え、思わず逃げ出しそうになる。 一度唇が離れると、類があたしを見つめた。 その視線の熱さに、あたしは言葉を発することが出来なかった。
「牧野・・・・俺が怖い?」 類の問いに、あたしはふるふると首を振った。 類が怖いわけじゃない。 だけど・・・・ 「無理やりするのは・・・いやだと思ってる。だけど、俺も男だし。こうして牧野と2人でいたら・・・・我慢できる自信はない」 「類・・・・・」 「だから・・・・・もしいやだったら、タクシーを呼ぶからホテルに帰って」 類の目は真剣だ。 本気で言ってるんだ・・・・。
「あたし・・・・・帰らないよ」 「・・・・・いいの?後でダメって言われても・・・・・もう受け付けないよ?」 類の言葉に、あたしは頷いた。 「あたしは、類が好きだから。だから・・・帰らない・・・・」 「牧野・・・・・」 類はうれしそうに微笑んで、あたしを優しく抱きしめてくれた。
大丈夫・・・・・。 類が好きだから。 もうあたし達を止めるものは、何もないんだから・・・・・
あたしはそっと目を瞑り、そのまま腕を類の背中に回した・・・・・・・・。
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-rui- 「なんか、やっぱり恥ずかしい・・・」 ベッドの中、2人でシーツに包まって・・・。 牧野の髪を撫でていると、牧野がシーツを顔の半分まで引っ張りあげて、上目遣いに俺を見る。 その顔はまだほんのり紅潮していて、目も潤んでいて艶っぽい。 そんな表情に俺が煽られていることなんて、きっとまた気付いてない。 「そればっかり・・・。そんな顔してると、またしたくなる」 「だ、ダメ!」 途端に真っ赤になる牧野。 「そんなに速攻拒否しなくても・・・・俺、ショック」 はーっと大きくため息をつき、顔を伏せる俺に、牧野が慌てる。 「あ、ご、ごめん、そういう意味じゃなくって、今日はやっぱりその、初めてだったし!」 その必死さがおかしくって、思わず笑ってしまう・・・と、気付いた牧野がぷくっと膨れる。 「もう!またからかって・・・」 「ごめん。うれしいんだ。牧野とこうなれたこと・・・・・。牧野のことだから、何年も待たされるかもって、ちょっと覚悟してたから」 「もう・・・・・。どういう女だと思ってんの、あたしのこと。あたしだって・・・・・普通の女だもん。類のこと、好きだから・・・・」 だんだんモゴモゴと声が小さくなる牧野。 さっきまでお互い一糸まとわぬ姿で抱き合ってたっていうのに、今は恥ずかしくって仕方がないって顔してシーツをかぶってる。 「牧野・・・・・」 俺はだんだんシーツに隠れてく牧野の顔が見たくって、そのシーツをそっとめくってみる。 真っ赤に染まった頬。切なげに俺を見上げる瞳が揺らめいて、少女と女の間を行ったりきたりしているかのような微妙な色香が漂っていた。 ここに来るまでは、感じなかったもの・・・。 俺に抱かれて変わった。 それがうれしくて・・・・ 俺は牧野の頬を撫で、キスを落とした。 舌を絡め、互いの熱を分かち合うような深いキス。 夢中でキスを繰り返すうちに、また熱を持ってくる体。
「・・・・・・やっぱ、ダメかも」 「え?」 「全然たんない・・・・もっと、もっと・・・・・牧野を感じたい・・・・・」 「類・・・・・」 牧野が困ったように眉をひそめる。 「あたし、いっぱいいっぱいで・・・・・・もう・・・・・」 「大丈夫・・・・ちゃんと優しくするから・・・・」 「だって、さっきだってそう言って、結局・・・・」 「それは牧野が悪い」 「な、何であたし?」 「牧野が、かわいすぎるから・・・・我慢できなくなるんだ。俺のこと、煽るから悪い」 「あ、煽ってなんか・・・」 まだ何か言おうとする牧野の唇を、キスで塞ぐ。 「・・・・・・・・・・・・んっ・・・・・・・」 「・・・・・・・・もう、しゃべんないで・・・・・キス、出来ないから・・・・・」 それから先は、ひたすらキスを繰り返し、牧野の体からは次第に力が抜け・・・・・
それからまた、俺は牧野の体に溺れて行った・・・・・。
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