地下にあるそのクラブはかなりの広さがあり、セレブ御用達らしくN.Y.のクラブにしては上品なつくりになっていた。 滋さんは既にかなりの量のお酒を飲み、上機嫌だ。 その滋さんに捕まり、桜子は少し閉口気味。 優紀とその彼氏は少し離れたテーブルで顔をくっつけるように楽しそうに談笑していて、2人の世界を作っている。 そして西門さんと美作さんは、きっとすぐに女性に囲まれちゃったりするんだろうなあと思っていたら、なぜかあたしと類と同じテーブルに着き、しばらくはあたし達とずっとしゃべっていた。 それでも彼らはやっぱりかなり目立っていたようで、何人かの女性に声をかけられ、引っ張られるようにして連れて行かれたかと思うと、あっという間に囲まれてしまっていた。 もちろん類もかなりの注目を受けているのだが、類がしっかりとあたしを抱き込むようにしてくっついているので声はかけてこない。 「はあ、すごいね・・・こんなところでもF4健在だ」 「・・・・・・うざ」 面倒くさそうに呟く類。 「でもなんか意外。西門さんと美作さんも面倒くさそうだね。女の人に囲まれて喜ぶのかと思ったのに」 「・・・・・・・・気になる?」 「へ?や、別に・・・・」 類の言葉に、思わず類のほうを見上げて答える。 何でそんなこと聞くんだろう? なんか、今日の類はちょっと変。 なんだかずっと不機嫌そうにしてるし・・・・。あたし、何かしたかな・・・・。 「・・・・類?今日、道明寺のところで何があったか・・・・聞いちゃダメ?」 「ダメ」 やっぱり。 類は意外と頑固だから。こうなると絶対しゃべらない。 でも気になるよ。あたしだけ外に出されて、4人で何を話したんだろう? 「・・・・・たいしたことじゃないよ。牧野は知らなくていいんだ。俺たち4人の問題だから」 「ん・・・・。わかった。じゃあもう聞かない。でも・・・」 「でも?」 「類、ずっとそんな顔してる。何か怒ってるみたいで・・・・・」 あたしの言葉に類は少しだけあたしの体を離し、あたしの顔を覗き込んでくる。 「・・・・・俺、そんな顔してる?」 「うん・・・・・」 「ごめん・・・・そんなつもりなかったんだけど・・・でもたぶんそれ、牧野のせいだよ」 「ええ!?何であたし?」 類の言葉に、あたしは驚いて思わず大きな声を上げてしまう。 「別に、牧野が悪いって言ってるんじゃなくて・・・牧野が原因だってこと」 「意味わかんないよ。どういうこと?」 訳わかんなくて首を傾げると、類はくすりと笑い、あたしの耳元に顔を寄せて囁くように言った。 「・・・2人きりに、なりたい」 低く囁かれたその声に、どきんと胸がなる。 「え・・・・・」 「昨日の夜からずっと、俺牧野欠乏症」 「って・・・・・ずっと一緒にいるじゃない。それに昨日の夜からって、まだ1日しか・・・・」 「2人きりになりたかったんだ」 そう言って類は、あたしに顔を近づけてくる。あと数センチで、唇が触れそうなほど・・・・・ 「る、類、待ってよ、こんなとこで・・・」 「じゃ、出よう」 「は?」 あたしがまた驚いて目を見開くと、類はにっこりと微笑み、 「2人で抜け出そう」 と言って、立ち上がったのだった・・・・・
-soujirou- 「おい、類と牧野は?」 まとわり着く女を振り払いながら席に戻ると、類と牧野がいなくなっていた。 隣のテーブルには酔いつぶれた滋と、その滋に付き合って傍でカクテルを飲む桜子。 「出てったみたいですよ、さっき。あたしもトイレに立ってたから気づきませんでしたけど・・・」 桜子が肩を竦めて答える。 ―――やられた! ちっと舌打ちすると、後ろからあきらも来た。 「やっぱやられたか」 「・・・・・・・聞きたいんですけど」 桜子が口を開く。 「どうして急に、みんなで道明寺さんに会いに来ようと思ったんです?」 「言っただろ?牧野と司を会わせる為だ」 「それだけなら、先輩と・・・まあ花沢さんも来ると思いますけど、その2人だけで良いじゃないですか。西門さん達が道明寺さんと久しぶりに話したかったっていう事を無理やり納得したとして、あたし達も一緒に連れてきたのはなぜですか?」 「・・・・お前、相変わらずそういうことには鼻が利くな」 「お褒めいただいて光栄ですわ」 にっこりと、その完璧な顔で微笑む。 「・・・先輩抜きで、4人で何を話してたんですか?4人で話をするために・・・その間、先輩と一緒にいる人間が必要だったから、私達も呼ばれたんでしょう?」 俺とあきらは顔を見合わせ、互いに肩を竦めた。 「ま、そういうことだ」 俺が頷くと、桜子はまた続けた。 「で?道明寺さんに言ったんですか?2人とも牧野先輩が好きだって」 「・・・・・・桜子、あのな」 「言っときますけど、あたしが気付いたのはF4が高校を卒業するとき。あのプロムでF4全員が牧野先輩をパートナーに選んだ。1人だけを選べないとか、いろんな口実作ってましたけど、どう見ても全員、牧野先輩に夢中って感じでしたよ」 「・・・・そう思ったのはお前だけだよ。そのころは俺もあきらも自覚なかったんだから」 「案外鈍いんですね」 桜子の遠慮のない言い方に、俺もあきらも苦笑するしかなかった。 「で、道明寺さんはなんて?」 「・・・あいつも気付いてたよ。いつからかはわからんと言ってたけど。あいつは・・・まだ牧野が好きだから。牧野との距離が変わらなければ、牧野とくっつくのは俺ら3人のうち誰でも構わないってさ」 俺が答えると、桜子はうんうんと頷いた。 「なるほど。道明寺さんらしい・・・。先輩の気持ちを優先して一度は引いたけど、まだ諦めたわけじゃないってことですよね。先輩との距離が変わらなければまだチャンスはある。そう思ってるんですね」 「そこまで考えてるのか?あいつ」 あきらの言葉に、桜子はにやりと笑った。 「当たり前じゃないですか。道明寺さんは牧野先輩のことにかけちゃものすごい野生の勘が働くんですから」 「はっ、そうだったな。―――そんなやつが、何で牧野を繋ぎ止めておけなかったんだか・・・」 「それは・・・・きっと道明寺さんが優しいから」 「ああ、それは言えるな。なんだかんだ言ってあいつは牧野に甘いんだよな。それでも・・・何が何でも繋ぎ止めておきたいっていう気持ちが抑えられるほど仕事も大事になってきたってことは・・・大人になったってことなんだろうな」 あきらがどことなく寂しそうに呟く。 仕事が大事。 それは社会人になれば当然のこと。ましてや司のように背負っているものが大きければ大きいほど・・・。惚れた女と仕事を天秤にかけるわけには行かない。どっちが大事か、なんて・・・そういう問題じゃないんだよな・・・。 だけどその問題は遅かれ早かれ俺達にも降りかかってくる問題なんだ。 そのとき俺達は・・・類は・・・牧野をちゃんとつなぎ止めておくことが出来るのか・・・? 類はきっと牧野を手放したりはしないだろう。けど。「花沢」がどう出るか。それは類にも予想がつかないもんなんじゃないだろうか・・・・。
「しかしあいつら、どこに行きやがったんだ」 気分を替える様に俺が声を上げると、桜子が少し考えるように首を傾げ。 「・・・今日はあの2人、帰ってこないかもしれませんね・・・」 と言ったので、俺とあきらはほぼ同時に「あのやろォ・・・・」と頭を抱えたのだった・・・・。
|