***ブランコ vol.24***



 「つくし、これは?メイドさん♪」
「いや、滋さん・・・・」
「じゃ、これは?シンデレラ♪」
「あの、だから・・・」
「これならどうよ!赤頭巾ちゃん!」
「・・・・・・・・・普通のでいいから!」
 
 あーだこーだともめながらも、あたしが借りたのは結局黒いシフォンのミニワンピースに、淡いピンクのストール。そして黒いエナメルのパンプスを桜子から借りて出来上がり。
「え〜、なんか地味じゃな〜い?」
 十分だっつーの・・・・・。


 -rui-
 俺たちも一応着替えを終えると、ホテルのロビーで牧野たちが出てくるのを待っていた。
 トーマスは「セレブが行くようなとこにはいけない」と言って帰っていった。
 そこへ・・・・・
「ねえ、ティアラつけようよー、あたしとお揃い」
「いやですってば!」
「滋さん、仮装大会じゃないんですから・・・」
 賑やかにエレベーターから出てきた牧野たち・・・・。

 俺は、黒いミニワンピース姿の牧野に目を奪われた。
 シンプルなのに艶やかで。ノースリーブの肩にかかる薄いストール越しの白い肌が妙に艶っぽく俺たちの視線を釘付けにした。
 俺は牧野の傍まで行くと、横に立って腕を組むよう促した。
 少し照れながら、それでもそっと腕を絡ませて来る牧野。
 あきらと総二郎の視線を感じたが、あえて気付かない振りをした。
「きれいだね」
「あ、ありがと・・・・・。なんか、照れくさいかも」
 えへへと頬を染めながら笑う牧野がすごくかわいい。
「堂々としてれば良いよ。すごく似合ってる。みんな牧野を見てるよ」
「まっさか。類たちを見てるんだよ。こんな麗しい男が3人も揃ってたら、目立ってしょうがない」
 ホテルのロビーには、いつの間にか俺たちを囲んでギャラリーが集まっていた。
 その間を通って、ホテルを出て待たせていたリモに乗り込み2組に分かれて予約していたレストランへ向かう。
 俺たちと一緒に乗ってきたのは牧野の友達とその彼氏だ。
「優紀のワンピース、かわいいね。そんなの持ってきてたんだ」
「うん。桜子さんがね、行く前に電話くれて。たぶんこういうことになるから、1枚それっぽい服持ってきたほうが良いって」
 ベージュのシンプルなワンピースに、胸元にはサーモンピンクのコサージュ。
 派手さはないけれど、彼女の雰囲気によくあっていた。そしてグレーのシンプルなスーツに身を包んだその彼も、なかなかどうして品があって様になっていた。小さな会社を経営している家の長男だと言っていたから、それなりの教養もあるんだろうと、総二郎が言っていたことを思い出した。
「あたしは桜子からなんにも聞いてなかったよ。あいつ、こうなること知ってて楽しんでたんだ」
 そう言ってぷくっと頬を膨らませる牧野の顔がおもしろくて、思わず噴出す。
「もう、類まで・・・・。みんなしてあたしで遊ぶんだから」
「おもしろいからだよ。牧野がいると、いつもおもしろい。みんなが笑顔になるんだよ」
「そうそう。つくしがいるだけで、その場が明るくなるみたい。昔からそうだったよね」
「褒められてるのかなんだかわかんないよ」
 ふてくされる牧野を見て、友達の彼氏まで楽しそうに笑ってる。
 それに気付いた牧野が少し恥ずかしそうに頬を染めて・・・
 別に深い意味はなく、ただ照れてるだけなんだってことはわかってる。
 だけど、なんかおもしろくなくって。
 牧野が他の男にそんな顔を向けるのが気に入らなくて。
 気付いたら、牧野の肩を引き寄せ、そのまま唇を奪っていた。
「!!・・・・・っ」
 驚いて目を見開く牧野。
 そのまま俺は深く口付け・・・・・
 漸く離れたときには牧野の顔は真っ赤になっていて、瞳は潤んでいた。
「・・・・はあっ・・・・・類!」
 潤んだ瞳のまま、上目遣いで睨んでくる牧野。
 そんな顔したって、かわいいだけなんだけど。
 向側のシートでは呆気に取られ、顔を赤くする2人・・・。
「よそ見しちゃ、だめだよ」
 至近距離まで顔を近づけて耳元で囁く俺に、牧野はその体をピクリと震わせ、
「し、してない」
 と首を振った。
「てか、何のこと!?」
 その問いには答えず、俺はただ微笑んで見せた。
 超鈍感なのは知ってる。
 でも、知らずに男を挑発するような態度は、やめてもらわないとね・・・・

 
 -tsukushi-
 「なんかお前、疲れてねえ?」
 レストランに着き西門さんたちと合流すると、あたしの顔をみて西門さんが言った。
「・・・なんでもない・・・」
 説明しようがない。
「ふーん・・・?ま、いいや。ここ、滋のお勧めだってさ。うまいもんでも食って機嫌直せよ」
 そう言って笑い、あたしの頭に掌を乗せた。
 目の前には、いかにも高級そうなレストラン。
「なんか高そう・・・」
「お前な、すぐそうやって金のこと気にすんのやめろ」
「そんなこと言ったって・・・こんなところで食事できる経済状態じゃないもん」
「だから、今日はここに来たんだろ」
「え?どういうこと?」
「今日は司の奢り。ここなら司の顔が利くんだ。司が、ゆっくり時間取れなかったお前達への侘び・・・・ってことにしといてくれってさ」
「道明寺が・・・・・」
「あいつも、ここに来たかっただろうな」
 西門さんにそう言われ・・・・
 レストランに入っていくメンバーを見ながら、あたしには一瞬、その中に道明寺の姿が見えたような気がした・・・・。
「牧野」
 いつの間にか類が隣に来て、あたしの肩を抱いていた。
「類」
「入ろう」
 そう言ってにっこりと笑い・・・反対側にいた西門さんにちらりと視線を向けた。
「・・・・・そう睨むなって。まだ何もしてねえだろ」
 西門さんが困ったように言うのを、あたしは不思議に思って首を傾げる。
「何のこと?類?」
「・・・なんでもないよ。ほら、もうみんな入って行ってる」
 そう言って促され、あたしたち3人もレストランに入った。
 広くて開放的なレストラン。
 中にいるのはみんな高級そうな服に身を包んだ人たちばかりで・・・・
 ―――あたし、やっぱり場違いだわ・・・
 なんて思ったが、今更引き返すわけにも行かず、案内された席に着く。
 全員が席に付くと、やってきたウェイターに滋さんが流暢な英語で何か告げるとすぐにウェイターは下がり、程なくして次々と料理が運ばれてきた。
「すごい・・・・こんなの、食べたことないかも」
 目の前の料理に目を丸くする優紀。
 あたしも、この人たちと食事するのは初めてじゃないけど・・・・
 何度見ても慣れない。

 「あたしも、司に会いたかったなあ」
 食事を始めると、滋さんがちょっと不服そうに言った。
「わたしも!どうして会わせてくれなかったんです?」
 桜子もそう言って頬を膨らませた。
「バーカ。お前らが一緒にいたら話したいことも話せないっつーの。ただでさえあいつは忙しくって少ししか時間が取れなかったんだ。貴重な時間無駄にしたくねえだろ」
 西門さんの言葉にも、滋さんはさらに不満そうな顔をする。
「だからって、仲間外れはないじゃん。久しぶりに会えると思ったのに・・・」
 一瞬、切なそうな表情をする滋さん。
 やっぱりまだ、道明寺のことを・・・・
 そう思うと、あたしも胸が痛んだ。
「ごめん、滋さん・・・」
「やだ、何でつくしが謝るのよ!つくしはちゃんと話できたんでしょう?良かったじゃん!今回の目的はそれだったんだから、いいんだって。あたしは・・・・また、1人でもこれるし」
「あ、1人でなんてずるいですよー、そのときはあたしにも声かけてくださいね!」
 すかさず桜子が口を挟む。
 それを見て、あたしはちょっと苦笑いする。
 この2人がタッグを組んだらそれこそ最強・・・。道明寺も追い返せないくらいのパワー、持ってそうだよ。

 料理の味はさすが、申し分なく、あたし達は満腹になるまで堪能した。
「さて、そろそろ行くか」
 そう言って先に立ち上がったのは西門さんだ。
「これから行くクラブって、どこにあるんです?」
 桜子がナプキンで口元を押さえながら聞いている。
「ん?あそこ」
 そう言って美作さんが指差したのは、このレストランの目の前。
 通りを1本隔てたすぐそこだったのだ・・・・・。






  
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