「つくし、これは?メイドさん♪」 「いや、滋さん・・・・」 「じゃ、これは?シンデレラ♪」 「あの、だから・・・」 「これならどうよ!赤頭巾ちゃん!」 「・・・・・・・・・普通のでいいから!」 あーだこーだともめながらも、あたしが借りたのは結局黒いシフォンのミニワンピースに、淡いピンクのストール。そして黒いエナメルのパンプスを桜子から借りて出来上がり。 「え〜、なんか地味じゃな〜い?」 十分だっつーの・・・・・。
-rui- 俺たちも一応着替えを終えると、ホテルのロビーで牧野たちが出てくるのを待っていた。 トーマスは「セレブが行くようなとこにはいけない」と言って帰っていった。 そこへ・・・・・ 「ねえ、ティアラつけようよー、あたしとお揃い」 「いやですってば!」 「滋さん、仮装大会じゃないんですから・・・」 賑やかにエレベーターから出てきた牧野たち・・・・。
俺は、黒いミニワンピース姿の牧野に目を奪われた。 シンプルなのに艶やかで。ノースリーブの肩にかかる薄いストール越しの白い肌が妙に艶っぽく俺たちの視線を釘付けにした。 俺は牧野の傍まで行くと、横に立って腕を組むよう促した。 少し照れながら、それでもそっと腕を絡ませて来る牧野。 あきらと総二郎の視線を感じたが、あえて気付かない振りをした。 「きれいだね」 「あ、ありがと・・・・・。なんか、照れくさいかも」 えへへと頬を染めながら笑う牧野がすごくかわいい。 「堂々としてれば良いよ。すごく似合ってる。みんな牧野を見てるよ」 「まっさか。類たちを見てるんだよ。こんな麗しい男が3人も揃ってたら、目立ってしょうがない」 ホテルのロビーには、いつの間にか俺たちを囲んでギャラリーが集まっていた。 その間を通って、ホテルを出て待たせていたリモに乗り込み2組に分かれて予約していたレストランへ向かう。 俺たちと一緒に乗ってきたのは牧野の友達とその彼氏だ。 「優紀のワンピース、かわいいね。そんなの持ってきてたんだ」 「うん。桜子さんがね、行く前に電話くれて。たぶんこういうことになるから、1枚それっぽい服持ってきたほうが良いって」 ベージュのシンプルなワンピースに、胸元にはサーモンピンクのコサージュ。 派手さはないけれど、彼女の雰囲気によくあっていた。そしてグレーのシンプルなスーツに身を包んだその彼も、なかなかどうして品があって様になっていた。小さな会社を経営している家の長男だと言っていたから、それなりの教養もあるんだろうと、総二郎が言っていたことを思い出した。 「あたしは桜子からなんにも聞いてなかったよ。あいつ、こうなること知ってて楽しんでたんだ」 そう言ってぷくっと頬を膨らませる牧野の顔がおもしろくて、思わず噴出す。 「もう、類まで・・・・。みんなしてあたしで遊ぶんだから」 「おもしろいからだよ。牧野がいると、いつもおもしろい。みんなが笑顔になるんだよ」 「そうそう。つくしがいるだけで、その場が明るくなるみたい。昔からそうだったよね」 「褒められてるのかなんだかわかんないよ」 ふてくされる牧野を見て、友達の彼氏まで楽しそうに笑ってる。 それに気付いた牧野が少し恥ずかしそうに頬を染めて・・・ 別に深い意味はなく、ただ照れてるだけなんだってことはわかってる。 だけど、なんかおもしろくなくって。 牧野が他の男にそんな顔を向けるのが気に入らなくて。 気付いたら、牧野の肩を引き寄せ、そのまま唇を奪っていた。 「!!・・・・・っ」 驚いて目を見開く牧野。 そのまま俺は深く口付け・・・・・ 漸く離れたときには牧野の顔は真っ赤になっていて、瞳は潤んでいた。 「・・・・はあっ・・・・・類!」 潤んだ瞳のまま、上目遣いで睨んでくる牧野。 そんな顔したって、かわいいだけなんだけど。 向側のシートでは呆気に取られ、顔を赤くする2人・・・。 「よそ見しちゃ、だめだよ」 至近距離まで顔を近づけて耳元で囁く俺に、牧野はその体をピクリと震わせ、 「し、してない」 と首を振った。 「てか、何のこと!?」 その問いには答えず、俺はただ微笑んで見せた。 超鈍感なのは知ってる。 でも、知らずに男を挑発するような態度は、やめてもらわないとね・・・・
-tsukushi- 「なんかお前、疲れてねえ?」 レストランに着き西門さんたちと合流すると、あたしの顔をみて西門さんが言った。 「・・・なんでもない・・・」 説明しようがない。 「ふーん・・・?ま、いいや。ここ、滋のお勧めだってさ。うまいもんでも食って機嫌直せよ」 そう言って笑い、あたしの頭に掌を乗せた。 目の前には、いかにも高級そうなレストラン。 「なんか高そう・・・」 「お前な、すぐそうやって金のこと気にすんのやめろ」 「そんなこと言ったって・・・こんなところで食事できる経済状態じゃないもん」 「だから、今日はここに来たんだろ」 「え?どういうこと?」 「今日は司の奢り。ここなら司の顔が利くんだ。司が、ゆっくり時間取れなかったお前達への侘び・・・・ってことにしといてくれってさ」 「道明寺が・・・・・」 「あいつも、ここに来たかっただろうな」 西門さんにそう言われ・・・・ レストランに入っていくメンバーを見ながら、あたしには一瞬、その中に道明寺の姿が見えたような気がした・・・・。 「牧野」 いつの間にか類が隣に来て、あたしの肩を抱いていた。 「類」 「入ろう」 そう言ってにっこりと笑い・・・反対側にいた西門さんにちらりと視線を向けた。 「・・・・・そう睨むなって。まだ何もしてねえだろ」 西門さんが困ったように言うのを、あたしは不思議に思って首を傾げる。 「何のこと?類?」 「・・・なんでもないよ。ほら、もうみんな入って行ってる」 そう言って促され、あたしたち3人もレストランに入った。 広くて開放的なレストラン。 中にいるのはみんな高級そうな服に身を包んだ人たちばかりで・・・・ ―――あたし、やっぱり場違いだわ・・・ なんて思ったが、今更引き返すわけにも行かず、案内された席に着く。 全員が席に付くと、やってきたウェイターに滋さんが流暢な英語で何か告げるとすぐにウェイターは下がり、程なくして次々と料理が運ばれてきた。 「すごい・・・・こんなの、食べたことないかも」 目の前の料理に目を丸くする優紀。 あたしも、この人たちと食事するのは初めてじゃないけど・・・・ 何度見ても慣れない。
「あたしも、司に会いたかったなあ」 食事を始めると、滋さんがちょっと不服そうに言った。 「わたしも!どうして会わせてくれなかったんです?」 桜子もそう言って頬を膨らませた。 「バーカ。お前らが一緒にいたら話したいことも話せないっつーの。ただでさえあいつは忙しくって少ししか時間が取れなかったんだ。貴重な時間無駄にしたくねえだろ」 西門さんの言葉にも、滋さんはさらに不満そうな顔をする。 「だからって、仲間外れはないじゃん。久しぶりに会えると思ったのに・・・」 一瞬、切なそうな表情をする滋さん。 やっぱりまだ、道明寺のことを・・・・ そう思うと、あたしも胸が痛んだ。 「ごめん、滋さん・・・」 「やだ、何でつくしが謝るのよ!つくしはちゃんと話できたんでしょう?良かったじゃん!今回の目的はそれだったんだから、いいんだって。あたしは・・・・また、1人でもこれるし」 「あ、1人でなんてずるいですよー、そのときはあたしにも声かけてくださいね!」 すかさず桜子が口を挟む。 それを見て、あたしはちょっと苦笑いする。 この2人がタッグを組んだらそれこそ最強・・・。道明寺も追い返せないくらいのパワー、持ってそうだよ。
料理の味はさすが、申し分なく、あたし達は満腹になるまで堪能した。 「さて、そろそろ行くか」 そう言って先に立ち上がったのは西門さんだ。 「これから行くクラブって、どこにあるんです?」 桜子がナプキンで口元を押さえながら聞いている。 「ん?あそこ」 そう言って美作さんが指差したのは、このレストランの目の前。 通りを1本隔てたすぐそこだったのだ・・・・・。
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