道明寺邸を出ると、そこには懐かしい顔が待っていた。 「つくし!久しぶり!」 そう言っていきなり抱きついてきたのは・・・・・ 「ト、トーマス!?」 そう、あのトーマスだ。 うれしそうに人懐こい笑顔を見せるトーマス。 「またつくしに会えるなんて、本当にうれしいよ」 「びっくり・・・・まだこっちにいたの?」 「1度はドイツに帰ったみたいですよ」 と言ったのは桜子。滋さんも隣でニコニコしている。 「うん、そう。でもおもしろくなくってさあ。ここには気の合う仲間もいるし、またここに戻ってきちゃったんだ」 無邪気に笑うトーマス。 なんだか時間が巻き戻ったみたいな感覚を覚える。 変わってないなあ、トーマスは・・・。 「つくし、あの時一緒だった・・・類くんだっけ?彼と付き合ってるんだって?」 「え、う、うん、まあ・・・」 どきっとしてついどもってしまう。 「そっかあ。あの時の類くん、つくしのことすごく大事にしてるみたいだったから、どうなったのか気になってたんだ。そっかあ。でもなんだかちょっと悔しいなあ」 「悔しい?何で?」 あたしの問いに、トーマスはにっこりと笑った。 「だって僕も、つくしが好きだったから」 「は?」 何言ってるんだか、この外人は・・・・ どうせ冗談に決まってると思い、相手にしないでおく。 「全く、とんでもないですよね。面倒見てあげたわたしを差し置いて牧野先輩を好きになるだなんて、どういうつもりかしら」 不本意そうに桜子が言うのを、トーマスは肩をすくめて答える。 「だって桜子性格悪いから・・・」 「な、何ですって!!」 「うわ、ごめん、でも桜子には感謝してるよ。だからいろいろ協力したじゃないか」 「・・・・・・・ま、いいわ。それにしても、牧野先輩って何気にもてますよね」 「もてるって・・・・そんなことないでしょ。誰にもててるのよ」 とあたしが言うと、桜子は思いっきり呆れた目であたしを見つめた。 「あたしもつくし大好きだよォ。いっつも元気もらってる。つくしがもてるの当然だと思うけど」 滋さんまでそんなこと言うもんだから、あたしは思わず照れてしまう。 「な、何言ってるのよ、滋さんまで!あ、あれ、ところで優紀は?」 さっきから姿が見えない優紀とその彼氏。 「あ、あの2人は2人の世界作ってたんで別行動してもらいました」 「え・・・・・」 「大丈夫ですよ。そのほうが向こうもうれしそうだったし。それよりもせっかく来たんですから4人でどこか行きましょうよ。さっきロックフェラーにいったから、次は・・・・」 と、桜子はさっさと歩き出す。 あたしは慌ててその後を追いかけながら。 「あ、ちょっと待ってよ。後から類たちも合流するんでしょ?」 「あ、そうでしたね。どれくらいかかるのかしら?カフェにでも行って時間つぶします?」 「そうしようよ、あたしおなか空いちゃったあ。ケーキ食べたい♪」 滋さんが嬉々として言い、あたし達は滋さんが案内するカフェへと向かったのだった。
「つくし、今度またぼくらの家に遊びに来てよ」 「えー、トーマスの家って、例のあそこ?相変わらず共同生活してんの?」 「そ。メンバーの入れ替わりはあるけど、大体いつも10人から20人くらいがいて、賑やかだよォ。つくしのこと話したら、きっとみんな会いたがるよ」 「んー・・・一応お世話になったしねー・・・」 でも、あの時はトーマスたちのせいで散々な目にもあったのよね。 今となっちゃあ懐かしい思い出だけどさ。 と、それまであたしとトーマスの会話を紅茶を飲みながら聞いていた桜子が口を挟んだ。 「・・・・なんか先輩って、ブランコみたいですよねえ」 「は?ブランコ?何言ってんのよ、桜子」 「いつもユラユラあっちへ行ったりこっちへ行ったりしてて。でも結局は元に戻る、みたいな感じじゃないですか。一番大きく揺れたのは道明寺さんと付き合ってたときでしょうけど・・・それでもいつも傍には花沢さんがいて。花沢さんが支柱の役目をしてしっかりと先輩を支えてくれるからこそ、先輩がどんなに大きく揺れても大丈夫なんじゃないですか?そして、先輩が疲れたときにもしっかりと傍で支えてくれる。先輩と花沢さんは、2人でいたらきっとどんなことでも乗り越えていけそうな気がしますもの」 「桜子・・・・・」 驚いた・・・。 桜子が、そんな風にあたし達のことを見ていたなんて、思いもしなかった。 幼いころに道明寺の心無い言葉で傷つき、屈折した恋愛感情を持ち続けていた桜子。 傷ついてもやっぱり道明寺のことが好きで、あたしもひどいことされたりしたけれど、今はいい友達になれたと思ってる。 「でも、あっちへ行ったりこっちへ行ったりって何?あたしそんなにふらふらしてないよ」 あたしの言葉に、桜子は呆れたように横目であたしを見た。 「よく言いますよ・・・。先輩のそういう無自覚なところはある意味無敵ですよね。あの道明寺さんでさえ敵わないんですもの。花沢さんも苦労しますよ」 「な、何よそれ。類に苦労なんかさせないわよ!」 「はいはい、せいぜいがんばってくださいよ」 ひらひらと手を振り、運ばれたケーキを食べ始める桜子。 強引に話を切り上げられたみたいであたしはちょっと不満だったが、目の前においしそうなケーキが運ばれてきて、あたしも食べることに専念することにした。 「そうだ、類くんも一緒に来れば良いよ。類くんのこともみんな覚えてるよ」 と、またトーマスが元の話に戻す。 「あー、じゃあ類に聞いてみて・・・・」 「あ、無理だと思いますよ」 と、桜子が突っ込む。 「へ?何で?」 「前とは状況が違うじゃないですか。今の花沢さんが、いい顔するとは思えないですもん」 「意味わかんないんだけど・・・前のときは類もおもしろがってたよ?」 「だ・か・ら、前とは状況が違うって言ってるじゃないですか。今は、先輩花沢さんの彼女なんですから。試しに、トーマスがいるときに花沢さんに聞いてみたらどうですか?」 桜子の確信しているかのような言い方に、あたしとトーマスは顔を見合わせたのだった・・・・・。
「ダメ」 30分後、桜子が西門さんに連絡を入れ、3人がカフェにやってきて。 早速あたしは類をトーマスの家へ誘ってみると、むすっと顔をしかめたまま、そう言われた。 ほらね。 とでも言いたげな桜子の含み笑いを見て、あたしは類に詰め寄った。 「何で?前にも行った事あるじゃない」 「今回は行かない。・・・それより、そこ、俺の席」 そう言って類が顎で指したのは、あたしの隣、今トーマスが座っている席だった。 「あ・・・そうか、ごめんよ。じゃ、僕はそっちの席に移るよ」 そう言ってトーマスは、隣の4人がけのテーブル、西門さんと美作さんが座っているほうへ移動した。 類はそのままあたしの隣にすとんと座る。 「類?何かあった?」 この店に入ってくるところから、なぜか不機嫌そうな顔をしている類。 あの後、4人で何かあったんだろうか。 心配そうに顔を覗き込むあたしに、類はちょっと笑って見せた。 「別に、何もないよ。そんな顔しないで」 「そうそう、20分くらい、4人で話しただけ。あいつ忙しいから、すぐに連れてかれちまったし」 そう言って西門さんが笑った。 「そういうこと。なあ、明日はもう帰るけどこの後どうする?どっかで飯食った後クラブでも行くか?」 美作さんが上機嫌で言う。 なんかこの2人だけ、機嫌良いみたい・・・。 「あ、行きたい♪ね、それじゃこれから服買いに行かない?おしゃれしていこうよ」 滋さんが身を乗り出す。 「良いですよ」 「あ、あたし無理。そんなにお金持ってきてないし。このままじゃダメなの?」 「場所にもよるけど・・・あたしの服でよければ貸すよ?つくしいないとつまんないし、みんなでおしゃれした〜い」 滋さんが口を尖らせる。 「でも・・・・」 「良いじゃん、牧野。滋がそう言ってんだし。せっかくだからみんなで行こうぜ」 西門さんがそう言って優しく微笑む。 なんだか妙に優しい気が・・・・ あたしは類のほうを見た。 「・・・類も行く?」 類が面倒くさがって行かないと言うんだったら、あたしも行かないんだけどな・・・と思って聞いてみると、意外なほどあっさりと 「うん。牧野も行こう。服、借りればいいじゃん」 と言われ・・・・ こうなったら、もうあたしに断る理由はなくなってしまうので、ここはもう滋さんの言葉に甘えさせてもらうことにした。 コスプレ好きの滋さん。 どんな服を貸してくれるのやら、一抹の不安を抱えつつ、あたし達はカフェテリアを後にした・・・・・
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