***ブランコ vol.22***



 牧野が部屋から出て行くと、早速司が口を開いた。
「で?何なんだよ?」
 ちょっとイライラとしたその口調に、あきらが場の空気を和らげるように言った。
「あせんなよ、司。たいしたことじゃねえ。ただ、牧野には聞かれたくなかっただけだ」
「牧野には・・・・ってことは、あいつに関係のあることなんだろ?」
「お、さすが。馬鹿なくせに牧野のことになると鋭いな」
「総二郎、てめえ!!」
 総二郎の言葉にカッとなって掴みかかるのを、またあきらが慌てて制する。
「おい落ち着けって。総二郎も、事を荒立てるようなこと言うなよ」
 あきらの言葉に司は舌打ちしてその手を引っ込め、総二郎も肩をすくめて両手を挙げた。
「ワリイワリイ。ついいつもの調子で・・・・」
「ったく・・・・。あのな、司。今言っとかねえと後で面倒くせえことになるかもしれないと思って、総二郎と相談したんだ。類には話したんだが・・・・」
 あきらが言いかけたとき、司が口を挟んだ。
「もしかして、お前らが牧野に惚れてるってことか?」
 その言葉に、俺たち3人はそろって固まった。
「んだよ、その顔」
「・・・・・って、司、そのこと・・・・」
 あきらが何とか口を開くが、言葉が続かない。
 まさか、司が気付いてただなんて・・・・・
「いつから、気付いてた?」
 俺の問いかけに、司は肩をすくめた。
「いつからって・・・んなの覚えてねえよ。高校生のころから、そうだったろ?あきらは年上の女しか相手にしないくせに、牧野には一目置いてた。子供っぽい女は面倒くさいって嫌がってたくせにな。総二郎は女たらしのクセに、牧野には暴言吐いてたろ。どんなに気にいらなくったって、あの海って女にさえ遠慮してはっきり物言えなかったやつがよ。牧野の前では素直だったじゃねえか。2人とも類みたいにあからさまに態度に出してなかったってだけで、好きだったんだろ?ずっと」
 ・・・・・・・・・・・・・・驚いた。
 俺は、最近になるまで2人の気持ちには気付かなかった。
 確かに言われてみれば司の言うとおりだけど、牧野は仲間だから・・・2人にとっても友達だからって、そういう風に思って何の疑問も持ってなかった。
 おそらく、2人にとってもそうだろう。
 少なくとも、高校生のころは自分でも自覚してなかったんじゃないだろうか・・・。
 司と別れて、牧野がフリーになったことで、急に2人の中で何かが弾けたんだ・・・・・。

「で?何だよ、話ってのはそれか?」
 固まっていた俺たちは、司のその言葉で我に返った。
「あ、いや、そうなんだけど・・・・・参ったな。お前がそうくるとは思ってなかった」
 あきらが頭をかく。
「全く・・・・予想のつかないやつだぜ。まあでも司がそれ知ってるんだったら話が早い。つまり、そういうことだ。俺もあきらも牧野が好きで、諦められない。牧野の気持ちはわかってるけど、どうにも出来ない。もちろん俺もあきらも牧野の幸せを望んでるけど」
「それでも諦めたくないってか・・・・・・俺とおんなじだな」
「司・・・・・」
「俺だって、まだ牧野が好きだ。だけど・・・・・・・今、俺にとって仕事はすげぇ大事なんだ。牧野の危機に駆けつけてやることはできても、ずっと傍にいてやることはできねえ。それでも、気持ちがつながっていれば大丈夫だと思ってた。変わったのは俺なのか、あいつなのか・・・あいつの気持ちが類に向いてるのに気付いてたのに、俺は何にも出来なかった。いや・・・しようとしなかったんだ。仕事が忙しいのを理由に、ことを先延ばしにして・・・結局手遅れになっちまった」
 苦笑いしながら人事のように話す司の表情には、後悔が滲んでいた。
「あん時のこと、後悔はしてるけど・・・たぶん、今でも同じことしてたと思うよ。俺から仕事は切り離せねえ。たぶん変わったのは俺だな。俺は、牧野が幸せになってくれるならそれで良い。相手が類でも総二郎でもあきらでも、俺にとっちゃあおんなじだ」
 そう言ってにやりと笑う。
 その顔はもういつもの司の顔で・・・・・
「牧野が良けりゃ良いってこと?」
 俺の言葉に、さらに笑みを深くして、言う。
「ちょっと違う。牧野の相手がお前らの中の誰かなら良いってことだ。お前らの中の誰かと一緒になりゃあ、俺と牧野の距離は変わらねえ」
 その言葉に、俺たち3人はまた固まる・・・・・。
 やっぱり司は最強だ・・・・・。


 その後、部屋に現れた秘書に司は攫われるように連れて行かれ、部屋には俺たち3人が残された。

 「全く・・・あいかわず嵐のような男だな」
 あきらが呟いてソファーに体を静めた。
「けど、話はついたぜ。司は、牧野の相手が俺たちのうち誰でも良いってさ」
 総二郎がにやりと笑うのを見て、思わずむっとする。
「・・・・牧野と付き合ってるのは俺だよ」
「だけどまだ結婚したわけじゃない。大体、司と付き合ってたときに堂々と告白して牧野の傍にいたのは類、お前だろ。結果的に牧野とうまくいった。おっと怒るなよ。事実だろ。俺とあきらは、あのときのお前と似たようなもんだ」
「・・・・・牧野に言うつもり?」
「いや、それはまだだ」
 あきらが冷静に言った。
「司との話にけりがついたばかりで、また新たな問題が発生したんじゃ牧野が気の毒だ」
「そういうこと。今日は、司と話がしたかったんだ。あいつが今でも牧野のことを想ってることはわかってたし。あいつにちゃんといっとかねえと俺たちもスタートが切れないってことだ」
 そう言って総二郎は、俺を見て微笑んだ。
「心配すんなよ。牧野の幸せを願ってるってのは本当だから、あいつを泣かせるようなことするつもりはねえよ。それに、お前と友達止めるつもりもねえ。無理やりあいつを奪ってやろうとか、そんなことは考えてねえから」
「・・・・わかった。だけど、俺は絶対牧野を譲ったりしないよ。牧野だけは、誰にも渡さない」
 俺の言葉に、あきらと総二郎は顔を見合わせて笑った。
「んなことは百も承知。だけど俺たちも諦めない。手ぇ抜くつもりはねえからな」
「正々堂々とぶつかってってやるから、覚悟しとけ」

 俺たち3人の間に、見えない火花が散った。
 
 これからが、スタート。 
 まだまだ気の抜けない日々が続きそうだ・・・・・






  
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