「牧野、大丈夫?」 類が、心配そうのあたしの顔を覗き込む。 「大丈夫・・・。ちょっと緊張してるだけ」 そう言って頷いて見せた。 道明寺の邸。 あたし達はその中の1室で道明寺が現れるのを待っていた。 美作さんの言うとおり、ここを尋ねてきたあたし達はあっけないほどすんなりとここまで通され、返って拍子抜けしてしまったくらいだった。
あたしと類、そして美作さんと西門さんがここまで来ていた。 他のメンバーは今日はN.Y.観光を楽しんでいる。 あたし達も、ここでの話が終わったら合流する予定なのだが・・・・。
ガチャリ。 部屋のドアが開けられる音に、あたしの心臓が飛び上がる。
ゆっくりと開かれる重厚な扉。 そこへ入ってきたのは・・・・・。
「司」 西門さんが声をかける。 入ってきた道明寺はあたし達を見渡し、にやりと笑った。 「なんだよ、本当に全員できやがったのか。暇なやつらだな」 憎まれ口もなんだか懐かしい。 道明寺と会うのは2ヶ月ぶりだ。 前に会った時は、別れ話だったけれど・・・・・。 「で?今日はなんだよ。ワリイけど、あんまり時間がねえ。手短に頼むぜ」 そう言って道明寺は中央のソファーに座った。 なんだか以前よりも貫禄が出たような気がする。 「あの、道明寺・・・」 あたしは道明寺の正面に立った。 道明寺の鋭い視線があたしを捕らえる。 「あたし・・・今、類と付き合ってるの」 「・・・・そうか」 「それを言いたくて・・・何度も電話したんだけど・・・」 「知ってるよ」 あたしの言葉に、道明寺は肩をすくめて答えた。 「司・・・・」 類が何か言いかけるのを、道明寺は片手で制した。 「待て。・・・あのな、いくら忙しくたって携帯の着信履歴くらい見るし、寝てねえわけじゃねえんだからかけなおす時間くらいあったよ」 あたしは驚いて目を見開いた。 「な!?じゃ、じゃあ何で!!」 「・・・・電話で、済ませられる話じゃねえだろ」 「!!」 道明寺の真剣な声に、あたしは言葉が出なかった。 「少なくとも俺にとっては、そうだ。お前と類から同時期に何度も着信がありゃあ、何が言いたいのか大方の想像はつく。だけど俺は、お前と類に直接会って、聞きたかった。だから、会う時間を作れたらこっちから呼び出してやろうと思ってたんだが・・・・あきらたちが」 そう言って道明寺は美作さんたちに視線を移した。 「絶対に時間を作れって。さもないと・・・・お前が不幸になるって」 「あ、あたし?何で・・・・」 「しらねえよ。まあ俺も、何とか時間を作らなきゃと思ってたからな。ちょうど良かったんだ」 道明寺はそう言ったけど・・・あたしは首を傾げた。 あたしが不幸になるって、何?何で美作さんがそんなこと? 訳わかんないけど・・・それもあたしと道明寺がちゃんと話せるようにするため・・・ってこと? 類を見ると、類は不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、美作さんたちを睨んでいた。 な、何・・・・・?類が怖いんだけど・・・・・ 「類」 道明寺の声に、類が道明寺を見る。 「牧野を・・・幸せに出来るのか?」 「・・・ああ。幸せにするよ」 「・・・泣かせるような事、するなよ。牧野を不幸にするやつは、俺がぜってえゆるさねえ」 「わかってるよ」 「道明寺・・・・・」 「牧野・・・・お前には、幸せになる権利がある。俺っていう最高の男が、保証してやる」 いつものように自信に満ち溢れた顔でそう言って、あたしの手を握る。 あたしは零れそうになる涙を堪えながら、その手を握り返した。 「ありがと・・・・・あたし、幸せになるから・・・・」 「あたりまえだ。もしも類がお前を不幸にしやがったら、俺がぶっ殺してやるよ」 「ぶ、物騒なこと言わないでよ!」 あたしが慌てて言うと、道明寺は声を上げて笑った。 明るく、吹っ切れたような笑い声。 それを聞いて、あたしも漸くほっとできた気がした・・・・・。
「ところで。類と牧野の用件はわかったけど、おめえらはなんだよ?」 道明寺が再び美作さんと西門さんを見て言った。 「ああ・・・・あ、ちょっと待て」 西門さんが何か言おうとして・・・ポケットの携帯が鳴り出して、それを取った。 「ああ、俺・・・・・わかった」 簡単なやり取りですぐに切ってしまうと、西門さんはあたしを見た。 「牧野。お前、もう行け」 「は?」 突然話を振られ、あたしは訳がわからない。 「滋たちがここの前で待ってる。あいつらと合流しろよ」 「俺も行って良いの?」 と言う類の声に、美作さんが口を開く。 「類はここにいろ。4人で話がしたいんだ」 一瞬の沈黙。 「あの・・・・」 あたしが口を開くと、西門さんがそれを遮るようににっこりと笑って言った。 「そんな顔すんな。久しぶりに会ったから幼馴染4人で話がしたいだけだよ。お前も、気ィ張ってて疲れただろ?あいつらとゆっくりして来いよ」 「でも・・・・」 「牧野」 類が、あたしを見てにっこりと笑う。 「心配ないから」 「・・・・・わかった。じゃ、あたし行くね。・・・・道明寺、ありがとう。また・・・・」 「おお、またな」 道明寺があたしにひらひらと手を振る。
そうして、あたしは後ろ髪を引かれながらも、邸を後にしたのだった・・・・・。
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