「ねえ、あたしティファニー行きたいんだけど」 「待ってくださいよ、あたしその前に行きたいところが・・・」 「おいおめえら、勝手な行動すんなよ!」 空港に着くなり、ばらばらに行動し始めるメンバーに檄を飛ばす美作さん。 どこにいても変わらぬ光景に、あきれてしまうが・・・ あたしの心中はそれどころではなく。 「おい、牧野しっかりしろよ」 西門さんに、ぽんと頭をはたかれ、はっとする。 「今からそんな緊張した顔してんなよ。とりあえず先にホテルだ。そっからは俺たちに任せてお前は心の準備だけしとけ」 「うん・・・・」 西門さんの言葉にあたしは頷くが・・・ どうしても昔の記憶がよみがえる。 ちゃんと会えるんだろうか・・・・・ 不安な表情のままのあたしの肩を、類がそっと抱いてくれる。 「大丈夫。俺が着いてるよ」 類の、いつもと変わらぬ優しい笑顔にちょっと安心する。 「うん」
-akira- 「気に入らない」 ホテルについて部屋に入った途端、類が履き捨てるように言う。 「おい、類・・・・」 なだめようとする俺からふいと目を逸らす。 「あのなぁ、しょうがねえだろ、司に会って話すまではお前と牧野、同室にするわけにいかねえだろ」 「何で?」 このふてくされようは、俺たちの策略のせいだ。 ホテルの部屋は全部で3部屋。 1つには優紀ちゃんと優紀ちゃんの彼氏。 2つ目には牧野、滋、桜子の3人。 3つ目には俺たち男3人が泊まる。 類としちゃあ、当然牧野と同じ部屋に泊まる気でいたわけだから、ふてくされるのも当然だが・・・。 「さっきも言ったけど、今日は司に会えねえ。ワシントンに行ってんだ。帰ってくるのは明日。明日は絶対に話せるから話がつくまで待てよ。1日くらい我慢できるだろ?今までだってずっと待ってたんだ」 俺の話を黙って聞いてた類は、しばらく黙った後、じろりと鋭い視線で俺たちを睨んだ。 長いこと幼馴染をやってるが・・・ こんな類を見るのは初めてだ。 俺の背中を嫌な汗が流れる。 隣にいる総二郎も同じだろう。類と視線を合わさずあさっての方向を見ている。 「・・・・・・・・・・・・何考えてんの」 「・・・何って・・・」 「俺が、2人の気持ちを知らないとでも?お前らが牧野に惚れてることくらい、知ってる」 類にはっきりと言われ、俺たちは溜息をついた。 「だろうな」 と総二郎が肩をすくめる。 「お前が気付いてないわけはないと思ったよ」 「で?何企んでんの」 類の言葉に、俺と総二郎はちらりと視線を交わした。 「・・・・それは、まだ言うわけには行かない」 総二郎が答える。 「明日・・・司に会いに行って。お前と牧野の話が終わったら、俺たちも司とお前に話がある。そのときにわかるよ」 「・・・・・・・・わかった。そのときに聞かせてもらうよ」 そう言うと、類は部屋を出て行った。
ドアがばたんと閉まると、俺たちは同時に息を吐き出した。 「・・・・・・・あいつのあんな顔、初めて見たぜ」 そう言って総二郎が手近にあったソファに体を沈める。 それに俺も頷き、溜息をついた。 「ああ・・・。明日のことが心配になってきたぜ・・・・・」 「おい、何言ってんだよ!言い出したのはあきらだぜ!」 「わかってるよ」 総二郎の剣幕に、俺は思わず顔をしかめる。 「仕方ねえだろ、こうでもしなきゃ・・・・誰かさんは抜け駆けするし」 「ふん。あきらに言われたかねえよ。最初に抜け駆けしたのはおめえだろ」 俺とあきらの視線が一瞬混じりあい、火花が散る。
あの日・・・・・・ 仕事の途中に車で牧野のバイト先の居酒屋を通って。 ちょうど時間的にもうすぐ牧野が来るころだろうと思って、少しの間そこで車を止めてもらった。 そこへ現れたのが、総二郎の車から降り立つ牧野だった。 何で総二郎と・・・・・?
笑顔で店の中に消える牧野。 それを切ない表情で見送る総二郎。 あんな総二郎の顔を見るのは初めてで・・・・思わず声をかけそびれた。 だけど黙っていることも出来なくて。 翌日、俺は総二郎と話をしたんだ・・・・・。
「まさかあの時、あきらもあそこにいるなんてな・・・よくよく俺たちって気が合うよな」 自嘲気味に言う総二郎に、俺は肩をすくめた。 「高校生のときから、俺らはずっと牧野を見てきてる。司や類と、同じようにな。あんな強烈な女、2人といねえ。こうなることは時間の問題だったんだよ」 「確かに・・・。諦めようと思って簡単に諦められるもんでもねえ。だから、ここまで来たんだもんな。もう覚悟はできてる」 そう言って総二郎はにやりと笑った。 それを見て俺も笑みを返した。 「ああ。もう後戻りは出来ねえ。やれるだけのことはやる。俺たちにはそれしかねえよ」 そうして俺たちは、拳をつき合わせた。 幼馴染という関係は一生変わらない。 だけど俺たち4人の中に牧野つくしという女が入り込んできたときから。 微妙に変わり始めていたんだ。 それは必然。 もう誰にもそれを止めることなど出来ない。 だから、俺たちも前に進む。 たとえこの先にあるのが断崖絶壁だったとしても・・・・・。
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