***ブランコ vol.19***



 「ねえ、あたしティファニー行きたいんだけど」
「待ってくださいよ、あたしその前に行きたいところが・・・」
「おいおめえら、勝手な行動すんなよ!」
 空港に着くなり、ばらばらに行動し始めるメンバーに檄を飛ばす美作さん。
 どこにいても変わらぬ光景に、あきれてしまうが・・・
 あたしの心中はそれどころではなく。
「おい、牧野しっかりしろよ」
 西門さんに、ぽんと頭をはたかれ、はっとする。
「今からそんな緊張した顔してんなよ。とりあえず先にホテルだ。そっからは俺たちに任せてお前は心の準備だけしとけ」
「うん・・・・」
 西門さんの言葉にあたしは頷くが・・・
 どうしても昔の記憶がよみがえる。
 ちゃんと会えるんだろうか・・・・・
 不安な表情のままのあたしの肩を、類がそっと抱いてくれる。
「大丈夫。俺が着いてるよ」
 類の、いつもと変わらぬ優しい笑顔にちょっと安心する。
「うん」


 -akira-
 「気に入らない」
 ホテルについて部屋に入った途端、類が履き捨てるように言う。
「おい、類・・・・」
 なだめようとする俺からふいと目を逸らす。
「あのなぁ、しょうがねえだろ、司に会って話すまではお前と牧野、同室にするわけにいかねえだろ」
「何で?」
 このふてくされようは、俺たちの策略のせいだ。
 ホテルの部屋は全部で3部屋。
 1つには優紀ちゃんと優紀ちゃんの彼氏。
 2つ目には牧野、滋、桜子の3人。
 3つ目には俺たち男3人が泊まる。
 類としちゃあ、当然牧野と同じ部屋に泊まる気でいたわけだから、ふてくされるのも当然だが・・・。
「さっきも言ったけど、今日は司に会えねえ。ワシントンに行ってんだ。帰ってくるのは明日。明日は絶対に話せるから話がつくまで待てよ。1日くらい我慢できるだろ?今までだってずっと待ってたんだ」
 俺の話を黙って聞いてた類は、しばらく黙った後、じろりと鋭い視線で俺たちを睨んだ。
 長いこと幼馴染をやってるが・・・
 こんな類を見るのは初めてだ。
 俺の背中を嫌な汗が流れる。
 隣にいる総二郎も同じだろう。類と視線を合わさずあさっての方向を見ている。
「・・・・・・・・・・・・何考えてんの」
「・・・何って・・・」
「俺が、2人の気持ちを知らないとでも?お前らが牧野に惚れてることくらい、知ってる」
 類にはっきりと言われ、俺たちは溜息をついた。
「だろうな」
 と総二郎が肩をすくめる。
「お前が気付いてないわけはないと思ったよ」
「で?何企んでんの」
 類の言葉に、俺と総二郎はちらりと視線を交わした。
「・・・・それは、まだ言うわけには行かない」
 総二郎が答える。
「明日・・・司に会いに行って。お前と牧野の話が終わったら、俺たちも司とお前に話がある。そのときにわかるよ」
「・・・・・・・・わかった。そのときに聞かせてもらうよ」
 そう言うと、類は部屋を出て行った。

 ドアがばたんと閉まると、俺たちは同時に息を吐き出した。
「・・・・・・・あいつのあんな顔、初めて見たぜ」
 そう言って総二郎が手近にあったソファに体を沈める。
 それに俺も頷き、溜息をついた。
「ああ・・・。明日のことが心配になってきたぜ・・・・・」
「おい、何言ってんだよ!言い出したのはあきらだぜ!」
「わかってるよ」
 総二郎の剣幕に、俺は思わず顔をしかめる。
「仕方ねえだろ、こうでもしなきゃ・・・・誰かさんは抜け駆けするし」
「ふん。あきらに言われたかねえよ。最初に抜け駆けしたのはおめえだろ」
 俺とあきらの視線が一瞬混じりあい、火花が散る。


 あの日・・・・・・
 仕事の途中に車で牧野のバイト先の居酒屋を通って。
 ちょうど時間的にもうすぐ牧野が来るころだろうと思って、少しの間そこで車を止めてもらった。
 そこへ現れたのが、総二郎の車から降り立つ牧野だった。
 
 何で総二郎と・・・・・?

 笑顔で店の中に消える牧野。
 それを切ない表情で見送る総二郎。
 あんな総二郎の顔を見るのは初めてで・・・・思わず声をかけそびれた。
 だけど黙っていることも出来なくて。
 翌日、俺は総二郎と話をしたんだ・・・・・。


 「まさかあの時、あきらもあそこにいるなんてな・・・よくよく俺たちって気が合うよな」
 自嘲気味に言う総二郎に、俺は肩をすくめた。
「高校生のときから、俺らはずっと牧野を見てきてる。司や類と、同じようにな。あんな強烈な女、2人といねえ。こうなることは時間の問題だったんだよ」
「確かに・・・。諦めようと思って簡単に諦められるもんでもねえ。だから、ここまで来たんだもんな。もう覚悟はできてる」
 そう言って総二郎はにやりと笑った。
 それを見て俺も笑みを返した。
「ああ。もう後戻りは出来ねえ。やれるだけのことはやる。俺たちにはそれしかねえよ」
 そうして俺たちは、拳をつき合わせた。
 
 幼馴染という関係は一生変わらない。
 だけど俺たち4人の中に牧野つくしという女が入り込んできたときから。
 微妙に変わり始めていたんだ。
 それは必然。
 もう誰にもそれを止めることなど出来ない。
 だから、俺たちも前に進む。
 たとえこの先にあるのが断崖絶壁だったとしても・・・・・。




  

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